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ずっと同じ場所を拠点にしていても進展は無い。
他の生存者を探したいが、移動するにも積雪の中歩いていくのは限度がある。
車は半分以上雪に埋まっているし、大型トラックであっても、渋滞したまま凍り付いた乗用車が道を阻んでまともに走行できないだろう。
そもそも、この寒さでエンジンすらかからない。
そんな時、弘人の頭にとある記憶が甦った。
この辺りにある景気の良いカーショップの経営者が海外から輸入した、特殊な車を地下に展示しているという噂だ。
その車ならば、雪の中でも走れるかもしれない。
小一時間かけてたどり着いたビル。
1階には高級車が並び、奥には地下へ向かう階段がある。
「うわー!」
「大きいなー!」
地下空間にあったのは、南アフリカ製の装甲車『マローダー』だった。
13トンもの重量がある見上げるほど大きな車体は赤い塗装が施されており、二人を圧倒した。
タイヤは成人男性の鳩尾ほどの高さがあり、セダンくらいなら簡単に踏みつぶす事が出来る。
コンクリートの塀も容易く破壊し、プラスチック爆弾の衝撃にも耐えられる装甲。
更に寒冷地仕様に改造されている。
これがオプションを付けなければ5000万円台で買えるのだから驚きだ。
自動車整備士として働く弘人が手を加えると、なんとか動かせそうだった。
地上に繋がるスロープへの扉を開けて、エンジンをかける。
運転席の弘人が叫んだ。
「いっけーー!!」
アクセルを踏み込み、雪を吹き飛ばしながら車道に出る。
「おお! ヒロくん凄いな!」
助手席の剛が感嘆の声を上げた。
「こんなでっかい車を運転できるなんて夢みたいだ! さあタケさん、そこに拡声器のマイクあるから、生きている人がいないか呼びかけて」
「オッケー任せて」
剛はしばらく呼びかけた後、誰もいない事が分かると演歌を歌い出した。
凍結した東京に、下手な歌声が響き渡る。
「ぷっ……タケさん音痴だね」
「最近の曲あんまり知らないんだよね。ヒロくん、若者の曲歌ってよ」
「若者の曲って……」
マイクをあてられた弘人は、障害物をはね飛ばしながら流行の曲を歌う。
「はははっ! ヒロくんも相当な音痴じゃないか!」
「えー? タケさんよりマシですぅー」
はね飛ばした障害物の中には、死体も含まれているだろう。
だけれど今は死んでしまった他人よりも、生きている二人が笑い合う時間の方が大切だった。
真っ白な道にタイヤの跡を付けながら、どこまでも行ける気がした。
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