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第12話

 * * *  目を閉じておとなしくしているカヒトにキスをしながら、リアノは紋を見せられてから今日までの、彼の言動を思い返していた。 (すべて、気持ちの吐露だった)  素直に受けていれば、いまごろはとっくにカヒトと結ばれていた。勘ぐらなければ、想いを遂げられていた。 (わかるわけがない)  想いをかけられているなど、考えつきもしなかった。キスを受けるカヒトもきっと、そうだろう。 (私が懸想をしているなどと、少しも気づいていない)  舌を伸ばして口腔をまさぐりながら、リアノは考える。あんな一方的な契約の締結では納得できない。想いを重ねる儀式のように、この男を存分に愛撫して抱きしめよう。 「んっ、う……は、ぅむ……ふ」  上顎をくすぐり、舌を絡めて口内を舌先で撫でられるカヒトは、求めた以上のキスに体の力を抜いた。意識をすべて舌先に集中させてリアノの舌撫を味わえば、ふんわりとした熱に包まれる。 (なんだ、これ)  紋にうながされた情動とは違う興奮に、カヒトはそっと目を開けた。チュッと軽い音がして唇が離れる。微笑をたたえたリアノの表情は、陽だまりにそっくりだった。 (なんて顔してんだよ)  まるで恋しい相手を見ているようじゃないかと、カヒトは胸を轟かせた。 (まさかな……俺の告白を聞いて、笑っているだけだ)  変なヤツだと笑われているだけなのに、都合よく解釈したがる気持ちが、視覚をおかしくしているのだと、下りていくリアノの唇に小さな嬌声を上げた。 「あっ、は…っ…ぁ、ん……ふ、ぅう」  肩にキスをされて、カヒトはベッドに倒れた。胸筋にリアノの指が沈む。乳首をつままれこねられながら、恍惚の息を吐くカヒトの喉仏をリアノは吸った。 「ふっ……ぁ、リアノ……ひぁ」  つまんでいた乳首をひねったリアノは、ビクンと跳ねたカヒトの反応にニヤついた。 「気持ちがいいのか」 「ぁ、んっ、いい……なんだよ、すげぇ意地の悪い顔してよぉ」  クリクリと乳首をこねられる心地よさに声を震わせ、カヒトは唇を尖らせた。フフンと鼻を鳴らしたリアノが、乳首に軽く歯を立てる。 「ぁうっ、リアノ……んっ、ぁ、それ……はぁ、あっ、あっ」  コリコリと軽く歯で挟まれて乳首を転がされたカヒトの下肢が跳ね、秘孔がヒクヒクと収縮した。奥からトロトロと液があふれて、尻からシーツへ垂れ落ちる。 「んぁ、あっ、リアノ……は、ぁあ……っ、う、ん」  胸筋の弾力を指で味わい、舌先でコロコロと突起を刺激するリアノの股間が脈打つほどにそり返った。互いの陰茎の先端がぶつかって、同時にうめく。 「んっ、ぁ、リアノ」 「ふっ、カヒト」  がぶりと胸筋に歯型をつけて、リアノは胸筋の谷から腹筋の溝を舌でなぞった。胸に薄く残ったリアノの歯型に指を這わせて、カヒトは頬をゆるめる。 (リアノの痕だ)  所有物だと示された気がして、うれしかった。もっと体中どこもかしこもリアノの印をつけられたい。俺のすべてはリアノのものだと、リアノが俺を自分のものだと主張する証が欲しい。 「ふぁ、あっ、リアノ……んっ、ぁ、は、ぁうう」  先走りをこぼすカヒトの先端を手のひらに包んで揉んだリアノは、舌で紋をなぞった。これのおかげで、互いの想いは通じているのだと知れた。感謝を込めて紋を愛撫し、膨らんだ蜜嚢を口に含んで甘えるようにチュクチュクと吸った。 「ひはっ、ぁ、はぅうっ、リアノぉ……んっ、ぁ、それぇ、あっ、ああっ」  亀頭の先を揉みこまれ、蜜嚢をやわやわと食まれるカヒトは膝を折って足を大きく開くと尻を持ち上げて揺らした。たっぷりと濡れた秘孔がリアノを欲しがっている。先端と蜜囊の刺激に、空白の幹が愛撫を欲しがってズクズクした。 「ひふっ、う、先っぽばっか……あっ、ああ……リアノぉ、んっ、ぁ、ああっ」  悶えるカヒトの嬌声を甘美な音色と聞きながら、リアノは蜜嚢から口を離して陰茎の根元から先端を舐め上げた。 「は、ふぅうううっ」  声を震わせたカヒトの腰が小刻みに震える。