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第14話

 * * *  たっぷりと綿を敷き、布をかぶせた籠が寝室の窓際に置かれている。その中に納まって星明りを浴びているのは、ふたりの卵だった。ニルオスに報告すれば、ホクホク顔で「準備をしていた」とゆりかご代わりの籠を渡され、その上に置いて育つのを待てばいいと言われた。 「三か月で、卵がでっかくなって、人間の子どもぐれぇの大きさになったら、殻が割れるんだよな。こんなちいせぇモンが、そんなにでかくなるとは思えねぇけどよ」 「先に経験なされているニルオス様がおっしゃるんだ。間違いはあるまい」 「国王みてぇに、しっかり大人に育てねぇとな」  卵をつついたカヒトは「でもよぉ」とベッドに腰を下ろした。 「卵の間は、なんもしなくていいなんてなぁ」  そっと胸に手を置いて、息を吐く。 「乳が出るようになったってのに、殻が割れるまで役に立たねぇってのも、もったいねぇよな」 「そういうものらしいぞ」 「張っちまうから、たまに出せっつわれても捨てるのもなぁ」 「代わりに与える赤子がいるわけでもなし、飲ませるものが出せると先にわかってよかったと考えればいいんじゃないか」 「ま、そうだな」  眠る準備をしているリアノをながめていたカヒトは、ふと思いついてニヤリとすると、背後からリアノに飛びかかった。 「っ、なんだ」 「ん? せっかくだから、リアノに吸ってもらおうかと思ってよぉ」  ニヤニヤしながら上着を脱いで、乳首をグッとつきだしたカヒトに、リアノはゴクリと喉を鳴らした。ピンと尖った乳首が、リアノを誘う。 「ガキに乳をやる練習だと思ってさ。吸ってくれよ」 「私に乳は必要ない」  吸いたい欲を抑えて、リアノは顔をそむけた。 「そう言わずにさぁ。な? リアノ」  甘えかかられると、イヤとは言えなくなった。リアノはしぶしぶといった顔つきを作って、しかたがないなとつぶやくと、カヒトの胸を押し上げるように手を添えて、乳首を含んだ。  チュクチュクと吸われて、カヒトはリアノの背中を撫でた。淡い快感が乳首から全身へと広がっていく。 (俺の乳を、リアノが飲んでる)  とてつもない幸福感に包まれて、カヒトはニコニコした。胸に指を沈ませながら乳を飲むリアノが愛おしくてたまらない。慈愛に満ちたまなざしで、カヒトは陰茎を膨らませた。  気づいたリアノが片手を伸ばして、そこを撫でる。 「ふは、ぁ、ん」 「赤子に乳を与えながら、大きくするのか」 「ふっ、ぁ、リアノだから、でかくしちまったのかもしんねぇだろ」 「赤子に吸われても、反応はしないと?」 「しちまったら、こっちはリアノが吸ってくれ」  不敵に歯を見せたカヒトに、リアノはクックッと喉を鳴らした。 「いいだろう。淫らな獣は主人の奉仕が必要なようだからな」  目じりに鋭いものを浮かべたリアノに、カヒトは欲情をたぎらせた。唇を開いて舌をのぞかせ、キスを求める。 「リアノ……んっ、ん」  濃艶なキスをしながら互いを脱がし、横になって両手で相手の体をさすった。肌が熱を持ち、欲望が高まっていく。腰のものがぶつかりあって、根元をこすりつけながら深いキスを繰り返した。 「んはっ、ぁ、リアノ……あっ、あ」  唇から離れて顎から喉、鎖骨から胸へと辿ったリアノの舌が、乳首に戻る。吸われ揉まれるカヒトは脚を大きく開いて、リアノの腰を引き寄せた。秘孔が濡れて、ヒクヒクと下肢にあたる熱を求める。リアノは軽く腰を揺らして、切っ先でカヒトの尻をからかった。 「あぅ、んっ、は、リアノ、あっ、焦らすなよ……なぁ、あっ、は、ぁあ」 「焦らされたほうが、よろこびも強くなるだろう?」 「けどっ、あっ、欲しいんだよ、なぁ……リアノ、あっ、ああ」  求める声を聞きながら、リアノは執拗に乳首を責めた。手のひらで揉み、つまんで転がし舌先でからかって吸い上げる。 