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流れゆく世界の中で
「...あ!聴こえた!」
「んぁ?」
「ほら!ほらほら!ピアノの音!」
「ん~?聴こえるかぁ?...あ!...んん?」
腕を組んで首を傾げる謙ちゃんの横で、あたしは顔がニヤけるのを抑えきれずに盛大にニヤニヤニヤけた。
だって、この優しい音はあたしの大切な優羽の幸せの音だから。
仲直りした優羽と松木君はあれから毎日、秘密の場所で会ってはこの優しい音を奏でて幸せな時間を過ごしている。あたしは おじゃま虫にならないように、でも、やっぱり気になって近づけるギリギリの範囲にある場所で優しい音に耳を傾けている。
うん。過保護上等。
「ん~、まぁ、良かったんじゃねぇの?あの2人似合ってるし」
あたしの膝枕でふぁぁと大きな欠伸をする愛しい人の少し硬めの髪の毛を撫でながら、そうね、と返事をする。
優羽は笑っている。いつも楽しそうに。
出会ったばかりの2人はまだどこかぎこちなくて、遠慮もあって、でも、ゆっくりと確実に確かな絆も生まれている。ゆっくりでいい。2人のペースで。困ったことがあったら、あの2人は話し合って解決してまた絆を強くしていく。
「大好きよ、謙ちゃん」
人を好きになる素晴らしさを知ったから。
「いや。俺の方が好きだし」
「うふふ。嬉しい」
大きな手が伸びてきて、あたしの頬を撫でてくれる。
その手を握りしめ、ぬくもりを楽しむ。
「あ!今週末、家に来いって。虹太兄ちゃんが」
「...なんで?」
「なんかね、ゲーム買ったから勝負したいんだって」
その言葉に、謙ちゃんは勢いよく立ち上がる。
「え?あのゲーム買えたの?あの人!すげ!どんだけ強運なんだよ」
「買えたのは須田さんなの。で、お泊まり会して朝までゲームしたいんだって。ボコボコにするって言ってた」
「はぁぁ?!上等だ。受けて立つ」
何だかんだで仲良しな恋人と兄にほっこりした気持ちになる。
人を好きになる素晴らしさを、人はこの流れゆく世界の中で知ったから。
どうか、あたしの大切な人たちがいつまでも笑顔でいられますように。
終わり。
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