手に握りこんだ亀頭はぐっしょりと先走りで濡れそぼり、可憐にわなないていた。想いを込めてキスをして、口内に引き入れたリアノは先端を飴玉のように口内で転がし、軽く吸って喉奥まで呑み込むと、口をすぼめて口腔で扱いた。 「んはっ、ぁ、リアノっ、あ、は、ぁあ……いいっ、それ、すげぇ、あっ、あ」  背をそらして、カヒトは快感の声を上げた。気持ちがよすぎて腰が勝手に動いてしまう。足指でシーツを握り、カヒトはリアノの頭に手を伸ばした。さらさらとした黒髪に指を絡めて、リアノの口から洩れる濡れ音に耳をかたむける。 「はふっ、う……いい、ぁ、ああ……っ、リアノ、あっ、リアノぉ」  鼻にかかった甘い声で呼ぶカヒトに、リアノは愛おしさを募らせた。根元を扱いてたっぷりと吸い上げると、カヒトの腰がこわばって口内に精を注がれた。喉に吹きつけるそれを舌で押さえ、高価な酒を味わうように筒内のものまで余さず丹念に吸い上げる。 「ふはっ、ぁ、は……リアノぉ……ぁあ」  とろけたカヒトは絶頂の心地いい脱力に包まれながら、体の奥にリアノを求めた。濡れた尻に指を這わせたリアノはヒクヒクと動く口を指先でなぞり、この奥で圧迫されたぬくもりを思い出す。 「カヒト」  内腿にキスをして身を起こしたリアノは、そびえ勃つ肉欲の先でカヒトの尻をつついた。秘口がリアノの先端に吸いついて、奥へと誘う。 「いいか?」 「いいもなにも、欲しくてたまんねぇよ」  カヒトはリアノの腰に足を絡めて引き寄せた。カヒトに誘われるままに、リアノは切っ先で狭い口を開いて押し入った。 「くっ、は、ぁ……ああっ、あ、リアノ、もっと……奥に」  圧迫にあえぐカヒトの喉にキスをして、リアノは求められるままに根元まで埋め込んだ。肌がぴったりと重なって、すべてがカヒトに包まれる。ふうっと緊張に詰めていた息をこぼしたリアノに、カヒトは心底からの笑みをひらめかせた。 「なんだ、その顔は」  照れくさくて、リアノは渋面を作った。 「へへ……リアノから、俺に突っ込んでくれたのがうれしいんだよ」 「私からするとは、思わなかったのか」 「してくれるだろうなとは思ったけどよ、リアノは俺につき合っているだけで、別に俺を抱きたかねぇだろ?」  ちょっと笑みを曇らせたカヒトの額を、リアノはピシャリと叩いた。 「私がイヤイヤおまえにキスをしたり、しゃぶったりしていたと思っていたのか」 「うん?」 「いくら任務だと命じられても、おまえ以外にするわけがないだろう」  ほころばせた唇でカヒトの口を軽く撫でたリアノは、強く彼を抱きしめた。 「誰にでも、このようなことをするものか」 「え……それって、え、え……えっ?」 「察しが悪いな。まあ、人のことは言えないが」 「えええっ!」  ガバリと起き上がったカヒトの内壁が絞まって、ふたりは圧迫感にうめいた。身を起こしかけたカヒトはふたたび倒れ、マジかよぉとニヤニヤしながら腕で顔を隠した。 「なんだよ、それ。両想いだったってことかよ……マジかぁ」 「私も、信じられん」  目を閉じて、ふたりは無言で互いを堪能した。リアノは自分よりも高い体温と、みっしりとしたたくましい肉体を。カヒトは自分よりもひとまわり小さくて、なめらかな肌触りと薬草の匂いを。  やがてゆるゆるとリアノが体を動かして、カヒトは腰をくねらせた。動きはだんだん早くなり、汗をかくほど激しくなった。 「ふぁっ、あ、リアノ、あっ、ああ……あっ、あ、奥、すげ、ぁ……もっと、リアノ、もっと!」 「くっ、カヒト……そんなに、締めるな……っ、動けなくなるだろう」 「んぁ、知らねぇよ……っ、いい、あっ、リアノ、リアノぉ」  首を振り、貪婪に快楽を求めるカヒトの獣欲にあおられて、リアノも髪が汗で濡れるほど勇躍した。獣じみた荒々しい息を吐きだし、噛みつくようなキスをしながら共におなじ頂を目指して昂る。 「はっ、はぁあっ、あっ、くぁああっ、あっ、でるっ、あ、イク、イク、も、ぁあ、リアノ、なぁ、くれよ……リアノもっ、なぁ、リアノ、リアノ」 「んっ、うるさい……言われなくとも……っふ」 「あっ、ひぁあああっ!」  