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第1話 そのイチ
第1話
「えー、今日のホームルームですが、先週に続いて今回は文化祭の劇のキャスティングを決めたいと思います」
私立練芙学院中等部の文化祭まで残り1ヵ月。二―Aの定期ホームルームでは、先週は文化祭の出し物としてシンデレラの演劇をする事になった。
「えー、まず主人公のシンデレラですが・・・」
「はーい、提案しまーす!シンデレラの役は猪狩シンイチ君を推薦します」
「な、何だってー!?」
男子の誰もが驚きの声を上げた。それも当然であろう、シンデレラは女の子なのだから。
「ちょ、ちょっと、いきなり何を言うのさ!」
推薦された当の男子生徒、猪狩シンイチは大慌て。男の自分がシンデレラなんてできる訳が無い。
「あのね、惣竜さん。シンデレラは女の子でしょう?男子が演じるのはおかしいのではないかしら?」
「サトミ先生、話はまだ終わっていません。シンデレラの相手の王子には私が立候補します!」
「な、何だってー!?」
今度は女子も含めたクラス中の生徒のほとんどが驚きの声を上げた。
「猪狩君は中性的な顔立ちだから女装しても男だとバレません。大丈夫です」
「なるほど。猪狩君だけしわ寄せするんじゃなくて、その代わりに自分も男装するという事ね。うん、宝塚みたいじゃないの。いいアイデアだわ」
先ほど思わず否定的な意見を出したクラス担任の女教諭は掌返しのように賛成に回った。
「でしょう?主役が男女入れ違えと言うのは斬新だし、評判を呼ぶと思います」
「じゃあ、取り合えずまずは主役の二人について決を採ります。シンデレラ役は猪狩君、王子役は惣竜さんという配役に賛成の方は挙手願います」
「さんせーい!」
女子の圧倒的大多数は手を上げた。男子はそんな突拍子も無い案が上手く行くかどうか怪しいと考えた者が多く、賛成の挙手をしたのは数人程度。
「じゃあ、賛成多数で劇の主役はその二人に決定です」
「ちょっと待ってよ!反対意見を取らないのはおかしいよ!僕はシンデレラなんて嫌です!」
「それは、賛成の挙手が見た目で過半数を超えていたから反対意見を取らなかっただけでしょ?時間の無駄じゃない」
「猪狩君、男の癖に女々しいわよ。男なら、決まった事にガタガタ言うものでは無いわ」
周りの数人の女子に言われて、シンイチは納得できない表情で引き下がった。
そんなシンイチを、事の発端の発言をした女子生徒・惣竜アスリンとクラス担任の女教諭・葛木サトミは不敵な笑みをこぼして眺めていた。
二人は内心で上手く行ったとほくそえんでいた。
話は六日前の土曜日の夜に遡る。
その日、大学時代の旧友の結婚式にお呼ばれしていた葛木サトミ、29歳。私立練芙学院中等部二―Aのクラス担任で担当科目は英語。妙齢の美人教諭で生徒達にも人気が有り、サトミ先生と苗字ではなく下の名でよく呼ばれている。だが、そのナイスバディにも関らず、生涯の伴侶となるべき男性が未だ見つかっていない。
其れ故か、式の間は笑顔を作っていたものの、お開きとなった後は赤提灯でヤケ酒をあおる事となった。
酔っ払って帰宅したサトミを見て、同居人であるシンイチとアスリンは
「酒臭っ!」
と思わず引いた。
「何よ~、シンちゃんったらツレナイじゃな~い。あたしとシンちゃんの仲でしょ~」
「うわっ!ちょ、ちょっと、何とかしてよアスリン!」
サトミに酒臭い息を吐きながらしなだれかかられたシンイチはアスリンに助けを求めるも、以前にもその状態を見た事のあるアスリンはささと自室に逃げ込もうとしていたが。
「うふん・・・ね~え、シンちゃ~ん」
「な、何ですか?」
「いつ見てもシンちゃんって中性的な顔立ちしてるわね~。もしかしたら、女装したら女の子で通るんじゃな~い?」
「何バカな事言ってるんですか!」
「私のブラとパンティ着てみない?それともアスリンの方がいいのかなぁ~?」
「冗談じゃないわよ!」「冗談はやめて下さい!」
二人の声が偶然にハモったがそれはともかく、シンイチはサトミを突き飛ばすと、アスリンの横を通り抜けて自室へ篭ってしまった。
「アイタタタ・・・はぁー、また失敗しちゃったな」
突き飛ばされて床に尻餅をついてしまったサトミはその痛みで少々酔いが醒めたのか、臀部を摩りながら立ち上がった。
「失敗って何よ、どういう事よ?サトミはシンイチに女装させたがってた訳?」
