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第10話 姓の無い子供
「……セルギー、ッ! ……だめだ、来るっ、っ! ……出してくれ……!」
「ドラミス……っ!」
安い宿の壁では安易に隣に聞こえてしまうだろう。それでも彼らは構わなかった。明かりのない部屋の中互いの名前を呼び、手を絡ませ合う。
「――っ!」
強く穿たれて中に出され、迫る絶頂に腰を艶かしく動かしたドラゴミール。迸る熱を、荒い呼吸をしながら受け止める。セルギウスがモノをゆっくりと引き抜いてから、ぐったりした相手の柔い茶髪を撫でた。
「……ったく、お前のデカマラ突っ込まれる身にもなってみろって」
「散々善がっておいてそれか」
起き上がろうとして、腰の痛みに顔を顰めたドラゴミール。冷静さを取り戻したセルギウスはベッドから立ち上がるとグラスにあった水を一杯飲み干した。溢れた液体を、手で乱暴に拭う。
「……まだヤる気か?」
「お前とは永久に睦みたいが、そうは言っていられない事情があるからな」
自分らの武器を一瞥し、カーテンを閉めた窓へ視線を移す。
「明日の朝、プールベンへ向かう」
「……マジで魔王の配下を倒しに行くのか? 本当に勇者ご一行様だな」
しかもこういうのはおびき寄せて何かするつもりだろ、とドラゴミールは更に付け足すが、セルギウスは別に周りがどうであろうと構わないと返す。
「世界を救う気はないが、強敵なら稼ぎになるだろう。少なくとも私達の財布は救われる。」
まぁ確かにそうか、と裸で横になったままのドラゴミールは頭の後ろで腕を組み、天井を見上げていた。
「そういう訳で今日はここまでだ。体力も回復させたいしな」
セルギウスは迫る年波には勝てないからな、と軽く自嘲しながらベッドに横になった。男二人がダブルベッドに仰向けで横たわる。
「別に俺は構わんが、お前も老けたな」
ドラゴミールも彼の方を向いて笑う。
「昔みたいに徹夜してヤり通しても平気、というわけにはいかないからな」
「ホント絶倫だったしな、お前」
穏やかなやり取りに、笑みを止めない二人。
「今もヤればできる、ヤる気があれば」
あくまで自信のあるセルギウスに、ははは、と笑うドラゴミール。
「バカみてぇ」
それは、つかの間の平和を謳歌する夜の一時であった。
「かあさん」
遠くに見えるのは、いつの自分だろう。
「ドラミス、どうしたの」
それが話しかけた先には、女がいた。アッシュブロンドのふわふわした髪に、ぷっくりとした唇。鈴の音の様に美しい声。あれは間違いなく、自分の母親だ。
「とうさんは、どこ」
……やめろ。
「ねぇ、とうさんはどこ」
俺の母親にそんなことを訊くんじゃない。
「……とうさんはね、お星様になってしまったの。だから母さんがお前を一人で育てたのよ」
「かあさん、うそつき」
そうだ。それは嘘なんだ。分かっているのに尋問するなんて最低だぞ。
「どうしてそんなことを言うの、ドラミス?」
母親を困らせるなと、俺は叱りたかった。だが小さな俺は、容赦なく真実を突きつける。
「だって、とうさんは、人間じゃなくて――」
「……ッ!」
浅い眠りから覚めたドラゴミール。変な夢を見たなと思いながら彼は深呼吸をすると、再び眠りにつこうとした。連日の戦いと先ほどの行為から疲れて熟睡していたセルギウスを起こしたくないし、自分が眠れなくても横にさえなっていれば休まるだろうと彼は敢えて動かなかった。朝までもう少しだ。彼は辛抱して、大人しく毛布に潜り直した。温い毛布の中で、思い出したくない過去は、これからの戦いで忘れていこうと彼は考えた。
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