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 マローダーの後部には8人乗車可能なスペースがあり、そこに断熱材を貼付けオイルヒーターを付ける事で、気温は0度以上になった。  そう言えば今日はクリスマスイブだね。と弘人が言えば、ケーキ屋から冷凍されたスポンジと生クリーム、フルーツを車内に持ち込みケーキ作りをした。  風呂に入りたいがためにドラム缶と燃やすための木材を探して放浪した。  寒いからキャンプファイヤーをしようという剛の提案に、ブックカフェを火元に数件のビルを燃やした時は、いよいよ感覚が狂ってきたのを感じた。 「あったかいねぇ…」  燃え盛るビルを前に剛が微笑む。 「そうだねぇ…」  同じ調子で弘人も微笑んだ。  いつ死ぬかも分からない二人は、その日笑って過ごす事が何よりも大切だった。  ある日猛吹雪に襲われた。  マローダーをビルの影に止め、車内で身を寄せ合って過ごしていた。  小さな窓からの視界は悪く、外に出るのは危険だ。 「タケさん、そういえば忘れている事があるんだけど」 「え? 何だっけ」 「無事に外に出られたら……その……キスしてあげるって言ったじゃん」 「……あ! そう言えば、そうだったね」 「……する?」  弘人が上目遣いで恐る恐る聞くと、剛は顔を赤くして狼狽えた。 「そんな! あれはいつもの冗談だろ!? そもそもヒロくん、異性愛者じゃないか……」 「異性も何も、ここには俺とタケさんしか居ないじゃん」 「女が居ないから男でもいいって、そんな理由で自分を蔑ろにしちゃいけないよ」  大人の顔を貼付けて弘人を諭そうとする剛にムキになって反論をする。 「人間が二人いて、その二人が愛し合ったらだめなの!?」 「だから……」 「もっと直球に言わなきゃ分からない? タケさんとキスしたいって言ってるの!」 「え……」  困惑と欲情が入り交じった顔をした剛が、弘人の肩を掴む。 「ヒロくんは、吊り橋効果で好意を勘違いしているだけかもよ?」 「それでもいいよ」  剛の顔が近づく。 「俺ね、本当にヒロくんが好きなんだ。舌、入れちゃうかもよ?」 「いいよ」  さらに近づく。 「あ、俺、喫煙者だったんだけど大丈夫?」 「いいから早くしろよ!」  焦れた弘人が目を閉じた。  剛の少しかさついた唇が重なった。  下唇を食み、上唇を舐め、ぬるりと熱い舌が入り込み咥内を弄る。 「ん……っ……ふ……」  弘人の口から吐息が漏れる。  嫌悪感は無く、痺れるような快感が身体に広がった。  くちゅりと音を立てて唇が離れると、剛は太い腕で弘人を抱きしめた。 「あぁ、ありがとう、ヒロくん。とっても幸せな気持ちだ」  うっとりと余韻に浸る剛に、弘人は聞いた。 「次は?」 「………え?」 「この先はしないの?」 「先って?」 「………エッチ、しないの?」 「え? していいの?」  ぽかんとする剛に、恥ずかしそうにもごもごと答える。 「……してよ」  服を脱いで、毛布に包まりながら相手の存在を確かめ合う。  抱き合うと鼓動が聞こえて孤独を払拭できる。  肌を重ねれば、とても温かい。  小さな窓から、裸の二人に朝日が降り注ぐ。  今日はどこに行ってみようか、何を探そうか。  クスクスと笑い合う二人の街に、燃やしたビルの煙を目印に米軍のヘリがやってくるのは、まだもう少し先の話。  二人で生き残ってしまった事実を『幸運』だと呼べるのかは分からない。  しかし、笑い合いながら『あの時は幸運だった』と言えるよう、生きていく。 終

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