「違うわよ、そう言う意味じゃなくて・・・」
彼女にそんな変態趣味があるとは、とアスリンは誤解したが、サトミは取り合えずグラスで水を一杯だけ飲んでダイニングの椅子に座って訳を話し出した。
「さっきポロっと言ったけど、シンイチ君の顔立ちって中性的でしょ?シンイチ君ね、お母さん似なんだって。だから、小さい頃から女みたいだって言われてきたらしいの。其れを知らずに前にも冗談で言っちゃって怒られた事あるのよ。一週間お弁当無しは辛かったわ・・・」
「ふーん。じゃあ、さっさと謝ってきたら?」
アスリンはそれだけ言って自分も自室に戻るや否や、誰にも聞こえないようにそっと呟いた。
「・・・ふふん、これぞ[ちゃあ~んす]ね」
アスリンはベッドに寝転ぶと、あれこれと思案を巡らせ始めた。そして、思いついたのが文化祭の劇でシンイチにシンデレラの役をやらせよう、という事だった。
作戦は次のとおり。
まず、前もってサトミにその案を提案する。シンイチのトラウマをわかっているサトミはすぐに反対するだろうが、それを封じる理論も構築済である。
要するに、シンイチが女顔である事を気にせずに済むにはどうするか?それには、時には女顔でもいい事があると理解できればいいのではないか?だから、シンデレラの役をやらせて劇が成功すれば自分の女顔が役に立つという事をシンイチも理解し、トラウマを克服できるだろう、と。
実際、心の底ではシンイチの女装姿を冗談でもいいから拝んでみたいと思っていたサトミはすぐにアスリンの考えに同意した。後はクラスの意見をどうやって纏めるかだが、それもアスリンは考え付いていた。
先立って、シンイチが女顔である事からもしかしたら女装したら男も騙されるかもしれない、そうなったら面白そうだ。等という冗談をクラスの女子の前でひけらかす。中には、腐女子と呼ばれるカテゴリーに属する者もいる筈だから、シンイチと他の男子のカップルが劇で見られるとなったら受けるだろう。しかし、その設定になる事に男子が気付いたら反対に回るかもしれない。ならば、今度は自分が王子役を引き受ける事で男女が配役を逆転しただけという形になるから男子の反対は抑えられるだろう。
後は、上手くサトミが賛成の意見を出してくれれば、サトミの人気から少なくとも過半数は集められるに違いない。
サトミはあくまでもシンイチの女装は冗談でそれでもトラウマ克服の一助になれば良く、却下されたらそれはそれで仕方ないというスタンスだったが、アスリンは何が何でもシンイチに女装を強いるのが本当の目的で、トラウマ克服などどうでもいい・・・と言うより失敗してしまえと強く思っていた。
そして、アスリンの作戦は首尾良く成功した訳である。ちなみにシンイチが拒否しようとした際に時間の無駄とか女々しい奴だとか言った女子生徒はアスリンから冗談を聞かされていた腐女子達だった。
その日の夜、シンイチの作った夕食を全員で食べ終えてから、サトミはシンイチに告げた。
「さてと。シンイチ君、今日から特訓よ」
「・・・何の?」
「シンデレラの劇の特訓よ。アスリン、代わりに洗い物は貴女がしなさい」
「はーい」
アスリンは素直にサトミの言に従って全員の食器を片付け始めた。
「リビングでまずは台詞合わせをします。じゃあ、台本持ってきて」
いつもは何も手伝わないアスリンが食器洗いをしているのでどういった心境の変化だろう?とか想いながら、シンイチは自室から台本を持って戻ってきた。
「じゃあ、シンイチ君は当然シンデレラの台詞を。私は他のキャラの台詞とト書きを読むから」
そうしてシンイチはサトミとシンデレラの台本を読み始めたのだが、女の子の話し方なんて知らないシンイチはほとんど棒読みになってしまう。
背後から聞こえてくるその声を最初は四苦八苦しているのだと悟っていい気味だと思っていたアスリンだが、その次はシンイチの台詞があまりにも棒読みなのでおかしくて笑い出すのを何とか我慢し続け、最後には声自体は女のものと言っても大丈夫なのに口調がヘタクソなのでイライラが頂点に達した。
「あーもう、何なの、その喋り方は!小学生の学芸会どころか幼稚園のお遊戯会レベルじゃないの!」
「そんな事言ったって、女の子の喋り方なんて知らないんだから仕方ないじゃないか」
「仕方ないで済むわけ無いでしょ、あんたは主役なのよ。せっかく男女入れ替え劇というおもしろいアイデアなのに、劇自体がダメだったら意味無いのよ!」
