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動き出します。
「あ!次で最後だね」
「みたいだなー。…お、イケメンでるぞ優羽」
山根の心のこもってないセリフに顔を上げると松木君がスタートラインに立っていた。
並んでいる他の人より頭一つ分大きいので目立つ。
「…ほんとだ!イケメンだ!松木くーん!頑張ってー」
凛だけでは無く、至る所から松木君を応援する黄色い声が聞こえる。
「っ!おい!凛は見なくて良い!」
「イケメンはイケメンよ?もちろん謙ちゃんが一番だけど!…ね?優羽?イケメンよね」
凛は眉毛を下げて笑う。
さっきまで繋いでいた手の温もりを思い出して、俺は頷いた。無意識だ。
一斉に走り出す選手、特に松木君から目が離せない。足の長さをフルに活用して松木君は一番で紙を取る。そして、立ち止まった。その間にも後続の選手が紙を取り、目当ての人や物を探して再び走り出す。なのに、松木君は動かない。
「んー?どうしたのかな?」
凛の心配そうな声。凛だけでは無く、動かない松木君に周囲もざわめき始めた。
ふざけた内容がほとんどだが、無理強いするようなモノは書かれていないはずだ。あくまで皆が楽しめる内容のものばかりのはず。
松木君が動き出した。
周りを見渡し、目的を見つけたようでゆっくりと走り出す。
「…ん?あれ?」
凛がおかしな声を上げる。
「…え?松木君、こっちに向かって…」
その声を聞き終わる前に、俺の前に松木君が立ち止まった。
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