3 / 3

003.5年越しの愛は(Take1)

「先生。先生の約束通り5年待ちました」 「……約束?」 「忘れたフリしてもダメですよ」 ふふふ、と元生徒に楽しそうに笑われる。 5年前、確かに約束した。 子どもの告白は受付してねぇ。20歳になっても気持ちが変わんなければまた来い、その時はちゃんと考えてやるって。 だけどなぁ、おい。 「それ、なんの真似だよ」 地毛証明書を出してまで茶色のままにしていた髪を黒くして、あの頃していなかった眼鏡をかけている。 「傾向と対策ですよ。好きでしょう、眼鏡」 「嫌いだよ」 「嘘つき」 「本当に嫌いだ」 深く溜め息をつく。 俺を捨てたあの野郎を思い出すだろうが。 「……それに、お前ノンケじゃあねえの」 「女性が愛せるかってことですか」 「あぁ」 「愛せますけど。でも、女性だから好きというよりも、女性より貴方がいいっていうのが愛なんじゃないんですか」 「そんなん怖えだろ」 「何がですか」 「元教え子の人生ぶっ壊すんだぞ」 昔の教師のせいで、男に転びましたって? 人生棒に振ったって言われる。 悪いのはいつだって、年上だ。 「そんなのでは壊れません」 「それはお前は、まだ子どもだから」 「未成年ではありません」 「そうじゃない!人生経験が浅くて、道を間違いやすいから大人がしっかり、」 「あぁ!そうですね!」 ガンっと壁を蹴られる。 穏やかの仮面をかなぐり捨てたコイツから昔の一面が垣間見えた。 「年長者は臆病だ!革新をおこすのはいつでも若者の役目、ですもんね」 「おい!」 「なぁ、先生。先生に壊されるならそれでも幸せなんだよ」 低い、低い声だった。

ともだちにシェアしよう!