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特別な人 第21話
(これ、冗談? それとも本気?)
きっと、ううん、絶対冗談なんだろうけど、でもいつもとちょっと違うから本気かもしれないって戸惑う。
でも内容が内容なだけに本気ってことはありえない。きっと僕が戸惑うところを見て笑いたいだけだ。
(そうはいかないんだから!)
いつもいつもからかわれてばかりじゃいられない。僕は笑顔で「でも虎君だったら僕は嬉しいかな!」って反撃を試みた。きっと虎君のことだから僕の反撃なんてものともせずに躱しちゃうんだろうけど……。
「な、に言ってるんだよ」
(え……?)
「ほら、茂さん達待ってるから行くぞ」
ふいって前を向いてしまった虎君は、僕の手を引いて再び階段を降り始めてしまった。
手が繋がってるせいで呆けてもいられず、僕も階段を踏み外さないように気を付けて1階に向かうんだけど、頭の中はクエッションマークが大量発生中。
(え? 何? なんでそんな反応なの?)
僕の気のせいじゃなければ虎君のとった態度は『照れ隠し』そのもので、どうして今その反応? って目を瞬かせてしまう。
何か変なことを言っちゃった? って自分の発言を省みるも、別に変な返しはしてない。ただいつもと違って僕が狼狽えなかっただけ。
たったそれだけの違いなのに、僕にはどうして虎君が照れているのか分からない。
(あ! もしかして僕が切り返したから驚いたのかな?)
じっと虎君の後ろ姿を見ながら考えてて、漸く答えが見つかった。
きっと普段の僕ならしどろもどろになりながら虎君の真意を尋ねてただろう。
でも今日はその真逆の反応を返したから、流石の虎君も意表を突かれて驚いに違いない。だから、びっくりしてあの反応になったんだろうな。
(そっか。虎君、びっくりしたのが恥ずかしかったんだ!)
自分で出した結論に納得。
僕は先を歩く虎君が気づくように繋いだ手に力を込めてみた。
「……何?」
リビングまであと少しのところでまた足を止める虎君は、僕の思惑に気づいて振り返ってくれる。
その頬っぺたが少しだけ赤くなってるって気づいた僕はそんな虎君に悪戯に笑って見せた。
「虎君って、偶に可愛いよね?」
と。
「まーもーるー……」
赤くなってる虎君、久しぶりに見た! って笑う僕に、虎君は半目になって身体ごと向き直ると繋いでいた手を放して僕のほっぺたを抓ってくる。両手で。
「可愛くない事言うのはこの口か?」
「いたひ! とりゃくん、いたひよ!」
嘘。大して力は入ってないから全然痛くない。
でも、笑いながら手を放してってお願いするけどほっぺたを引っ張られてちゃんと喋れない。
「はなひて、とりゃくん」
「んー、聞こえないなぁ?」
声は聞こえてるくせに、笑顔で「聞きたい言葉が聞こえない」って言う虎君。さっきまで優しかったのに今はすっごく意地悪だ。
でも、そんな意地悪ですら楽しくて、僕は笑いながら「ごめんなしゃい」って茶化したことを謝った。
「ったく。年上をからかうなよな?」
「ごめんってば」
パッと放される手に大げさにほっぺたを擦れば、虎君は「痛くないのは分かってるぞ」って頭を小突きながらも笑ってくれる。
それが何故か妙に嬉しくて、僕は虎君のご機嫌取りに託けてその腕にしがみついてみた。
「怒ってる?」
「怒ってるように見える?」
見上げて尋ねれば、優しい笑い顔。
僕は首を横に振って、「行こ?」って虎君を促した。
虎君が返してくれるのは大きな手。その大きな手で僕の頭を撫でてくれる虎君が、僕は大好きだと思った。
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