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#21-2

「お前らと初詣来るの、今年で最後になったりすんのかなあ」 鳥居をくぐる間際に突然、友春がそんなふうにぼやいた。那緒は思わず「なんでだよ」と不満げな口調になる。 「トモだって年末年始くらい帰ってくるだろ。来れるじゃん」 「さあね。連絡なんかとらなくなるかもしんねーじゃん、住んでる場所が離れたらさ」 「普段はしなくても、帰ってくるときくらい連絡しろよ」 「お前らだって、ほかにつるむ相手できたら、俺のことなんかどうでもよくなるかもよ?」 なんでそんなこと言うんだよ、と那緒は口をへの字に曲げるが、友春は飄々とかわすばかりだ。さらには、黙って友春の横を歩いていた宗介までもが「確かにな」と言い出した。 「今までだって、何となく、だったしな。毎年やらなきゃなんねー決まりはねえし」 「き、決まりじゃなくたっていいだろ、別に」 「ガキの頃に始めたことだろ。適当なとこでやめてもいいんじゃねーの」 こちらも暖簾に腕押し状態で、いよいよ分が悪くなる。 なにせ、この二人を相手に二対一になって、勝てた(ためし)が那緒には一度もないのだ。 那緒だって、この慣習を毎年とくべつ楽しみにしていたとか、そういうわけではないけれど。 当たり前だと思っていたことがいつの間にか過ぎ去って、ただの思い出になってしまうのが嫌なのだ。 小学生の頃の夏休みにみんなでプールに通ったことのように。学校の廊下でたまたま顔を合わせて「今日もアホ面してんなあ」と小馬鹿にされることのように。 「だって……、だってさ、ほら」 どうしようもなく寂しい気分になってきて、でもそれを素直にそのまま口にするのは、負けっぱなしの那緒といえど、やはり悔しいし抵抗があったので。 ぐるぐる考えた結果、 「うちの母さん、毎年楽しみにしてるし。二人にお汁粉食わせんの」 なんとか二人が折れてくれそうな文言として、咄嗟に思いついたのがそれだった。 その途端、宗介と友春が、ぴたり同じタイミングで那緒を見る。それから二人で無言のまま顔を見合わせて、少しの間があったのち、友春が大袈裟な溜め息をついた。 「ナオママのためなら仕方ないかあ」 「だな、仕方ねえな」 渋々、といった様子で二人が言うので、那緒も「そう! 母さんのため!」と意気込んで同調した。 「これから元日は母の日だと思って!」 「肩たたき券でもプレゼントすんのか」 「カーネーションも持ってけばいい?」 軽口をお手玉のようにぽんぽん投げ合いながら、那緒の家へと続く道を三人、横並びでだらだらと歩いていく。 通り風がひとつ吹き抜ける音に、那緒が顔を上げると、そこに広がるのは冬晴れの青。 高空にすらりと残された飛行機雲は、(ほうき)で掃いたように、端のほうから少しずつぼやけて消えていた。 了

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