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第13話

 もうすっかり新しい生活になじんだカヒトは、森の奥で薬となる木の実の採取をしている途中、違和感を覚えた。 (朝から、なんかちょっとダリィと思っていたけど、こりゃあ本格的に風邪でもひいたか?)  ふんわりと体が浮いているような感覚が肌にまとわりついている。眠気に似たものが体をおおっていた。けれど意識は冴えている。無意識に腹をさすったカヒトは、すっきりと晴れ渡る空を見上げて目を細め、住居でもある魔導士長の研究室へ戻ることに決めた。 (万全じゃねぇなら、とっとと休む)  兵団長を務めていたときに、部下に言い続けていた言葉だ。ほんのわずかなスキが命を落とすことになる。だから己の体とは深く語り合えというのが、カヒトの兵士としての心構えだった。  するすると木から下りて、のんびりとした足取りで帰路を辿る。  ニルオスの兵士となってから、はじめの三か月ほどは想いを遂げられたよろこびを存分に堪能し、次の三か月はリアノやニルオスの研究の手伝い、教えを乞うてくる元・部下たちとの鍛錬をおこなうという日常になじみ、先月からは研究室の薬草の種類もかなり覚えたので、不足しているものを修行がてら採取をしに行くようになっていた。  その間、紋がカヒトの精神を離れて熱くなることはなかった。コントロールができている、というわけではない。感情が高ぶれば、紋が熱くなる。しかし部下たちの汗の匂いに反応することは無くなった。紋が認識する対象は、リアノのみになっている。  ニタリと口元をだらしなくゆるめて、カヒトは鼻歌まじりに森を進んだ。そよそよと、かすかに流れる風が心地いい。ふわふわと短いクセ毛を揺らしながら、カヒトはリアノを目指した。 「リアノ」  彼に与えられた研究室の戸を開ければ、リアノは顔を上げるどころか返事すらもしなかった。書物に顔を突っ込むようにして、真剣な目をしている。ここにはリアノの知らない知識が、一生かけても読み切れないほど収蔵されている。勤勉だなぁとニコニコしながら、カヒトは机に採取してきたものの入った革袋を置いた。  気づいたリアノが顔を上げ、目元をゆるめたカヒトは彼の頬を両手で包んだ。 「帰ったのか」 「さっきな。声をかけたぞ」 「集中していた」  うん、とうなずいたカヒトが顔を寄せると、リアノは首を伸ばして唇を迎えた。 「んっ、なぁ……リアノ。朝から調子が悪いんだ。ちっとばかしダルイっつうか、眠いっつうか、けど、頭はしゃっきりしてんだよ。ぼんやり体が熱いっつうか……あ」 「どうした?」 「リアノが食いてぇ」 「は?」  ニヤァっと口をゆがめたカヒトは、おもむろに服を脱いだ。リアノは黙ってながめている。すっかり裸身になったカヒトが、ピシャリと下腹を叩いた。 「ふんわり体が熱いんだけどよぉ、紋は別になんともねぇよな」  示されて、リアノは紋に顔を近づけた。すっかり見慣れたそれに変化は見られない。 「違和感があるのか」 「紋っつうより、体全体? なんか、ちょっと熱っぽいつうか……けど、紋が反応してねぇのに、すげぇリアノが欲しい」  ペタンと床に座ったカヒトは、リアノの腰に手を伸ばした。リアノの体を自分に向けて、ズボンに手をかける。 「少し待て。キリのいいところで休憩にする」 「待てねぇ」 「カヒト」 「なんか、すげぇ欲しいんだよ……なんでか、わかんねぇんだけど」  眉をひそめたリアノは、カヒトの好きにさせることにした。茶色のクセ毛を撫でて、自分の下肢が取り出されるのをながめる。