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第8話
足は自然とアパートの方へと向かっていた。いつも留守だったが俺が大学にいる時間なら。
すると予感は的中し、いつも閉まっていた部屋の窓とカーテンが少し開いていて、その隙間から段ボール箱に荷物を詰める柴本が見えた。
「いた……」
でもその瞬間、小石を踏んでしまって小さな物音を立ててしまう。
するとこっちに気付いた柴本が慌てて窓を閉めようとしたので、柵を飛び越え力任せにこじ開ければ、覆い被さるように倒れ込んでしまった。
「痛ぇ!」
「井坂さん! なんで? 大学は?」
「サボった」
「サボった? 研究命の井坂さんサボった?」
声を上擦らせた柴本は俺を起き上がらせるけど、シャツを掴んだまま動かないでいる俺を不思議そうに見つめる。
やっと会えたと思うと、また鳩尾辺りがじくじく痛み始めた。
やっぱり俺はお前がいないとおかしくなる。
「お前がいなくなってから腹が減るんだ」
「なんですか? それ」
「今までは食べなくても平気だったんだ。でも、お前が三食ちゃんと食わすから今までみたいにいかなくなった」
するときょとんとする柴本は首を傾げた。
「それは、飯の事言ってます?」
「飯だけじゃない。お前がちゃんとしてくれないから、また髪がごわごわになった。女子にも言われた」
「そんなの気にしなかったじゃないですか」
うまく言葉が紡げなくて、俯いたまま頭をがしがし掻くと柴本の腕を掴み真っ直ぐに見た。
「お前がいなくなると困る」
すると柴本は目を見開いて俺の腕を掴み返したが、目が合うなりまた逸らす。
「もう嫌いになったのか? だから俺の事を避けたのか?」
「ち、違います」
「お前の兄貴にも人間性に問題があるって言われた。お前もそう思うからか?」
「違います! 兄が井坂さんを研究チームから外すって」
「知ってたのか。安心しろ、お前と一緒にいようがいまいが、俺は外された」
「え? 約束が違う」
「それはいいから。もし俺の事が嫌いでないなら、一緒にいてくれないか」
すると柴本は困った様に首をすくめると、ちらっと俺の事を見た。
「あんまりそんな事を言われると勘違いするのでやめてください」
そんな柴本は幼く見えて少し可愛いと思った。
こんな感情を持つのも初めてだ。
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