「はい、ストップ。アスリン、最初なんだからヘタなのはわかってた筈でしょ」
「それはそうだけどさ」
「んー、まあ、そうは言ってもいられないのも事実だわね。とにかく、シンイチくんには早く女の子の喋り方を覚えて貰わないといけないし。何か、いい案はないかしらね?」
サトミとアスリンは少し考え込んだ。勿論、次の台詞をどちらが言うかまで決まっているが。
「よし、こうしましょう。シンイチくんにシンデレラになりきって貰う為に、これから女の子の服を着て貰うわ」
「えっ?」
「アスリン、貴女の制服を持ってきて」
「ま、まさか、僕にアスリンの制服を着ろって言うんですか?」
「大丈夫、体格は同じだからちゃんと着られると思うわ」
「いや、そういう事ではなくて!」
シンイチはまさかの展開に大慌てだ。
「何で劇ならまだしも家で女装しなきゃならないんですか!」
「シンイチくん、どうせ劇で女装するんだし、遅かれ早かれスカートに慣れておいたほうがいいわよ」
予定通りの言葉を返すサトミだが、そこにアスリンが割り込んだ。
「サトミ、いくらなんでもそれはちょっと勘弁して欲しいんだけど」
「アスリン、シンイチくんを主役に推薦したのは貴女よ。言いだしっぺなんだからしっかり協力しなさい!」
「むぅ~。はいはい、わかりましたよ」
アスリンは予想外のサトミの提案に驚いたものの、最後の大きな目的のための貴重な犠牲だと考えて自室へ足を向けたが。
「冗談はやめて下さい!何で僕がアスリンの制服なんか・・・」
「何よ、シンイチ。あんた、このあたしの制服を着たくないって言うの?それってどういう理由よ?まさか、あたしの服を着るなら死んだ方がましとか言うんじゃないでしょうね!?」
「ち、違うよ、そんな訳ないって」
「ふーん、違うんだ。えっと、つまりあんたはあたしの制服を着たい訳ね?」
「いや、だから何でそんな結論になるんだよ。そんな事一言も言ってないじゃないか」
「ちょっと、ストップ!二人とも、いちいちケンカしないの。アスリン、早く制服を持ってきなさい」
「わかったわよ」
アスリンはようやく自室へ行って、自分の制服を持ってきた。
練芙学園の女子制服は幼稚部、初等部、中等部、高等部すべてセーラー服である。違うのはまずスカーフの色で幼稚部から高等部まで順に黄色、青、赤、白と変わる。また、スカートの長さも膝上10cm、膝上5cm、膝丈、膝下5cmと長くなっていく。ちなみに男子制服はブレザーで、違いはまずタイの色が女子のスカーフと同様に色が変わる他、幼稚部と初等部では半ズボンだったのが中等部から普通の長さになるだけである。
「はい、持ってきたわよ」
「オッケー。じゃあ、シンイチくんはアスリンの制服を持って私と一緒に来て」
とサトミがシンイチの連れてきたのは彼女の寝室。以前のように酔っ払って帰って来たサトミをベッドに叩き込んだ時以外にシンイチが足を踏み入れた事はない。
「じゃあ、ここで着替えて頂戴」
「あの、サトミさんがいると着替えられないんですけど」
シンイチに着替えろと言いながら出て行かずに自分の衣装ダンスの引き出しをガソゴソと探っているサトミにそう言うと。
「あのねシンイチくん、セーラー服の着方って意外と難しいのよ。だから、私が教えてあげないと着られないと思うわ」
「い、いいです、一人で着替えられますって」
思わずそう言ってしまったシンイチにすかさずサトミのツッコミが入る。
「なーに?シンイチくんってセーラー服着たことある訳?」
「そ、そうじゃないけど・・・」
「それにね、ちゃんと女の子になりきって貰う為には全部着替えないとね」
「えっ、ええっ?」
と、サトミが引き出しの中から引っ張り出したのはブラジャーとパンティが一組。1/2Eカップのオフホワイトのブラと同色のスタンダードタイプのパンティは、レースもふんだんに使われてそれなりの値段はしたものである。
「パンティはともかく、ブラの着け方は知らないでしょう?」
「ま、まさか、それもですか?」
「そうよ。まさか、下着までアスリンに貸せとは言えないしね」
ニッコリ微笑むサトミにシンイチは何やら不審を感じた。
「サトミさん、また何か悪ノリしているんじゃないんですか?」
