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 地球温暖化による氷河期突入に、前兆はあったのだ。  世界各地で竜巻が発生し、南極の棚氷には亀裂が入った。  東京に降り続いた大雨も前兆の一つだった。  気象学者は今後起こりうる異常気象の対策を政府に訴えたが、まだ起きてもいない事態に予算をさけるはずもない。  2030年に氷河期が来るという都市伝説もあったが、ノストラダムスの予言よりも軽視された。  前兆はあったが、誰もここまでの事態を想定してはいなかったのだ。  スーパーフリーズ現象により−70度を下回る冷気が地上に降り注ぎ、殆どの生物が急激な温度変化による心臓麻痺、または肺が凍り付き呼吸困難で死んだ。  何とか生き残った一部の人間も、ライフラインが止まり寒さで死んでいった。  そんな中、二人は温度変化の影響が少ない地下にいた。  しかも防寒対策をとり、食料も十分にあったのだ。  地上に上がった時にスーパーフリーズが去っていたのは奇跡としか言いようが無い。 『ヒロくん、こちらタケ。土鍋とガスコンロを見つけました、どうぞ』 『タケさん、こちらヒロ。肉と野菜を見つけました。見事に全部カチコチです。どうぞ』 『了解。煮込めば大丈夫です。気をつけて拠点に戻ってきて下さーい。どうぞ』 『了解。シメはラーメンで決まりですね。これから向かいまーす』  弘人は無線機を切り、死体が転がるスーパーを後にする。  雪の上をスノーシューを履いた足で歩いていくと、昔ながらのラーメン屋にたどり着いた。  軋む引き戸を開けると、ガスコンロを点火させようと奮闘する剛が居た。 「おかえりヒロくん。今、席用意するよ」  失礼します、と言いながら手を合わせ、座ったまま凍り付いた老人を横にずらし、弘人の席を確保する。 「ただいま、念願の鍋だね!」  厨房に倒れる店長の死体をよけて鍋の準備をする。  包丁やまな板、冷蔵庫の中のラーメンやチャーシューも勝手に使い、豪華な食事が出来上がった。 「はぁ〜沁みるぅ〜、ヒロくん料理上手だねぇ」 「鍋のもと使ってるんだから上手いも下手も無いだろ。この旨さは食品メーカーさんの手柄!」 「好きな人と鍋をつつけるなんて、幸せだなぁ」 「ははは、鼻水出てるよ。男前が台無しだ」 「……ヒロくんが居てくれて、本当に良かった」 「何言ってるの? それは俺の台詞だよ。俺なんて足引っ張ってばかりで、タケさんが居なかったらあっという間に死んでるよ」 「寒さも空腹も人を殺すけど、孤独も人を殺すんだよ。笑い合う誰かが居ないと、生きていけない。ヒロくん、ありがとな」 「……もー、そんな面と向かって言われると照れるじゃん。やめてよぉ」  しみじみと言う剛から顔を反らし、弘人は口と手を動かした。

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