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第1話

見事な桜の木があると翔吾さんが教えてくれた、とっておきの場所に二人で来たのに、些細なことで喧嘩をした。 「頭を冷やしてくる」と言って、翔吾さんはどこかに行ってしまった。 僕もすぐに追いかければよかったんだけど、悪くないのにきつく言われて腹が立ったから、去って行く翔吾さんの背中をチラリと見ただけで、その場に座り込んで動かなかった。 あれから15分くらい経ったけど翔吾さんが戻って来ないので、僕はついに我慢出来なくなって立ち上がり、翔吾さんが去った方へと駆け出した。 大きな桜の木がある開けた場所から細い山道に入る。一本道になっているから、きっとこの先に行けばいる筈だ。 山道の地面が滑りやすくなっていたから、僕は早歩きになって先に進んだ。 でも10分程歩いても翔吾さんがいなくて、だんだんと不安が募る。ふと、山道の脇に何かが通ったような草の跡があることに気づいた。草の跡を目で辿ると、少し先の大きな杉の木に凭れて、目を閉じる翔吾さんがいた。 「翔吾さん!」 大声を上げて呼ぶと、ゆっくりと目を開けて振り返った翔吾さんが、驚いた顔をする。 僕は、翔吾さんを見つけた嬉しさで走り出した。 木を背にして立つ翔吾さんの胸の中に飛び込む。逞しい胸に額を押しつけて、広い背中に手を回した。 「翔吾さん…、心配した。ごめんね、僕、気をつけるから…」 「悪い…、雪。…俺はちっせー男だよな…」 自嘲気味に笑って、翔吾さんが僕の髪の毛を撫でる。額にかかる前髪を上げると、音を立ててキスをした。 「ううん。僕がもっと毅然な態度を取ればよかったんだ。いつも優しく話しかけてくれてたから、いい人だと思ってた。まさか、あんなことをしてくるなんて…」 「雪」 低い声が頭の上から聞こえ、ビクリと身体が竦む。 翔吾さんの手が伸びて、僕の頬を撫でる。その手つきは優しいのに僕を見る目がまだ怒っていて、思わず後ろに身を引こうとした。すぐさま翔吾さんが僕と身体を入れ替え、僕の背中が大木に押しつけられる。 「雪…、やっぱりムカムカしてダメだ。ここでしたい。今すぐしたい」 強い眼差しに射貫かれて、僕は息を呑んで動けなくなった。

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