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特別な人 第34話
高校を卒業しないとそういう雑誌も動画も見ちゃダメって法律で決まってる。それは茂斗も知ってるはずなのに、どうやら見たことがあるみたいで、僕は「信じらんないっ」って小声ながらも声を荒げてしまった。僕達はまだ中学生なんだよ?! って。
恥ずかしすぎて大騒ぎする僕。不潔だ! って茂斗から逃げれば、それには流石に頭にきたのか茂斗は「仕方ねぇだろうが!」って逃げる僕の腕を掴んできた。
「葵はまだ知らねぇーんだろうけど、定期的に処理しないとやばいんだよっ」
見たくて見てるわけじゃないって言う茂斗。でも、処理の為仕方ないって。
茂斗が言う『処理』が何を示しているか。それは僕も男だから分かる。まだ精通は起こってないけど、知識として教えられたから。
真顔の茂斗と、真っ赤な顔をしてるであろう僕。短い沈黙が僕達の間に流れて、気まずい。
僕は何か話さなくちゃって必死に頭を働かせる。けど、頭の中は真っ白。
そんな時、何故か思い出したのは教室でクラスメイトが話していた会話。
「し、茂斗でも、自分でしてるの……?」
思い出した会話に、考えるより先に言葉が口から出てしまう。
茂斗は僕の声にそれはそれは盛大に顔を顰めて見せて……。
「どういう意味だよ、それ」
そんな風に聞いてくるくせに、絶対意図は分かってるって顔だ。
僕は茂斗の顔を見て、不味いことを口にしたってすぐに理解して弁解とばかりに口を開いた。
「違う! 違うよ、茂斗! 僕が言いたかったのは茂斗は凄くモテるからなんでかなって思ったからで―――」
「言い訳になってねぇよ」
早口な僕の言葉を遮って、具体的に言い直してんなよ。っておでこを弾かれた。
僕はおでこを抑えて自分の言葉を頭の中で反芻してみる。で、茂斗の言った通りだって分かって、尻すぼみになりながらも謝った。言いたかったのはそういうことじゃないって言い訳付きで。
「分かってるよ。まぁクライストは男子校だしな。下世話な話なんてそこら中で飛び交ってるよな」
「うぅ……ごめん……」
睨み顔から苦笑に表情を変える茂斗には弁解しなくても伝わってしまったみたいだ。僕が学校で聞いた会話の内容が。
「どうせ『モテない男は右手が恋人だ』って話でも聞いたんだろ」
「うっ……」
図星すぎて何も言えない。
言葉を失う僕に茂斗は笑った。モテても恋人がいない男は自分で処理するぞ。って。
「……そうなの?」
「まぁ、ヤリ友作る奴とかヤリ目的で恋人作る奴もいるけどな」
人ぞれぞれだから決めつけれないけどって言う茂斗は、大人びてて双子なのに年上みたいだった。
「そっか……。茂斗、凪ちゃん大好きだもんね……」
「おう。俺は凪のモノだからな」
僕の言葉に、幸せそうに笑う茂斗。本当に、本当に心から凪ちゃんの事が大好きなんだなって伝わってきて、僕も力なくだけど笑い返した。
「……茂斗、あの、凪ちゃんとは―――」
「バーカ。凪は小学生だぞ。手なんて出せるかよ」
「! そ、そうだよねっ」
早熟な茂斗。だから一瞬考えてしまった。もしかして茂斗と凪ちゃんは……って。
そんな僕に茂斗は苦笑を漏らして、「まだだ」って考えを止めてくれる。
それに僕は我に返る。茂斗は大人びてても中学3年生。そんな茂斗の大好きな凪ちゃんはまだ小学6年生。どうこうなるには流石に早すぎだ。
(いやでも、早い人は早いって言うし……)
早ければ小学生でも大人の経験を済ませている人もいるって話は聞いたことはあったし、絶対ないとは言い切れない。
でもまぁ茂斗本人がないって断言してるし、茂斗と凪ちゃんはまだなんだって納得はしておく。
「凪ちゃんに早く大人になってほしい?」
「そうだなぁ。まぁ、早く大人になってほしいっていうか、俺の事好きになってほしいかな?」
周り程じゃないけど、僕も茂斗の事はカッコいいとは思ってる。見た目も中身も。
だから、ちょっとだけ好奇心が顔を出した。茂斗も凪ちゃんが大人になったらやっぱりそういうことしたいのかな? って。
好奇心のまま聞いてみた。きっと茂斗は『当然だろ!』って悪戯に笑うと思ってた。
でも返ってきたのは、寂し気な笑い顔。
「え? 何言ってるの? 凪ちゃん、茂斗の事大好きだよ……?」
茂斗のそんな笑い顔、僕、今まで見たことない。だって、その笑顔には諦めのようなものが含まれてる気がしたから……。
僕は『なんで?』って頭に浮かんだたくさんの疑問を全部は口に出せなかった。
「そーだな。……本当、そう願うよ」
「茂斗?」
茂斗が凪ちゃんの事大好きだってことはみんな知ってる。それこそ家族だけじゃなくて、ゼウス学園だけじゃなくて、茂斗と凪ちゃんと関係ないはずのクライスト学園にまで知れ渡ってるぐらい、周知の事実。
そしてそれと同じぐらい、凪ちゃんが茂斗の事大好きだってことは知れ渡ってる。だって二人はいつも一緒にいるから。
けど、茂斗はまるで凪ちゃんは違うって言いたげで、僕は「冗談だよね?」って思わず顔を覗き込んでしまった。
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