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恋しい人 第7話

(好き……。どうしようもないほど虎君のことが好き……。大好き……)  溢れる想いは際限がなくて、切なくて苦しくなる。  僕は虎君にしがみつくとその胸に顔を埋め、もっと傍にいたいと強く望んでる自分の欲望に気づいて唇を噛みしめた。 (もっと深いキスがしたい……。もっと、もっと虎君に触って欲しい……)  まだ片手で数える程しか交わしていない恋人同士が愛し合うために交わすキスに焦がれ、虎君の大きな手に触れられたいと強く、強く望んでしまう。 「葵……、ほら、早く顔、洗わないと」 「っかってるっ……」  僕を引き離そうとする虎君の腕に抗うようにより強くしがみつく。  言葉と行動がちぐはぐな僕を、虎君は子供だと笑うだろうか? 「まーもる。頼むから、な?」 「分かってるもんっ」  虎君が笑う度、くっついてる僕に振動が伝わる。  やっぱり笑われたと拗ねる僕は、分かっていると言いながらもますます強く虎君にしがみつく。  すると虎君は僕を引き離すことを諦めたのかぎゅっと抱きしめてきた。 「入学式、欠席させたくないんだけどな」 「分かってるってば」 「葵、なぁ、葵。顔を見せて?」  聞き分けのない僕をあやすように背中をポンポンと叩いてくる虎君の大きな手。  いつもなら、この声に、手に、言うことを聞く僕だけど、何故か今日の僕は頑なで……。 「……今日の午後、入学式が終わったら、なんでも言うこと聞いてあげるから。な?」 「本当に、『なんでも』……?」  いつだって我儘を沢山聞いてもらってるから、今更な言葉。でも、頑なになった僕の態度を柔和させるには十分な言葉だ。  僕は虎君の胸から顔を上げ、『絶対?』と視線だけで訴える。  すると虎君は僕の額に二度目のキスを落とすと、「約束するよ」って笑ってくれた。 「沢山キスしような」  微笑む虎君。でも、その笑顔は少し悪戯っぽくて、僕が望むキスがどんなものか知っていると物語っていた。  僕は、分かっているのに今そのキスをくれない虎君にちょっぴり不満顔。  すると虎君はそれもお見通しなのか、困ったように笑った。 「言っただろ? 入学式を欠席させたくない」  僕の下唇に触れると優しく下に引っ張って遊ぶ虎君は、耳元に唇を寄せ、囁く。 「朝からあんなキスしたら離せなくなるに決まってるからな」  と。  耳朶を擽る虎君の低い声。小声だからかいつもよりもずっとずっとセクシーでドキドキする一方だ。 「虎君……」 「ほら、俺の理性が負ける前に早く顔を洗って?」 「分かった……。でも、約束、ちゃんと守ってね?」 「ああ。葵が望んでくれるならいくらでもキスしてあげるよ」  そう笑いながら頬に落ちてくるキス。  虎君に促されるまま僕は洗面台に向かい、顔を洗う。  手渡されたふかふかのタオルで顔を拭うと、ヘアターバンを外して髪を整える。 「……髪、大丈夫? 跳ねてない?」 「ああ。大丈夫。いつも通り可愛いよ」  髪を撫でられ、微笑まれる。  僕はその笑い顔に胸をときめかせながらも前から感じていたこと今なら聞けると思ったから口を開いた。 「ねぇ、虎君。虎君は僕が可愛くなくなっても好きでいてくれる?」 「? 葵?」  僕の問いかけに訝しそうな顔が返ってくる。今度は何を不安に思ったんだ? と言いたげに。  虎君からすればいきなり過ぎる僕の質問。でも、僕にとってはいきなりじゃない質問。  僕は虎君の上着の裾を引っ張って、これから先、僕はどう成長すればいいか知りたいと訴えた。 「もし僕が父さんや茂斗みたいに男らしくなったら、僕のこと、嫌いになる……?」  可愛いままでいなくちゃダメだったらどうしよう。なんて思いながら。

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