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30YearsLater

30年後。 「平成も終わるんだな」 俺はベッドに腰かけて、サイドテーブルからグラスを取り上げた。 琥珀色のウィスキーを呷る。 あと5分で新年を迎える。 平成最後のカウントダウン。 「ああ、終わる。けど、始まる。来年は一気に突き抜けるぞ」 杏璃が振り返る。 杏璃は窓辺に立ち、眼下に広がる夜景を見ていた。 杏璃は頼もしい。 俺たちが起業し、会社を立ち上げてから十年が経った。 優秀な人材を確保できたおかげで、五年前、会社は急成長をとげた。 今年も快進撃は止まらず昇り調子だ。 「でも、その前に……」 杏璃が艶っぽい笑みを唇に浮かべ、窓辺から離れて近づいてくる。 俺の手からグラスを取り上げ、静かにテーブルに置いた。 どれだけ時間(とき)が流れようと、この関係だけは変わらなかった。 互いの左手の薬指には、プラチナのペアリング。 「綺麗だよ、兄貴」 杏璃の手が俺の洗い髪を撫でる。 アラフィフの俺を、杏璃は相変わらず綺麗という。 シワも増え、髪は黒く染めているし、肌の張りも以前ほどはない。 杏璃に抱かれるのを意識して体を鍛えるから、腹が出てないのがせめてもの救いだ。 互いに体の厚みも増した。 けれど、二人だけの甘い夜は、待てができないのも、見境なく盛るのも変わらない。 「兄貴、愛してる」 杏璃は答えを期待していない。 だから俺も返して来なかった。 魔が差したのか。 30年という時間(とき)の感傷がそうさせるのか。 30年経ったとすぐに言えるのは、杏璃と初めてセックスしたのが平成元年の夏だからだ。 そして、30年間もの間、杏璃に一途だったなんて、我ながら笑える。 杏璃も同じで、浮気も一夜限りの関係すらなかった。 杏璃の執着に負けたとは思っていない。 あの夏に囚われたままなら、俺たちはどちらかが壊れていたはずだ。 時にライバルとして切磋琢磨しながら、紆余曲折も挫折も経てここにいる。 決して平坦な道のりじゃなかった。 杏璃がいなければ成し遂げられなかった。 どんなに有能だろうと、どんなに冷徹な仕事ぶりを発揮しようと。 俺を抱くときは、変わらない杏璃のままだ。 お前がいたから俺はここまで来ることができた。 誓って言える。 「杏璃……」 俺は感慨をもって、その言葉を初めて口にする。 「愛してる」 杏璃は一瞬泣きそうになって。 次に眩しい笑顔をみせた。 「嬉しい、大樹」 そして、その表情(かお)を雄のものへと変える。 外は凍てつくような寒さだろうに、俺たちは熱い。 杏璃の顔が近くなる。 俺は甘美な口づけを受け入れた。 ――――

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