ほんのりと甘い香りを感じて、やはり紋の影響かと吐息を漏らした。  カヒトの興奮に影響されるのか、紋が主体でカヒトを反応させるのかは、まだわかっていない。前ほど紋に引きずられることはなくなっていたが、扱い切れているとは言い難い。いまのように、まるで発情期の獣みたいにカヒトの意志とは関係ないと思われるフェロモンの放出が起こることがあった。 「んっ、ふ」  まだ柔らかいリアノの欲の先端を口に含んで、カヒトはチュクチュクと吸いながら己の肉欲を握った。ゆるゆると自慰をしながらリアノを刺激し、口内で硬く大きく育てていく。 「ふ、ん……んっ、う……はふ、ぅ……んっ、んんっ」  膨らんだカヒトの陰茎の先から先走りがにじみ出て、尻の奥が濡れはじめる。トロトロと湧き出る己の体液を感じると同時に、紋がじわじわと熱を放った。水に小石を落としたように、肌に熱の波紋が広がる。 「んっ、う……っ、リアノ、なぁ」 「どうした」  カヒトの髪を撫でながら、リアノは顔を近づけた。 「なんか、いままでと違ぇ」 「どう違う」 「すげぇ興奮して、たまんねぇって感じじゃなくて、ふんわりとして…………ああ、終わった後、寝るまでキスとかいっぱいすんだろ? そんときの、あったけぇ感じに似てるつうか。けど、これがすげぇ飲みてぇんだよな」  しゃべるために口から外していたものを、咥え直したカヒトは目を閉じて自分の体を確かめた。口内の熱に上顎や頬裏を刺激されるのは気持ちがいい。先走りを吸い上げて、呑み込めば胸が熱くなった。自分の欲も秘孔も熟れている。けれど情欲とはなにかが少し違っていた。 (なんだ? なにが、違うんだ)  まったくわからない。ただ、奥が濡れて、陰茎も強く反応している。紋も熱を発しているし、リアノが欲しいのも普段と変わりない。ただ――。 (奥に欲しいとは思わねぇ)  口の中でたっぷりと転がして、彼の精を飲みたくはあるが、突き上げられたいとは思わない。いつもなら、奥をこれの切っ先で、こじ開けられたくてたまらないのに。 (リアノって、見た目と違って激しいんだよなぁ)  しゃぶりながらニヤニヤするカヒトは、汗にまみれて追い立ててくるリアノを思い出した。  うわずった獰猛な笑みは支配者の愉悦にも見えて、リアノのものだと心身ともに喜悦を味わえる。獣のように背後から突き立てられ、最奥を切っ先でぶち抜かれる快感は、頭の芯が痺れるほどだ。気持ちがよすぎて泣きながら求めれば、リアノは背中にキスをくれる。甘い刺激と乱暴なほどの突き上げに苛まれ、恍惚の遠吠えを放つカヒトにとっては魂ごと解放される最上の瞬間だった。 「う、んっ、ふ……うむっ、う、んんっ」  口の中にあるものが、愛おしくてたまらない。カヒトはうれしそうにリアノの陰茎をしゃぶった。  尻を前後に揺らしながら自慰をして、陰茎に口腔でじゃれつくカヒトの髪を、リアノは愛おしさを乗せた指で撫で続けた。自分よりひと回りも大きく、みっしりとした筋肉をまとっている男を、かわいらしいと思う己はおかしいのだろうか。  子犬のようになついてくるカヒトの、無邪気な笑みや淫靡な肢体は独占欲を抱かせる。純粋に力だけならカヒトのほうが優れている。それなのに、庇護欲と支配欲を引き起こされるのが不思議だった。 「カヒト」 「んぅ……ふっ、んっ、んう」  甘えるカヒトに心が熱くなる。愛おしくてたまらない彼の髪にキスをした。 「ふっ、ん……んんっ、う、ん」  カヒトの動きが早くなる。口内にリアノを放ってほしくて、頭を動かし自分を高めた。秘孔から液があふれて床を濡らす。ふと、カヒトは奥からなにかがせり上がってくるのを感じた。 (なんだ、こりゃあ)  未知の感覚に眉をひそめれば、乳首が疼いて胸筋が張った。内側になにかが貯まっているみたいだ。扱く手とは別の手を胸に当てて抑えれば、乳首からなにかが垂れた。  確かめたいが、口内のものを外したくない。口の中で育てた欲は、もうあと少しで破裂しそうなほどに張り詰めていた。降り落ちてくるリアノの息も熱い。自分の欲も限界が近づいていた。 (後でいい)  リアノを飲みながら放った後に、体を確かめればいい。いや、リアノに確かめてもらえばいい。張った胸の先で、乳首が細かく震えている。リアノに吸ってもらおう。そしてたっぷり、全身を愛撫されるのだ。  想像したカヒトは、リアノを強く吸い上げながら絶頂を迎えた。短いうめきと共に口内に精が注がれる。 「んっ……ぅ?」  放つと同時に、秘孔からなにかがコロリとこぼれ落ちて、カヒトは目をぱちくりさせた。ゴクリと精を飲み込んで顔を上げる。 「どうした、カヒト」  ポカンとしているカヒトの前髪をかき上げて、リアノは問うた。 「なんか、出た」  どういうことだと顔に浮かべたリアノに、首をかしげたカヒトは腰を浮かせて床を見た。 「うぇっ?」  つやつやとした白い球体が転がっている。手を伸ばして拾えば、ほんのりとあたたかかった。 「なんでぇ、こりゃあ」 「卵……か? あ」  気づいたリアノは、机上に置いてある暦表を確かめて息を呑んだ。立ち上がったカヒトは硬直しているリアノの顔に頬を寄せ、暦表を見たが特にこれといって変わったことは書いていなかった。 「なんだよ。どうしたんだよ」 「覚えていないのか」 「ん?」 「ニルオス様の、おっしゃったことだ」 「じいさん、なんか言ってたか?」  盛大なため息をつき、リアノは片手を顔に当てた。 「なんだよ、どういうこった?」 「それは、おまえから出たんだろう」 「なんか出た感じしたから、そうなんだろうな」 「それが、卵だ」 「みてぇだな」  察しが悪いなと視線で言われて、ムッと唇を尖らせた瞬間、カヒトも気づいた。 「俺たちのガキか!」  声を跳ねさせたカヒトの満面に喜色が広がる。ニルオスに相談したとき、子どもができた場合の話を聞かされた。 ――生まれるのは六か月から七か月。卵が孵化するのは、生み落としてから三か月ほどだ。はじめた手のひらに乗る大きさの卵だが、だんだんと大きくなって、最後には人の子どもほどに育つ。 「なんだよ、興奮してんのにケツに欲しいって思わなかったのは、そういうことか」 「産むための精力が欲しかった、というところか」 「だから胸が張ってんのか?」 「胸?」 「おう。あっ」  自分の胸を見下ろしたカヒトは、乳首から乳白色の液体が漏れているのに気がついた。 「卵から出てきたら、乳で育てんのか? けど、まだあと三か月ぐれぇは、卵のままなんだよな」  手の中の球体を見て、カヒトは「そうだ」と机に乗せると、乳首をそれに近づけた。 「なにをしている?」 「いや。乳が出るってことは、与えろってことかと思ってよ」  ギュッと胸筋を押してみるも、わずかに滴るだけだった。 「うまくできねぇな」  紋のフェロモンとは違う甘さを含んだ香りが広がり、リアノは普段よりも盛り上がっているカヒトの胸筋を見た。 「うーん。張って疼くっつうか、出せるもんなら出してぇんだけどなぁ。リアノ、ちょっと絞ってくれよ」  頼まれて、リアノは手を伸ばした。張り詰めている肌を押せば、乳首が震えて先端からわずかに汁が流れた。 「もっとこう、ギュウッと。あ、卵にかけてぇから、後ろからこう、するってのはどうだ」  言いながら、カヒトはリアノのイスを引いて、彼と机の間に体を入れた。