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最終話
「勘違いってなんだ」
「井坂さんも俺の事好きなのかな……って」
「そうだが」
「なんでそんなに堂々としてるんですか!」
「お前が教えてくれた事なのに、お前の方が変だ」
そんな言い合いをしていると柴本が小さく溜息をついた。
「あのね、井坂さん。俺が言ってる好きって恋愛の好きなんですよ? それはキスとかそれ以上の事も含めての好きなんですよ?」
柴本は俺の事を抱き寄せるとそのまま顔を近付けた。
「本当にキスしますよ? 舌とか入れますよ?」
その目は少し鋭くなって、その視線が自分に向いていると思うと胸がどくんと撓り体温が上がるのがわかる。そして俺はこの高鳴りの先を知りたいと思った。
「いい、よ」
思ったより声が震えると柴本はまた困った様な顔をしたが、次の瞬間柔らかい感触が唇に触れてすぐ離れた。
「今度は少しだけ口開けて」
掠れた声が響き、言われた通りにするとその隙間からぬるりと舌が入ってきて、その感触にゾクゾクっとして思わず背中に回していた手に力が入る。
「んっ……」
柴本の舌は最初は控えめだったものの、次第に内頬を舐め、歯列をなぞり舌先を吸った。
そして好き放題される頃には俺が酸欠でクタクタになっていてそれを見てまた笑った。
「井坂さんいつもミント舐めてるから、スースーしますね。これ気持ちいい」
俺も同じ事を考えながら胸に顔を埋めると、ぎゅっと抱きしめられた。
「ミント舐めてたら他のところ舐めてもスースーするんですかね?」
試してみます? って言われて返事できずにいると、柴本が少し体を離して俺の顔を覗き込んだ。
「自惚れていいんですね?」
頷くとより一層強く抱きしめられる。
「ありがとう。井坂さん」
その声が少し震えている気がして泣いているのかと心配になったけど、強く抱きしめられたからもっと力を込めて抱きしめ返した。
「何か作りましょうか?」
「うん。卵焼きがいい」
「はい」
「あとジャガイモも食いたい」
「はい」
いつの間にか鳩尾の痛みはなくなっていた。
「髪の手入れも早速今晩から再開しなきゃだめですね」
久しぶりに優しく髪の毛を撫でられて、心の奥底から満たされていく気もした。
そしてその夜。
春から調理師専門学校に通う事にした柴本と二人で将来の夢を決めた。
“三つ星シェフとノーベル賞”
夢は大きいに越した事はない。
それはこの上なくいい組み合わせだと思いながら、俺は覚えたてのキスをした。
終
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