46 / 64

Sweet's Beast Whiteday⑤

「こんなエロ魔神が、警察学校で伝説の刑事と言われ、崇め奉られてるなんて、信じられねぇ話だよな」 「エロ魔神って、酷くない?」 「食いつくトコ、そこじゃねぇだろ。伝説の刑事の話のくだり」  モグモグ食べてる俺の額に、デコピンした翼。冷却シートのおかげで、あまり痛くないもんね。 「何か凄いことでもした、刑事の話なの?」 「仕事の出来る巡査を上の力で刑事にしようとしたけど、彼はそれを断り、自力で試験をトップ合格。その後優秀な刑事となり、所轄の汚職事件を華麗に解決した署員がこの界隈にいるんだという話を、学校の先生がしていたんだ。君たちも彼のように仕事に情熱を持って、頑張って欲しいとさ」 「うっ……。それって俺のこと?」  思わず、自分を指差してしまった。脚色されるにもほどがある。 「だろうな。この話を聞いてて俺、思わず吹き出しちまった。ま、変な噂じゃなくて何よりだけど」  そう言って、後ろから抱き締めてきた翼。 「マサに憧れて刑事になるヤツ、いるんだろうな……」 「そんな人、いるのかな?」 「いるかもしれねぇだろ。憧れが実際に会って、好意に変わり……」 「何か、伝説の刑事なみに脚色しているよ」  呆れて振り返ると、真剣な顔をした翼と目が合った。 「その好意に気付かず無視し続けた結果、水野刑事は襲われるのでした」 「酷い話だね。物好きは、翼ひとりで十分です。変なことを言って、俺を悩ませないでよ」 「実際悩んでるのは、俺なんだ。お前が無神経過ぎるんだろ、まったく……」 「そんな」 「政隆をどっかに閉じ込めちまいたいな。誰にも渡せないように」  抱き締めた腕にぎゅっと力が入り、後ろから首筋にキスをしてきた。ゾクリとした甘い衝撃が、体を駆け巡る。 「何か、熱いなお前。大丈夫か?」  唇で体温を知ってしまった翼に苦笑いをして誤魔化したけど、実はちょっと前から熱が上がってきていたのだ。 「うん。ご飯をしっかり食べて、薬飲んで寝ちゃえば、どおってことはないよ」  かき込むようにしておじやを食べ終えると、傍らに置いていた風邪薬が入った袋を颯爽と手に取った。しかしそれを素早く奪い取る翼。 「ちょっと、何するんだよ?」 「お前ドジだから、飲み忘れあったら困るだろ。口を開けて待ってろ。放り込んでやる」  てきぱきと表示通りに薬を出していく姿に、申し訳ない感満載の俺。さっきから、お世話になりっぱなしだから……。 「自分でやるからいいよ。もう」 「ほら、得意の妄想でもしてろ。俺は研修医なんだろ? 今度は内科医か?」  笑いながら、口を開けろとジェスチャーする。ここはお言葉に甘えるとするか。  喜んで口を大きく開けると、手にした錠剤をジャラジャラ入れてくれた。そしてペットボトルの水を口に含み、わざわざ口移しで飲ませてくれるサービス。 「何から何まで、ありがと翼」 「ただ俺は、早く良くなって欲しいだけだから。ほら、ベッドに連れて行ってやる。掴まれよ」  俺の腰と膝裏に腕を通して、お姫様抱っこで優しくベッドに連行してくれる。ベットに下ろされても、翼の首に絡めた腕を離さなかった。 「翼、ホントに」 「謝るなよ。今まで寂しい想いさせて、ごめんな。これからは傍にいてやれるから、安心して寝ろ政隆」  その言葉に絡めていた腕を離して、口元を押さえた。  寂しいなんてひとことも言っていないのに、どうして分かったんだろうか?    俺の横に体をずらして頬杖をつきながら、片手は俺の頭を優しく撫でる。 「俺のことを考えないように、仕事ばっかやってたんだろ? もういい歳なんだから、無理すんなよな」 「ありがと、翼」  何回、ありがとうを言ったかな。ホワイトデーが、サンキューデーになってるよ。 「お前ぽかぽかして、すっげぇ暖かい。人間カイロだ」 「翼もすっごく暖かいよ。何だか瞼が、重くなってきた……」 「俺も……マサの介護に疲れたから……ちょっとだけ、休む……」  ――介護って、看病の間違いだろ!?  あえて、ツッコミを入れるのは止めにした。だって本当に翼は、よく頑張ってくれたんだから。慣れない料理を作ったり、俺のおねだりを渋い顔をしながらも、きちんと聞いて応えてくれたんだしね。 「前はキライばっか言ってたのに、今は翼の方が好き好き言ってるよ。俺ってば、愛されてるなぁ」  気持ち良さそうに寝ている翼に、そっと寄り添った。今日のお返し、どうやって返そうか? 「そもそもホワイトデーに、何をあげていたかな?」  バレンタインのチョコを、自分の母親と妹の二人にしかもらったことがなかったので、お返しはコンビニで売ってる、ホワイトデー用のお菓子の詰め合わせを渡していた。 「むぅ、クッキーとかキャンディなのかな。翼が喜びそうなのをあげたいんだけど……」  考えながらそっと視線を翼の顔に移すと、しっかり目を開けて俺を見ているではないか! 「……っ!!」 「お返しは倍にして返さないといけないから、すっげぇ大変だよな。ま、体でしっかりと払ってもらう予定だけど」 「体で倍にして……?」 「足腰が立たなくなるくらいのを、覚悟しておけよ。だから今は、しっかり休んでおきなさい!」  そんな凄いことを言い放ち、俺の背中をポンポンして寝かせようとする翼に、声を立てて笑ってしまった。たまには、翼のおねだりも聞いてあげないといけないよね。 「分かったよ。でもね昨年翼に言われてから、しっかり足腰の強化したんだ。ちょっとやそっとじゃ、音をあげないから」 「へえ、それは楽しみだな。受けて立とうじゃないか」 「俺だって、負けないからね」  端から見たら可笑しな勝負だけど、これが俺たち流の愛し方。最初からそうだった。  クスクス笑いながらお互い抱き合って、その夜は安眠した。  後日俺が完治してから、しっかり勝負をしたんだけど、皆さんの予想は、どっちに軍配が上がってるんだろうか?  俺、いい歳なんで、一目瞭然だよね。 おしまい このあと、最終章を掲載します。お楽しみに!

ともだちにシェアしよう!