腰をかがめて卵を手のひらで固定し、乳首を近づける。 「これならいいだろ。ほら、ギュッと絞ってくれ」  頼まれて、困惑しながらリアノは背中から抱きつく形でカヒトの胸に手を乗せた。絞れと言われても、搾乳などしたことがない。グッと胸を抑えてみたが、指に当たる乳首からはわずかな湿りしか感じられなかった。 「全然出てねぇ」 「わかっている」  グッと指に力を込めて揉みしだいても、トロトロとこぼれるだけだった。牛の乳を搾っている様子を見たことがあったなと思い出し、揉みながら乳首をつまんで引っ張ってみる。 「んぁっ、あ、出た、ぁ……リアノ、あっ、卵に」  報告をされなくとも、ふんわりと優しい匂いが広がって、乳が出たことがわかった。続けていると、カヒトが尻を上下に揺らし、艶やかな声を出す。背後から抱きしめているリアノの股間が尻の谷に擦れて膨らみ、淫らな声に淫情が刺激された。 「は、ぁ、リアノ……んっ、ケツ……あっ、ぁ」 「当たっているのが、不快か」 「違ぇ……欲しい……あっ、ぁ……乳首、もう片っぽも……なぁ、リアノ」  グリグリと尻を突き出してアピールするカヒトの陰茎から、トロトロと先走りがにじみ出ている。淫らな香りと甘やかな匂いに脳髄を揺さぶられて、リアノは切っ先で秘孔をつついた。 「んっ、ぁ、そのまま……リアノ……ずぶっと奥に……早く、なぁ……たまんねぇ」 「大丈夫なのか」 「なにがだよ」 「産んだばかりだぞ」 「知らねぇよ……欲しいんだ、なぁ、あっ、あ……リアノ……奥、なぁ、リアノ」  誘惑に従って、リアノは深く貫いた。のけぞったカヒトの乳首から液が吹き出す。 「はっ、ぁ、ああ、出る、あっ、リアノ……もっと、絞っ……あっ、奥、んっ、いい……は、ああ、あっ、ああ」  卵を手のひらに包んで、カヒトは悶えた。ガツガツと背後から打ちつけてくる快感と、張り詰めた胸から絞られる幸福とが体中を駆け巡る。 「うっ、ぁんっ、は、ぁあ……すげ、なんか、あっ、ヤベェ……いいっ、あ、リアノ、リアノぉ」 「くっ、そんなに絞めるな……っ」 「んぁあ、無理ぃ、あっ、もっと、リアノ、もっとぉ」  尻を振り立てるカヒトの奥を、リアノは切っ先でこじ開けて享楽に啼かせながら乳を搾った。研究室に育む匂いが広がって、リアノの腰が早くなる。 「はぁううっ、はんっ、は、あ、あっ、リアノ、も……あっ、イクゥ、あっ、ああっ、あ」 「んっ、私も、だ……カヒト」 「ひっ、ぁ、あはぁうううっ」  ズンッと深く突き上げたリアノが放てば、カヒトも体をそらして極まりを味わった。手の中の卵はたっぷりと乳を浴びて濡れている。余韻を味わい追いかけて、手の届かない場所へ快感の尾が抜けると息を吐き、ふたりは体を離した。 「はぁ……乳、かけてみたけど、変化はねぇな」 「殻を通じて沁み込むとでも考えたのか」 「まあな。けど、なんの変化もねぇな。じいさんに、産んだけどどうすりゃいいのかって聞きに行くか」 「ああ、そうだな。私たちの子どもを、無事に育てきらねばならないからな」  ヘラッとカヒトが笑う。 「どうした」 「ん。ガキができて、よろこんでくれてんのかなと思ってさ」 「それは、まあ、そうだな。研究の役に立つ」 「それだけか?」  カヒトは卵を机に置いて、リアノを抱きしめた。 「ほかに、なにがある」 「すげぇ、幸せそうな顔してっからさ」  自分の顔に手を当てたリアノの額に、カヒトはキスをした。 「俺たちのガキ、大事に育てような。リアノ」  はにかむカヒトの唇に、リアノは微笑を重ね合わせた。

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