「はぅ、あっ、ああんっ、あ、リアノ、あっ、ああ」  形を持った想いがリアノに飲まれている気になって、カヒトはじんわりと心をとろかせた。 「は、ぁあ、リアノぉ」  さらりとした手触りのリアノの黒髪に指を絡めて、身をよじる。欲しい場所にぶつかるリアノの陰茎は、とても硬くて熱かった。どうしてこんなにしているのに、リアノは沈まないのだろう。こらえ性のない自分とは、いったいなにが違うのかと、カヒトは気になった。 「なぁ、リアノ」 「なんだ」 「なんで……でっかくしてんのに、いつもなかなか挿れてくれねぇんだよ」 「欲しいのか?」 「欲しいって、ずっと言ってんだろ。じゃなくて、すげぇ硬くしてんのに、すぐに挿れようとしねぇっつうか、けっこう長い間、俺をいじくってばっかだったりするだろ? なんでだ」 「愛撫は、嫌いか」 「すげぇ好きだけどよ。リアノ、俺のこと気持ちよくするために、ガマンしてんじゃねぇのか」  眉を寄せた案じ顔のカヒトに、リアノは吹き出した。 「っ、は……そんなことを気にしていたのか、おまえは」  笑いながらキスをして、リアノは腰の位置を動かした。切っ先で秘孔をつつき、勢いをつけて奥まで貫く。 「ひぎっ、あ、ぁおお……ぐ、は、ぁあっ、あ」  跳ねて仰け反ったカヒトの奥をこじ開けて、ガツガツと腰を動かしながら胸筋をわしづかみ、指の股で乳首を挟んで揉みこめば、乳が吹き出してリアノの指を濡らした。 「お、ぉおうっ、ぁはっ、は、あううんっ、く、ひぃいっ、リアノ、あっ、はぁあ」 「どうした? 欲しかったんだろう」 「ひ、ぁううっ、あっ、奥ぅ、あっ、リアノ、ひっ、ひぅう」  指でほぐさず貫かれ、カヒトは目を見開いて激しくあえいだ。濡れてはいたが衝撃が強すぎて、カヒトは目を白黒させながら快楽に苛まれた。 「はぅっ、は、はんっ、は、ぁあっ、あっ、ううっ」  深い場所を蹂躙され、乳を絞られるカヒトの陰茎が揺れながらしぶきを散らす。体中を濡らしながらのたうつカヒトを、リアノは劣情に輝く瞳で見下ろした。 「いいのか、カヒト」 「かふっ、ぁ、ああ、いいっ、リアノ、あっ、あああっ」  貪欲に内側を支配してくるリアノの欲に、カヒトは溺れた。すがるものを求めてリアノを抱きしめ、駄々っ子のように体を揺らす。 「リアノ、リアノ……あっ、ああっ」  欲しがり昂るカヒトの望むとおりに、己の欲の赴くままに、うねる内壁を責め立てたリアノは最奥に精を吹きつけた。打たれたカヒトが短く叫び、声にならない息を震わせてリアノの欲を搾り取る。 「は、ぁ、あ……ああ、あ」  痙攣する媚肉からリアノが抜けて、カヒトは弛緩した。胸は己の乳に、下肢は己の液とリアノの精にまみれている。 「満足か?」  髪をかき上げたリアノの妖艶なほほえみに、カヒトは頬を赤くした。 「どうした」 「すげぇ」 「なにがだ」 「わかんねぇけど」  はにかんだカヒトは、色っぽいし、男らしいし、かっこいいなとリアノを見つめて手を伸ばす。 (ああ、惚れきっちまってんだなぁ)  しみじみと味わって、カヒトはリアノを引き寄せた。唇をついばんで、そうだと思い出す。 「さっきの答え、まだもらってねぇぞ」 「なんだ」 「俺を気持ちよくするために、ガマンしてんじゃねぇかって話だよ」 「ああ」 「どうなんだ?」  じっと見つめるカヒトを見返し、リアノはフフンと鼻で笑った。 「私の愛撫は、うれしいか?」 「おう」 「気持ちがいいか」 「めちゃくちゃいい」 「欲しがるものなぁ」  指先で胸筋の溝をなぞられて、カヒトはゾクゾクした。 「私を感じて、悶えるおまえを見たい」 「えっ」 「理由だ」  まばたきをして、カヒトは言葉を吟味した。 (リアノを感じて、悶える俺が見たいって……どういうことだ?) 「わからないか?」  ささやくリアノに、カヒトはうなずく。 「私以外を忘れるだろう? 私だけに満たされて、私の思う通りに支配されて、ひたすら私を求めるおまえを見たいからだ」  キスとともに教えられ、カヒトは遠回しな告白に体を跳ね上げ、リアノを抱きかかえて部屋中をクルクルと踊りまわった。 