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◇
――無事(?)コトを終えて、俺はすっかり満たされていた。
はー、気持ちよかった。ノエルかわいかった。
挿れるときの「イブ…っ!」って蕩けた表情でキスとハグを求めてきたあの顔だけでしばらくおかずに出来る。
ノエルはあまり頻繁に抱かしてくれないから、俺としては普段のお預け感がいい刺激となりいざヤるときにいちいちノエルが愛おしくてたまらない。
スマホを見ると、タイミングよく0時を回ったところだった。
「こらノエル寝んなー。起きてー」
「…うう、ん……ねてない……」
「ほらぁ、こっち見てみ?すごいよ」
食ったしヤったしで炬燵の中でもう夢の世界に片足踏み入れてるノエルの肩を抱いて起こす。
体力ゼロの引きこもりは、セックス一発でこれだ。
しかしそんなノエルもテーブルの上を見て一気に目を覚ましたようだった。
そこには置きっぱなしにしてたせいで少し溶け始めてしまってる俺の誕生日ケーキの横に、更に二つのケーキが置いてある。
黒い箱の中身の、ノエルの大好きな苺がぎっしり敷き詰まったタルト。飾られたプレートには『ハッピーバースデー ノエル』。
ピンクの箱の中身の、真っ白な生クリームにマジパンのサンタや雪の結晶の形をしたクッキーをあしらったいかにもな雰囲気のショートケーキ。
俺が用意した、ノエルの30歳を祝う誕生日ケーキと今日にお馴染みのクリスマスケーキだ。
「ノエル、誕生日おめでとう」
「……うん!」
「あーんど、メリークリスマス」
「……ふふっ、うん。ふふふっ……、ありがとう…イブ。…ね、一緒にお祝いしよ」
三十路男と28歳男。身長はお互い175を超えている。
お世辞にも可愛らしくはない。
テンプレートなアラサー男二人で三つのホールケーキを前にはしゃぐこの光景は、正直なかなかアンバランスだ。
……でもそれが俺たちだ。
甘いものが大好き。
サプライズとか、ロマンチックなことが大好き。
誕生日とクリスマスはそれぞれホールケーキが欲しい。
装飾はいかにもな、それっぽいやつが乗ってるやつが好み。記念日や誕生日にはいちいちしっかりお祝いしたい。
ノエルも俺も、そんな男だ。
勿論、それを知ってるのもこんなことをしてるのも俺とノエルだけの秘密だけど。
俺がケーキへ包丁を入れるのをノエルはキラキラした眼差しで見ている。
買ってきたのはわかってても俺が前置きなくケーキを用意したプチサプライズ感がきっと嬉しいんだろう。
切り分けたお互いの誕生日ケーキを皿に乗せる。別腹ってやつなのかノエルはすぐさまぱくついた。
俺が自分のぶんを食べきらないうちにノエルはぺろりと一個食べてしまったから、次はクリスマスケーキのほうを乗せる。
こんな大量のケーキだって超絶甘党男共の手にかかれば二日ともたない。
嬉しそうにぱくぱく食べているノエルを見てると、俺もプレートをかじりながらだらしなくにやけてしまった。
「のえるぅ~、美味しい?」
「美味しい」
「そっかそっか。よかった」
「……あの、ね。……聖夜 」
「えっ!何!」
突然ノエルがいつも呼ばない俺の下の名前を呼ぶから、思いがけず胸がどきんと高鳴った。
「…あ、う……、なんでもない」
呼んだくせに、ノエルは恥ずかしそうにうつむく。
よくある名前を呼びたかっただけとかだろう。そこらの女子高生よりずっと乙女ちっくなノエルの思考は手に取るようにわかる。
んもう、いい加減にしろ。かわいすぎる。
俺は食べるのを中断し、ノエルの手に自分の手を重ねた。
「……。ノエル、愛してる。俺ね、ノエルに出会えたの、運命だと思ってるよ」
「…っ!」
ノエルが好きそうな甘い言葉を選んで囁く。
きっと誰かが見たら芝居臭いと笑うだろうけど俺達にはこれでいい。
12月24日生まれの伊吹聖夜という男は12月25日生まれの聖乃絵瑠という男と巡り合った。
……なんて字面と事実だろう。
つい、運命だなんて浮いた台詞を使いたくなるもんだ。
「ノエルは?」
「…ぉれ、も。……イブ、愛してる……」
ノエルは顔を真っ赤にしてそう呟いた。
すぐさまイブ呼びに戻ってるのも含めてかわいい。
俺はノエルのぼさついた髪を手櫛で梳かす。
フォークを置いたのを見て顔を近付けた。そっと軽いキスをして離すと、目が合う。
どちらからともなく笑みが零れて幸せだなぁと思った。
「イブ」
「うん?」
「…あの。……あとで、もっかい、しよ」
「えっ。…えっ!?いいの!?大丈夫!?」
「いいよ……、今日はイブと、いっぱいしたい……」
「まじで。ノエル本気で今夜寝れないよ?」
「……いいよぉ……たまには」
頬を染めて照れるノエルに、下品だが物理的にやばい。
可愛らしい仕草で結構な爆弾発言してる自覚あるのかおまえ。
……こんなんじゃ、クリスマスプレゼント渡したらひっくり返っちゃうんじゃないかなあ。
明日は日曜、俺の仕事は休み。
ノエルも年内の仕事は終わらせたみたいだし二人でゆっくり過ごすにはぴったりだ。
明日は髪を整えさせて、髭も剃らせなくちゃ。
俺が王子様のごとく跪いてプレゼントを差し出したらノエルはどんな顔するんだろ。
仕事用の鞄に忍ばせているペアリングを思い、俺はまたノエルにキスをした。
−了−
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