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音楽室の前で。

「…ま、松木君?どこ行くの?」 「…ちょっと話がしたいです。すみません」 振り向いた松木君は、眉毛を下げて笑うと俺の手を少し強めに引いて誘う。 手を繋いだままの俺たちの背後では借り物競争の賑やかなアナウンスと楽しそうな熱気が伝わってきた。そのせいか、誰も手を繋いでいる俺たちに気づかない。熱気のある音を聞きながら辿り着いたのは…音楽室前の裏庭だった。 「…」 少し前の出来事なのに、遠い昔のように懐かしさと…会えない日々の切なさが思い出されて胸がいっぱいになる。 「すみませんでした」 繋いだ手に力がこもって、勢いよく振り返った松木君はそう口にした。 「…え?」 「…すみませんでした」 今度は深々と頭を下げて。 松木君の滅多に見れないつむじを見ながら、俺はどうしていいのか分からず立ち尽くす。 「ま、松木君?」 「…大切にするって決めたのに、俺、先輩の事守れなくて…。自分で勝手に傷ついて、勝手に…離れてしまって。…年下だから頼られないのかとか色々考えて…」 「ち、違うっ!松木君は頼りになるよ!...俺が自分でどうにかしなきゃって思って。松木君にいっぱい勇気貰ったから」 「...先輩」 「た、大切だから。俺にとっても松木君は大切な人だから!一緒にいられる事が嬉しくて、その時間もすごく大事で」 ぎゅうっと松木君の手を両手で握りしめる。 「俺の方こそ、ごめんなさい。心配かけさせたくなかったなんて言い訳になっちゃうけど...松木君とずっと一緒にいるために頑張らなきゃって」 強くなりたくて。 隣で一緒に笑いあっていたくて。 力になりたいって言ってくれた優しい人。 大好きな人。 「...傷つけて...ごめんなさい」 「違うよ、先輩」 握りしめていた手を解いて、優しい力で握り返されて、そのまま腕を引かれて抱きしめられる。 「謝らないで」 「…うん」 「大好きです」 「…っ。…うん」 「大好き」 「お、俺もっ!」 松木君の胸に顔を埋めてぎゅっとしがみつく。 「俺もっ…大好きっ」 「…うん」 お返しとばかりに、松木君も抱き締め返してくれる。

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