「っ、おい……カヒト」 「くぅうっ! リアノ、愛してるぜっ」  吠えたカヒトは、とまどうリアノを連れて窓際に行き、卵に話しかける。 「おい。おまえの親はすんげぇ愛し合ってんぞ。だから、しっかり育って生まれてこいよ。たっぷりとかわいがってやるからよぉ」  なあ、と同意を求められて頬ずりされたリアノは、まったくと笑いながら呆れた。 「長年、温め続けた想いの結晶が、おまえだ。無事に……そうだな、カヒトのように愛想よく生まれるといい」 「なんでだよ」 「多くの人に愛される人物に育つほうがいいだろう?」 「そうかぁ? 俺は、別にそうは思わねぇけどな」 「なぜだ」 「そりゃあ、嫌われるより好かれるほうがいいけどよ。肝心の相手に好かれなきゃ意味がねぇだろ? どんだけ好かれても、リアノじゃねぇなら困るだけだったからな」  さらっと言われて、今度はリアノが赤くなった。 「まったく、おまえは臆面もなくそういうことを」 「うん?」 「いや、いい。そうか……そうだな。想う相手に想われる未来を得るために、やはり愛想よく育つほうがいいだろう」 「リアノは愛想が悪ぃけど、俺に惚れられてっからいいんじゃねぇの?」  視線を外して、リアノは窓の向こうに広がる星空を見た。静かな光が地上にやわらかく降り注ぎ、安息の時を守っている。 「リアノ?」  空からカヒトの紋へと顔を動かして、リアノは想い人の肩に頭を乗せた。指先で紋をなぞり、物憂げな息を吐く。カヒトも紋に手を置いて、リアノの指に指を絡めた。  紋がなければ、いまはなかった。想い合っていながらも、気持ちを通じ合わせることなく一生を終えていたはずの自分たちに与えられた奇妙な奇跡。 「あんとき、うっかり油断してよかったって言ったら、怒るか?」 「二度と油断はするな。命を落としていたかもしれないんだぞ」 「けど、そのおかげで」 「言うな」  首を伸ばして、リアノは唇でカヒトの言葉を遮った。 (こんなにも愛おしい相手が、別の誰かと結ばれる姿を見るつもりでいたとはな)  七か月前の自分を思い返して、リアノは笑う。星明りに照らされた白い肌と美麗な顔立ちに引き込まれて、カヒトはキスを返した。 (胸がえぐられるぐれぇ惚れてんのに、いつかリアノが結婚して、しあわせな家庭を作ればいいなんて考えてた俺ぁ、大馬鹿だな)  紋が繋いだ関係だとしても、想いはもともと己のものだ。子どもが育ち、公表するに至っても、堂々と気持ちに偽りはないと言える。 ――魔力を含んだ紋の研究のために、フェロモンを発する紋を受けた身を実験材料として提供したのですよね。辛くはないですか?  いつだったか、稽古をつけていたときに、こっそりと部下に投げられた質問を思い出したカヒトは、リアノをしっかりと抱きしめて卵を見つめた。 ――辛くなんてねぇよ。ま、紋がきっかけではあるけどな。リアノとつるんでんのは、俺がリアノを選んだからだ。いや、違うな。俺はもともとリアノに惚れてっから、自分の失態を理由にリアノを巻き込んだってぇところか。だから、辛いどころか願ったりかなったりだ。  意外だと、顔中で驚く部下にカヒトはニンマリと歯を見せて言い切った。 ――フェロモンなんてクソくらえ。紋なんて関係ねぇよ。俺ぁ、リアノに惚れてんだ。魔物の紋に負けるような、ヤワな精神してねぇよ。 (だから、なんか言われても、おまえは恥じることなんざねぇんだぞ。変わった生まれだけどよぉ、俺たちはきちんと愛し合って、おまえを産んだんだからな。だから……元気な顔を見せてくれよ? 俺とリアノの子ども……おまえは、想いの結晶なんだからな)  語りかけたカヒトは、全身でリアノに甘えてキスを求めた。  淡いキスを繰り返すふたりと、ちいさな命の塊を、おだやかな星々の光が包み込んでいる。 END

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