必死に求めるカヒトに、リアノは想いの飛沫をすべて与えた。受け取ったカヒトが弾けて、互いの腹が濡れる。硬直し、余韻をたっぷりと味わったふたりは、引いていく快感の名残を惜しみながら唇を重ねた。 「は、ぁ……んっ、リアノぉ」  笑みとろけるカヒトの腕が、しっかりとリアノを包む。 「なんか、ちょっと儀式っぽかったな」 「ぽい、ではなく、そのつもりだ。おまえと私の契約なのだからな」 「ふたりだけの結婚式ってぇところか?」  法悦にたゆたったままのカヒトの笑顔は、欲情を再燃させるのに十分な威力があった。ヒクリと反応したリアノの陰茎に、カヒトが「おっ」と眉を持ち上げる。 「なんか、またちょっと硬くなってねぇか?」 「おまえが私を誘うからだ」  誘ったつもりのないカヒトは首をかしげ、まあいいやと口角を持ち上げる。 「まだ体力が残ってんなら、もっとリアノを俺にくれよ。なんなら、足腰が立たなくなるぐれぇ、たっぷりと食わせてくれ」 「おまえの体力につき合えと? 兵団長のおまえを満足させられるほどの体力は、持ち合合わせてはいないがな」 「精力は体力に関係ねぇだろ? よっ、と」 「おい、カヒト……っ、あ」  リアノを抱えたまま、カヒトは反転した。のしかかられて、リアノは眉間にシワを寄せる。 「体力がねぇんなら、リアノは横になってろよ。俺が動く」 「私の精気を吸い尽すつもりか」 「はじめは、一回やれりゃあいいかって思ってたけどよ、リアノも俺を好きだつうんなら、遠慮をしなくていいだろう? ずっと、ずっと好きだったんだ。けど、ガマンしてた。リアノはそっけないからさぁ、俺をどう思ってんのか、ぜんっぜんわかんなかったんだよな」 「わからないのに、しつこくまとわりついてきたのか」 「俺から声をかけねぇと、接点がなくなっちまうだろ? 用事がねぇと、リアノは俺になんにも言ってこねぇしよ」 「それは……おまえは、いつも大勢の人間に囲まれているだろう?」 「だから、なんだよ。遠慮してたのか? 気にしねぇで、声をかけてくれりゃあいいじゃねぇか」 「理由がない」 「理由なんざ、ただしゃべりてぇとか、一緒に飯を食いてぇとかでいいじゃねぇか」 「おまえは、理由もなく私に声をかけてきたな」 「理由はあるぜ」 「どんな」 「リアノとしゃべりてぇって理由だよ」  一点の曇りもないカヒトのさわやかな笑顔に、リアノは満面を朱に染めた。意外な表情に、カヒトは「おっ」と意地の悪い笑みを浮かべる。 「なんだよ、照れてんのか?」 「うるさい」  顔を背けたリアノは、腕で目元を隠した。 「おまえは、そんなくだらない理由で私にまとわりついていたのか」 「くだらなくねぇよ。好きなヤツと一緒にいたいってのは、大事なことだろ? 俺はリアノの傍にいてぇんだよ。誰よりも近くにいたいんだ。だから声をかけた。リアノの唯一の友達だとか言われて、浮かれてた。なんだかんだで相手してくれっから、嫌われてはいねぇんだろうとは思っていたけどよ……まさか、リアノも俺を好きだったとはなぁ」  クククと笑ったカヒトの腹筋が揺れて、呑んでいるリアノを締めつける。ふたりは軽く片目をすがめ、同時に快楽にみまわれたことに笑った。 「すげぇ、しあわせだ」  言葉通りの表情で、カヒトはリアノを抱きしめる。頬をすり寄せられ、首筋に唇で甘えられて、リアノは彼のクセのある茶色の髪を撫でた。 「まるで大きな獣だな」 「おうよ。俺ぁ、でっけぇ獣だよ。ガキの頃からずうっとリアノになついてる、でっけぇ獣だ。俺のあだ名を知ってるか?」 「猛獣、だろう? 魔物に向かう姿が、獣じみていて凄味があると聞いている」  紋の情動に操られ、赤い瞳で襲いかかってきたカヒトを思い出し、リアノは彼の瞳をのぞいた。朝焼けに似た紫の輝きに唇を寄せれば、カヒトがくすぐったそうに肩をすくめる。 「紋は、もう疼かないか」  ささやいたリアノの唇を、カヒトは舐めた。 「いまは、なんともねぇよ。けど、離れたらまた暴走するかもな。リアノが欲しくてたまんなくなって、どこにいても見つけて走る」 「どこにいても、私を見つけられると脅しているのか?」 