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振り返らないまま、俺は足を止めた。
後ろからずるずると乾いた音がする。底が擦り切れた上履きをだるそうに引きずって歩いている奴の姿が容易に想像できた。
どすんと背中に重みがかかる。頭を押し付けているのだろうか。
「死ぬんならいっぺんやらせて」
「お前ホモかよ」
「うん。ホモ」
「……まじ、きっしょ」
「あはは、きしょいでしょ。だから毎日死にたいって思ってるんだけどさーなかなかねー。結局屋上来ても無駄に時間潰して終わっちゃうよねー。シオちゃんはなんで死にたいの?」
「……死にたいから」
「ふうん」
聞いてきたくせに興味無さそうな声だった。
奴の手が俺の前に回る。
そのままカーディガンの裾からワイシャツの下まで手のひらが突っ込まれて、嫌悪感と冷たさに一気に鳥肌が立った。
逃げようと一歩引こうにも奴がいて叶わない。
「、っ…!」
「シオちゃん乳首弱いの?」
「ちげー…」
冷たいからだ。アホ。
俺の反応に気を良くしたのか、奴はそこを摘まんでぐりぐりといじくる。つんつんと叩かれると少し膝が揺れた。
痛くはないが、気持ちいいというのも違う気がする。
「シオちゃんなんて全然タイプじゃなかったのになー」
「……っ」
[でも死のうとしてるシオちゃんすげえの。あの普段究極に冷めたシオちゃんが、あんなエロい顔してんだもん」
「はっ……」
「すげー綺麗でさあ。ぞくぞくした。俺見てるだけでガッチガチ」
尻に押し付けられたモノが、確かにガチガチ。俺はといえばこんなんで勃つはずもなくて、そしてこれだけ自分が大変な状況になってもどこか他人事みたいだった。
後ろから突き飛ばされて転がると奴が後ろから乗っかってくる。
乱暴にベルトを外されてチンコが晒された。寒すぎて縮こまってかわいそう。
しかし奴はそこに触ることはなくて更に脱がされた。
べたべたぬめった液体が尻に垂れて、硬いものが孔の入口に当たり、止める間もなく入ってきた。
さっき一瞬だけ触れたあいつの指が俺の中に入っている。それを意識すると息が詰まった。ナカで指がぐにぐに無遠慮に動いて、異物感に眉根が寄る。
すげえ気持ち悪い。
「シオちゃん、塩なうえにマグロ?ウケる」
「っぐ、ぁ……」
「まいっか。シオちゃーん。挿れんね」
こいつはどうしてこんなにすべての行動が自分本位なんだ。
ムカつく暇もなく。宣言通り、おそらく奴のソレが入ってきた。
「…あ゙。あっ……」
「シオちゃんきっつ…最高……」
入ってきて、すぐに押し込められる。
内臓が押しつぶされるような感覚。無理矢理拡げられている狭い入口。
痛い。痛い。熱い。苦しい。痛い。
わけがわからないまま、身体が揺さぶられる。腹が苦しい。ケツ痛い。ケツにチンコ挿れるとかマジ頭おかしい。
目の前の無機質な灰色。土っぽいコンクリートの匂い。
虚しくなって俺は目を閉じた。
しっちゃかめっちゃかされているのに、すべてがどうでもいいと思えた。
「シオちゃん」
「……」
「シオちゃん。目開けてみなよ」
奴の声が聞こえる。背中が痛い。いつの間にやら正常位にされたみたいだった。
言われたとおりに渋々まぶたを持ち上げる。
……うっすら滲んだ視界に、俺が唯一求めていたものが広がっていた。
雲ひとつない澄んだ空。深く広い青。飽きもせずに青空に見惚れていると、横から奴が現れて視界の邪魔をした。
「シオちゃん。空好きなんでしょ?」
「っ、は……」
「このまま、空見て死にたい?」
ぞわあっと得体のしれない感覚が俺の背を滑り落ちた。
このまま死ねる。その言葉を理解して俺は馬鹿みたいにこくこくと頷いた。
奴が笑った。
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