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第1話

「結婚おめでとう」  かつて流した涙の跡を綺麗に隠して、僕は君に、精一杯のいつわりの言葉を贈る。  あの夜。  君の幸せを願うから、僕は自分の気持ちに蓋をして、友達に戻ろうと精一杯の嘘をついた。  君は僕の嘘を知りながら、友達に戻れるかなと寂しそうに笑った。  知っていたんだ。人目を気にする君の事。  知っていたんだ。子供を目で追う君の事。  今日。雪の降る冬の日に、純白のタキシードに身を包んだ君の笑顔。僕はただ、君の幸せを願うよ。  君のこれからの未来が、キラキラと綺麗なものでいっぱいでありますように。  君を愛する気持ちと同じ強さで、確かにそう願ったんだ。  君が去っていってから、灰色の冬の季節をゆっくりと過ごした。全てがスローモーションで、なかなか時間は進まない。  隣に君がいない。その単純な現実に、慣れる日なんて来なかった。  僕はそれでも笑って毎日を過ごしてみせた。強がりでも、大切な事だったから。  君に心配をかける訳にはいかないという建前と、僕の最後のプライドだった。  明るい声。何処からか、テレビ番組の桜の開花宣言が聞こえる。  薄着になった人が楽しげに歩いている人混みを、僕は俯きながら、早足に自宅へと向かった。  寒い冬より、暖かな春の方が辛かった。僕を置いて、季節だけが立ち直っていくみたいで。  人目を気にしながら行ったお花見。今年はあの桜並木に彼女と二人で行くんだろうか。そう。君は彼女となら、堂々と手を繋いで歩けるんだ。  君の大きな手は、彼女の白く華奢な手を握るのに相応しい。  僕は二人掛けソファに腰掛けると、そのままずるずると横になった。男二人がゆったり座れるソファがいいと、大きいソファを選んだ君を思い出す。  少し広めとはいえワンルームに似つかわしくない大きなソファ。  僕はソファに横になったまま、自分の骨ばった手をじっと見つめて、それからゆっくり目を閉じた。  僕は一人、君のいない春に眠る。  夢の中だけで良い。  君の優しい瞳で、僕を見て欲しい。  僕だけを見て、微笑んで欲しい。

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