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現れたのは

睦月が思わず酒川を見つめていると ふと酒川も睦月の目を見つめ返す そして酒川は意味深に微笑み 目をそらすことなく言葉を紡ぐ 「まぁその子からは 嫌われてるっぽいんだけどねー」 そしてなおも睦月を見つめ続け 切なげに眉を寄せる ななな何で! 何でこっち見つめてくるの! かっこいいし!意識すんじゃん!! 何なの!かっこいいんだけど!! と睦月は鳴り止まない鼓動に 堪らなくなり立ち上がる 「ちょ、っと、いれ」 そう言って席を離れて 手洗いに向かう 背後で山田が 「その話詳しく!」 と盛り上がっていたが これ以上は聞いていられない 酒川は気になる相手からは “嫌われてるっぽい”と言っていた そして睦月はいつも 酒川といると緊張のあまり 嫌っているような態度を とってしまっている ただ それだけ それだけの根拠でも 恋愛経験の乏しい睦月は 好かれているのは 自分なのではないかと あらぬ期待をしてしまう 「ありえない...」 あのまま聞き続ければ 酒川の思い人が自分ではないと はっきりしたことだろう やはりきちんと聞いておく べきだったかも知れないし 洗面台に手をついて 滴る水を目で追う 顔を洗ったことで やや落ち着いた睦月 この恋が進展することなど 0から動くことなど 「ほんとに、ありえない」 口に出して言い聞かせる そして気づけば かなりの時間が 経っていたらしい 「おい 大丈夫か?」 と睦月の様子を見に現れたのは 三田村だった

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