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第1話

俺は、幼馴染みの雄太に片思いをしている。 小学2年の時に恋心を自覚してから、5年。 長い長い片思い。 「おーい、雄太! はい、これ。 めぐみから」 雄太を呼び止め、ラッピングされた袋を渡す。 中身は、手作りチョコ。 ……めぐみじゃなくて、俺の。 昨日、徹夜して仕上げた、自信作。 今年は、あいつの好物の生チョコに挑戦してみた。 今日は、バレンタイン。 チョコを渡すことで、愛を告白することが許される日。 もちろん、雄太に告白なんて大それたことはできない。 だって、そんなことをして今までの関係が壊れたら……。 考えるだけでも恐ろしい。 だから、毎年、妹の名を勝手に語ってチョコを渡す。 それが、今の俺の精いっぱい。 「おぉ、めぐみちゃんの手作りチョコっ! これ、うまいんだよなっ。 食べるの楽しみ。 誠二、ありがとなっ!」 『顔全体が笑顔です』って感じで破顔する。 俺、この笑顔に惚れたんだ。 心臓がドクドクとすごい勢いで拍動する。 うわぁっ、この音、雄太に聞こえてしまうんじゃないだろうか? 「ホントに、誠二、ありがとう」 雄太は、もう一度、念を押すように俺の顔をじっと見つめながら言葉を繰り返した。 んっ?  いつもと違う気がするのは、気のせい? 「じゃあ、俺、部活があるから」 急に照れくさくなって、そうそうに会話を切り上げる。 何個チョコをもらったのかとか、付き合ってもいいと思う子がいたのかとか……色々と探りをいれようと思ってたんだけど。   俺、相当、動揺しているみたい。 ヤバい、顔が熱い……赤くなってないよな? ちゃんと、『妹に頼まれてチョコを渡す兄』を演じられてるよね? 家に帰ると、めぐみがソファーに寝転んでテレビをみていた。 「アニキっ! 今年のチョコも、美味しいって評判良かったよ! 来年もよろしくね!」 「おう!」 美味しいって評判良かったんだ。 こうやって喜んでもらえると、素直に嬉しい。 あいつも、食べてくれたかな? 「雄太君にちゃんと渡せた?」 「えっ? 何で知って…………あ、えーと、な、なっ何を勘違いしてるの? 雄太に渡すわけないだろ?」 「いやいや、知ってるから」 「え?」 「雄太君から聞いてないの?」 「……………」 「一昨年だったかな? 雄太君にチョコのお礼を言われて」 急に、呼吸が苦しくなる。 さ、酸素、プリーズ。 もしかして、これは、非常にまずい展開じゃ……。 「好きな人がいるから付き合えないって断られちゃって」 続きは、できることなら聞きたくない。 「はぁ? そんなの渡してないしって言ったら、ビックリしてた」 それで、もしかして…… 「それで、アニキが徹夜でチョコを手作りしてたから、私の名前を語って勝手に渡したんじゃない?って言っといたよww」 ポキって、音が確かに聞こえた。 俺の心が折れる音。 「あの、確認しますけど、一昨年の話っていいましたよね?」 妹に対して、なぜか敬語。 「うん。去年、何か言われなかった? え? ひょっとして、去年も私からって言ったの?」 ひょっとしなくても、言ったさ…… そして、ついさっきも、言ったさ…… あいつ、どんな顔をしていたっけ? 「まじ、うける~ww」 茫然として固まっている俺を悪魔は、ケラケラと笑う。 「誠二いる?」 今、一番会いたくないヤツの声。 勝手に、人のウチにあがりこんでくる。 「あ、いたいた! ちょっと、話があるんだけどいい? ここじゃなんだから、ちょっと外でようぜ」 促されるまま、隣の公園に向かう。 きっと、「気持ちはありがたいんだけど……」って例のお決まりの言葉を伝えに来たんだろう。 明日から、どうしよう。 もう、今までみたいに、一緒に学校に行ったり、メシをくったり、遊んだりできなくなるんだろうな。 これからの展開を想像するだけで、目の前が真っ暗になる。 「あのさ、チョコ、本当は誠二が作ってくれてたんだろ?」 何とか、誤魔化すことはできないだろうか。 頭をフル稼働して言い訳を考える。 チーン、閃いた! パティシエを目指してて、練習してるっていうのはどうか? お、我ながら、名案じゃねぇ? 「俺さ、パティ……」 「俺もお前のことが好きだからっ」   えっ? よく聞こえなかった。 わんもあぷりーず、せいざっとあげいん、ぱーどん…… 雄太の顔が、ぐんぐん近づいてくる。 ち、近すぎるんじゃねぇ?って、思った時には、唇に柔らかな感触。 「そーゆーことだからっ」 雄太は捨て台詞のように言い捨てると、そっぽを向いて走り去った。

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