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第2話

 俺は、幼馴染みの誠二と両想い。  もう、ずっと何年も前から。  友情と思っていたのが、恋心だと気付いたのはいつ頃だっただろう?  あいつも俺のことが好きなのは知っていた。  お互いに好き同士、両想い。  最後の一歩がなかなか踏み出せないまま数年。  この曖昧な関係に終止符を打つべく、俺はついに行動を起こした。 「俺もお前のことが好きだからっ」  バレンタインの日。  妹の名を語ってチョコをくれた誠二に逆告白をした。  その夜は、興奮して寝付けなかった。  日課のランニング途中、空が白むのをみて、「俺たちの新しい関係が始まる」と柄にもなく目頭を熱くした。  世界が変わるはずだった。  なのに、なのに…… 「雄太、宿題やってきた? ノート見せてくれっ」 「じゃ、肉まん1個な」  いつもの日常。いつもの会話。  あれから、1ヶ月。  俺たちの関係は、1mmも変わらない。  ――俺たち、付き合ってるんだよな? あの日から恋人になったんだよな? 「あのさ、付き合うってどんなことをするの?」  隣りの席の女子に尋ねる。 「基本的に、登下校は一緒でしょ。お昼も一緒に食べて、休みの日も一緒に遊んだりぃ?」  えっと、俺たちは登下校一緒で、昼も一緒に食べてる。  休みの日も、一緒に遊んでる。  おっ、全部クリア。  じゃあ、俺たちはちゃんと付き合ってる?  ――って、よく考えたら、友達だったらこれって普通じゃねぇ? 「友達だって一緒にいるじゃん? どうちがうの?」 「えっと、決定的に違うのは……スキンシップ? 手をつないだりぃ?」  手をつなぐ?  あははっ、うふふっと、手を取り合ってお花畑をぐるぐる回っている所を想像してみる。  ――なんか、違う。絶対、違う。 「うん、そうだよ。友達と恋人の違いは、手をつなぐかどうかっ! しかも、恋人つなぎ! 友達には絶対しないよ?」 「こ、恋人つなぎ??」  なんだ、そりゃ??  世の中には、そんなつなぎ方があるのか?? 「こうやって、指と指を絡めてつなぐのっ!」  俺の指と自分の指を絡ませて、実践してみせる。  ――うわっ、なんだこれ? これを誠二とやるのか?  こ、これは照れる……想像しただけで、耳が熱くなる。  帰り道、隣を歩く誠二を横目で窺う。  ――ちっ、カバンが邪魔。  俺は舌打ちをして、反対側に移動する。  ――よし、これで大丈夫。  そろそろとあいつの手に近づける。  小指の先が、あいつの小指を僅かにかすめる。  あと、もう少し……心臓がバクバクしてる。壊れそう。 「あ、ごめんっ!」  あいつが横によける。  俺との間に一人分の距離ができる。    ――げげっ、また最初からやり直し……。    気が遠くなって、頭がクラクラする。  初めて知った。  お互いに握ろうという意思がないと手をつなぐことは出来ないんだ。  手をつなぐって半端なく難易度が高い。  このまま、一生、手をつなげないんじゃ? 「おいっ! 雄太! さっきから俺の話、聞いてる??」  誠二がほっぺたを膨らませて、上目づかいで睨んでくる。  やばい、全然聞いてなかった。    ――てか、その表情、めっちゃ可愛い……    急に、胸がきゅんと締め付けられる。  思いっきり抱きしめたいって衝動が止められない。    ――なんだ、この気持ち?    体の内側から、訳のわからない感情が湧き上がってくる。    触りたい。  キスしたい。  服を脱がして、すみずみまで見てみたい。  大事に包みたい。  めちゃくちゃにしてみたい。  俺だけのものにしたい。     誠二が俺の目をじっと覗き込む。 「俺もお前のことが好きだから。ちゃんと言ってなかったし」  あ、今日はホワイトデーだ。  真っ赤になって走り去ろうとする手をとり、腕の中に閉じ込めると、びっくり顔のあいつが静かに目を閉じた。      ――そうか、これが付き合うってことか。    俺は、妙に納得した。  触れることを許される権利。それは恋人の特権。  こうやって、こいつの唇に触れることが出来るのは俺だけ。    心地よい沈黙に包まれながら、俺たちは指を絡ませて歩いた。

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