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I fall in love:落としてみせる!⑭
目を閉じて合掌をしていると、
「山上、あのさ」
お墓に向かって、翼が話しかける。俺は真剣な横顔を、そっと見つめた。
「水野ってエロいのな」
何を言い出すのかと思ったら、このコってば!
「ちょっ、何お墓に向かって、ハズカシイこと言ってんだよ」
「今更照れるな、事実だろ」
しらっと真顔で言いきる翼。俺は激しく赤面したまま、固まってしまった。
昨晩初めて、夜を共にした。求める俺に翼は、しっかりと応えてくれたのだけれど……
実際は、そう思っていたなんて――
「山上だって知ってるよな。そんなこと」
「ちょっ、そんなくだらないことを言うために、ここに来たのかい?」
ジロリと翼を睨んだ。赤面したままだから、効果は薄いだろうけど。
「俺は山上に、お礼とお願いに来たんだ」
「お礼とお願い?」
その不思議な言葉に、首を傾げるしかない。
そんな俺をしっかり無視して、お墓に向き直り、姿勢を正す翼。
「山上、アンタが死んでくれたお蔭で、水野と出会うことができた。ありがとう、感謝する」
「…………」
「悪いが俺が生きている間は、水野を独占させてもらうから。ま、アンタはすっげぇ、イヤだろうけどさ」
「翼……」
「この先、何があるか分からないけど、アンタの代わりに全力で、水野を守るから。だから頼みがあるんだ」
そして頭を、ペコリと下げた。
「水野が死んだとき、ハゲててデブでどうしようもないオヤジになっていても、水野を迎えに来てやってほしいんだ」
「ちょっと、何それ……」
翼のお願いに、目頭がじわりと熱くなった。
……一体、何を考えてるんだ?
「水野はお前のこと、すっげぇ好きだったと思うんだ。夢でうなされれてる姿、昨日見てるし……。俺といてもアンタの影を、どこか捜してる気がするし」
「そんなことないよ!」
「俺には分かるんだ。水野が好きだから、分かるんだって!」
頭を上げた翼が、俺の顔を見る。
「水野、左手出せよ」
その台詞に、心がキュッとなった。以前山上先輩に言われて、左手薬指を強く噛まれた記憶――
「……もしかして、噛むの?」
おどおどしながら言うと、眉間にシワを寄せて睨む。
「山上は、噛んだのかよ?」
「う、うん……。噛み癖ある人だったから」
「やっぱ、思い出してんじゃねぇか。まったく……水野の肌、色が白いから痕つけたくなるの、分からなくはないけど」
口を尖らせながら、強引に俺の左手をぎゅっと握る。その手がとても温かくて、心地良かった。
「ガキはガキなりに、形に残る物を贈るんだよ」
そう言って、ズボンのポケットから指輪を取り出し、薬指にスッとはめてくれた。
「受験勉強しながら、こっそりバイトして貯めた金で買った物だから、安物で悪いんだけど。受け取ってくれないか水野」
(――もしかして、その無理がたたって、風邪を引いたというのだろうか?)
「イヤだと言っても、もうはめちまったからな。俺が学校に行ってる間、浮気すんじゃねぇぞ」
ここ数カ月で、一気に大人になった翼。俺は、どうしていいか分からないよ。
「うっ……ありがとう。大事に、するね……」
どうしていいか分からず、左手を右手でしっかり掴んで、泣くことしか出来なかった。胸にこみ上げる想いが溢れ出てきて、体中が喜びでみち震えている。
「おいおい。人前で泣くなんて、みっともないことを、しないんじゃなかったのかよ」
口では文句を言いつつも、しっかりと俺を抱きしめてくれる。
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