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恋しい人 第131話
虎君の舌は僕の口の中で暴れまわって、舌先が上顎をなぞるたび、歯列を舐めるたび、言葉にできない感覚が背筋を這って下肢に降りてくる。
それはとても甘くて、頭を、脳を痺れさせる。
深く濃厚なキスに腰から力が抜けそうになったけど、虎君はそれを分かっていたのか僕の腰に手を回し、自分の方へと引き寄せて支えてくれた。
(こんなエッチなキス、初めて……。すごく、すごくきもちぃ……)
僕の舌を舐め、甘噛みする虎君。もっともっと甘いキスが欲しいと求める僕の思考は虎君一色で、虎君のこと以外何も考えられなくなっていた。
「とら、とりゃく……、とりゃくん……」
「こんなところでそんな蕩けた声出しちゃダメだろ……?」
「や……もっとぉ……」
虎君は荒い息遣いで僕を窘める。
僕は自分の呂律が回っていないことすら分かってなくて、放された唇が寂しいと虎君の唇を求めて甘えた声を出してしまう。
エッチなキスをもっとして欲しいと望む僕に応えるように虎君は僕の舌にキスしてくる。でも、さっきとは違ってキスはすぐに終わってしまって、切なさは募るばかりだ。
「顔、絶対あげちゃダメだからな」
「ふぇ……?」
「凄くエッチな顔してるから、部屋に着くまで我慢して」
頭がボーっとしちゃってて何を言われているかもわからない。でも言われた言葉を理解するよりも先に僕を抱き上げ歩き出す虎君。どうやらエレベーターは9階に到着していたようだ。
ぼんやりしていた頭は全然はっきりせず、抱っこされているからかむしろ余計にふわふわしていて夢見心地。
僕は虎君の肩に頬を摺り寄せ、鼻腔を擽る虎君の匂いにもっと傍にいたい欲が強くなった。
甘えるように虎君の首に腕をまわしてしがみつき、もっと虎君の匂いに満たされたいと首筋に鼻を寄せる僕。
「こら、そんなに煽るなって」
甘える僕を窘める虎君の声。
僕の耳にその声は届いているけど、言われた言葉はやっぱり理解できない。ただ虎君の声色が心地良くて、堪らずもっと甘えるためにその首筋に吸い付くように唇を落とした。
くぐもったような声と、上下する喉仏。それらがとてもセクシーで、虎君を求める気持ちがより一層強くなる。
(虎君、大好き。大好きぃ……)
キスだけじゃ我慢できず甘噛みしちゃうのは、虎君が欲しいから?
カプカプと虎君の首筋に噛みついていれば、身体がふかふかした何かに包まれてびっくりした。
「あれ……? ここ、どこ……?」
「ベッドルームだよ」
回ってない頭で考えるも分からない。ぼんやりと虎君を見上げれば、苦し気な表情で僕を見下ろす虎君が僕を見下ろしていた。
「どうしたの……?」
「葵が可愛すぎて本気で死にそうっ」
僕を見下ろしたままそう吐き捨てる虎君は数回深呼吸を繰り返し、「理性が吹っ飛ぶ……」と苦痛に顔を歪めた。
僕は虎君の匂いしかしない空間に蕩けきってしまっていて、辛そうなその表情すらセクシーで下肢がムズムズして思わず足をもじもじとくねらせてしまう。
「葵」
「なぁに……?」
「愛してるよ。……本当に心から愛してる。だから、……だから、葵を抱いていいかな……?」
頬に触れる大きな手はいつもと同じように僕の頬を、耳を撫でる。でも、いつもと違ってくすぐったいそのぬくもりは背筋をゾクゾクさせる快楽を生んで……。
「んっ……」
ピクンっと身体が跳ねたのは無意識のこと。そして声が漏れたのも、本当に無意識のことだった。
触られただけなのに気持ちよくて堪らなくて、蕩けた思考ながらも虎君を求めその手にチュッとキスを落とした。
「葵、頼むから『良い』と言ってくれ……」
理性がギリギリ残っている今のうちに触れることを許して欲しい。そうじゃなければ、『俺』は触れられない。
だから頼む。と、懇願する虎君。でも、僕のぼーっとした頭では虎君が苦しそうな顔をしていること以外理解できなくて……。
もう一度僕の名前を呼んでくる虎君は、「早く『良い』と言ってくれ」と僕の頬にキスを落としてきた。
乞われる言葉は理解できないけど、貰ったキスが嬉しくて、僕は目の前の虎君の頬を包み込むように手で触れ、「もっと触って」と強請った。それは図らずも虎君の懇願に応える言葉になって、虎君は愛しげに目を細め、唇に吸い付くようなキスをくれた。
「葵、愛してる。愛してるよ……」
「虎く、……とらくん、だいすきぃ……」
啄むキスを何度もくれる大好きな人。もちろんこのキスも好きだし気持ちいいけど、今はエレベーターで交わしたお互いを求め貪り合うようなキスが欲しかった。
「もっと、もっとちゃんとキスして。もっとぼくのこと欲しいって言ってぇ」
「葵が欲しいよ。俺だけのものにしたい。このまま此処に閉じ込めておきたい」
望むがまま深くなる口づけ。舌を絡めては唇を離し、唇を離しては噛みついて呼吸を奪い合うように舌を絡めた。何度も、何度も。
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