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来てください。

「先輩。一緒に来てください」 そう言って、松木君は俺に手を差し出す。 「……へ?」 一瞬、何が起こったのか頭で理解できなくてただ、松木君を見上げた。 「…ちょっ、優羽!?」 慌てた凛に背中をばしばし叩かれ、俺はその勢いに押されるように松木君の手をとる。 きゃー!!黄色い声が聞こえる。 「走っても大丈夫ですか?」 その問いに、俺は何度も頷いて松木君に引かれるように走り出した。大きな手は力強く俺を掴み、でも優しく気遣ってくれて早歩き程度。俺は縺れそうになる足を必死に動かして、松木君の後をついて行く。 大きな背中。 大きな...温かい手。 不意に目頭が熱くなったけど、誤魔化すように奥歯を噛み締めた。 そして、あっという間にゴール。 『はーい、4位ね!途中動きが止まったけどどうしたの?凍りつくような内容だったの?』 係の人が笑いながら松木君から紙を受け取る。 そうだ。内容はなんだったんだろう。知らずに着いてきたけど良かったのかな。松木君と俺との接点なんて、今は無いに等しい。 「いえ、…とても良いお題です」 そうなんだー、と言いながら係の人は紙に目を通し俺に向かってニコッと微笑む。釣られて俺も微笑む。ちょっとぎこちなくなってしまったけど。 『えーっと、お題は「笑顔の素敵な人」です!…うん、可愛いね』 係の人は俺の顔を覗き込んでさらに笑うと、俺の頭をくしゃくしゃと撫でた。 ー笑顔の素敵な人ー そのお題に頭がついていかなくて、一瞬後に顔が熱くなる。 え、笑顔が素敵って…えぇ?俺が? オロオロと松木君を見上げると、にっこり笑う彼と目が合う。久しぶりに見る至近距離での笑顔にまた顔が熱くなる。顔を上げては松木君を見上げて、微笑まれては俯いてを何度か繰り返し、にっこりと微笑んだまま、松木君は撫で続けている係の人の手を退けてくれた。 ボサボサ頭の俺はどうしていいのか分からないでいると、全員がゴールしたようで退場を促された。テントに戻れると分かるとホッとした。 「…ありがとうございました」 テントに戻る途中、松木君がコソッと言う。それに俺は首を振って応えて凛達の所へ戻ろうとしたら…またしても手を取られた。 そして、またしても歩き出す。

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