「薬草を採りに山に入って崖に落っこちちまっても、ぜってぇ俺が見つけるってわかってたら、いいだろ」 「崖に落ちるようなヘマはしない」 「わかんねぇだろ。魔物に出くわして、逃げている間に……ああ、後でじいさんに聞かなきゃな」 「なにをだ」 「リアノが俺を呼びよせる方法はねぇのかってことをだよ。淫紋なんだろ、これ」 「似ていると言っただけで、淫紋と断言はしていない」 「細けぇな」 「大事なことだ。ささいな違いが、重大な失敗に繋がる」 「まあ、とにかく、淫紋みてぇなもんってことで、それって性奴隷に使われてたんだよな。だったら仕事をさせるために、紋を刻んだ相手をエロい気分にさせなきゃなんねぇ。て、ことはだ」  うん、とうなずいて、カヒトはリアノの上から退くと、もうひとつのベッドへ移動した。 「そっから、リアノが俺を呼んでみるってのは、どうだ」  ベッドに腰かけたカヒトは、うれしそうに紋を叩いた。 「遠隔操作を試すつもりか」 「できりゃあ、便利だろ? 魔物に襲われたときに、すぐに助けに行けるしな」 「私が襲われることが、前提なのか」 「万が一を考えて行動するのが、兵士だからな」  ふむ、と顎に手を当てて、リアノは考えた。カヒトが紋の力を使って離れた場所の自分を見つけられるなら、逆もまた可能なのではないか。 (私が襲われた場合を想定しているが、カヒトが怪我をする場合も考えられる)  紋で繋がった主従が双方の状態を把握できるとなれば、紋についての研究をする格好の理由になる。 (主従は一生を決める問題だが、生涯の相棒と決めた相手と連携を取れるようになるとなれば、兵士と魔導士、双方に益がある) 「な。やってみようぜ、リアノ」  ワクワクしているカヒトに、リアノは苦笑した。 「してもいいが、部屋の中でか? また、前のように目隠しでもするか」  思い出し、リアノは淫靡な興奮を膨らませた。自由を奪われたカヒトを蹂躙したい欲望に下腹を熱くする。 「っ、リアノ……すげぇ、エロい」  頬を染めて、カヒトは紋に当てていた手で陰茎を握った。 「なにがだ?」 「済ました顔して、めちゃくちゃエロいこと想像してんじゃねぇか。俺を縛って、グチャグチャにしてぇって? いいぜ。俺も、リアノに支配されてみてぇ。なんなら、首輪でもつけて、獣みてぇに四つん這いで奉仕してやろうか?」  興奮にうわずりながらのカヒトの言葉に、リアノは立ち上がった。 「見えたのか」 「はっきりとじゃあ、ねぇけどな。感情っての? モヤモヤッと伝わってきたんだよ。好き放題に俺を犯してぇってな。ムッツリスケベだったんだなぁ、リアノは」  ニヤつくカヒトの陰茎に目を落とし、リアノは開き直った。 「悪いか」 「悪いわけ、ねぇだろ? なぁ、リアノ……俺、またケツがすげぇ濡れてきた。猛獣とその主人ってことで、俺をたっぷりしつけてくれよ」  淫らに崩れたカヒトの笑みに、リアノも本能をむき出すことに決めた。 「望み通り、しつけてやろう」 (私がどれほど焦がれていたか、イヤというほど味わわせてやる)  心に強く念じれば、カヒトが満面を朱に染めて、はにかみながら乱暴に頭を掻いた。 「どうした」 「ん、いや……そっか、うん……リアノも、俺がめちゃくちゃ好きなんだな」 「でなければ、紋があろうとなかろうと、手は出さない」  手を伸ばして、リアノは艶然とほほえんだ。 「来い、カヒト。存分にしつけてやる」  私のものだと、リアノは強く心に描いた。うなずいて、カヒトはゆっくりとリアノに近づく。足元にひざまずき、口を開いてリアノの陰茎に吸いつくカヒトの頭を、リアノは慈愛のまなざしで見下ろしながら優しく撫でた。 「リアノ」  先端にキスをしながら見上げたカヒトは、目を閉じてキスを求めた。首を伸ばして待っている彼に、体を曲げてリアノは与えた。ついばむキスを繰り返し、互いの体を撫でながら、ふたたび燃え上がった獣欲に身を任せたふたりは、積年の想いのすべてを相手にぶつけた。  愛している、と心で叫び合いながら――。

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