「悪ノリって何よ?私は真面目よ。いい、よく聞いてシンイチくん。貴方はお母さん似だから自分の顔が中性的で、昔から女みたいだって言われてきたのがトラウマになってる事は今の私も知ってるわ。以前は知らずに冗談を言って貴方を怒らせた事も覚えてる。自分が悪かったと本当に反省したわ。だけどね、シンイチくんはいつかはそのトラウマを克服しなきゃいけない。そうでしょ?」
サトミが急に真面目な顔になって話し始めたので、シンイチは先ほどの不審感が薄らぎ、彼女の問い掛けに無言で頷いた。
「トラウマを克服するのに一番簡単な方法は何だと思う?それはね、貴方が自分の顔のことを気にしなくなる事よ」
「どうやって?そんなことがすぐにできたら悩む事なんかないよ」
「では、発想を変えましょう。シンイチくんの中性的な顔が何かの役に立つとしたら?」
「え?」
「シンデレラ役がもし他の男子だったらどうなると思う?きっと気持ち悪くて見れたもんじゃないわ。でも、その点、シンイチくんだったら何の問題も無いわね」
「そうかな・・・」
「大丈夫、自分に自信を持って。そしてシンデレラ役を立派に勤め上げて劇が成功したら、きっとシンイチくんのトラウマも克服できるから」
「はあ・・・」
「じゃあ、ちゃんと着替えてね。わからない事があったら、ドア越しに教えるから」
サトミはそう言い残して自室の外へ出た。しかたなく、シンイチは着替え始めた。
アイドルのビキニ水着姿も週刊誌で見た事があるし、その機能からブラジャーをどのようにして付けるのかは予想がついた。しかもサトミの用意したものはフロントホックだったので苦労はしなかった。ただ、女のコとしては羨ましいEカップも胸の膨らみの無い男のコにとっては無意味でブカブカだったのだが、それは仕方がない。
パンティも布地の大きさからすぐに前後がわかったので簡単だった。ナイスバディのサトミは悪く言えばデカ尻なのでパンティのサイズもLLだったが、シンイチにとってはサイズは小さくも無くぴったりだった。
スカートも腰周りの部分を観察してホックとファスナーを見つけたので、それを外してから腰に穿いてまた元通りにすればちゃんと身に着けられた。
残るはセーラー服の上衣。これもよく確認したところ、セーラーカラーの胸元から下まで1本のファスナーがあるのを見つけたので、それを外してスカーフを解いてから普通に左右の袖に腕を通して着てファスナーを留めてスカーフを結び直した。
「これでいいのかな・・・」
その部屋に姿見があるのを見つけたシンイチは自分の全身をそこに映してみた。そこには、ショートヘアの美少女が佇んでいた。
「え・・・これが・・・僕?」
母親似の中性的な顔立ちが幸いして、シンイチはものの見事に美少女に変身していた。
「そんな・・・僕は男の子なのに・・・女の子の下着を穿いてセーラー服を着ただけなのに・・・」
自分でも予想外の結果にシンイチは困惑していた。こんなに違和感が無いのなら、どうせなら女の子に生まれていれば良かったのかもしれない。しかし、そんな困惑とは裏腹にシンイチは同時に自分の身体に変化が起きた事を自覚していた。
「・・・ど、どうして・・・僕、興奮してる・・・」
「シンイチくん、どうかしら?ちゃんとお着替えできた?」
「あ・・・そ、その・・・何とかできました」
「まさかとは思うけど、私の衣装ダンスの中を探ってたりしてないでしょうねぇ?」
「そ、そんな事してませんってば!」
「そう?じゃあ、入るわよ」
シンイチの返答を待たずにサトミは入ってきた。そして、一見美少女の美少年がそこに佇んでいるのに気付き、その姿に思わず見惚れた。
「あ、あの・・・」
「あら、まぁ・・・まぁまぁまぁ・・・シンイチくんったら、すっかり美少女に変身しちゃってるじゃないの」
サトミは念願のシンイチの女装姿をついに目の当たりにする事ができたのが嬉しくて、ついつい頬が緩んでしまった。
そのだらしない邪笑にシンイチは不審を抱くどころか恥ずかしさに顔を赤らめてしまう。
「うんうん、その恥ずかしがる反応も女の子らしくていいわよ」
と、サトミはシンイチの姿をじっくりと観察した。着こなしがおかしくないかをチェックするのが目的だったが、ショタ趣味もあった毒女がシンイチの身体に気付かれたくない変化が起きている事を察知するのは簡単だった。
サトミはシンイチの傍に行って姿見の方に向き直らせた。
「ちょっと姿見で一緒に見てみましょ。うん、ちゃんと上手に着れているわね。どうしてセーラー服の着方が教わらずにわかったのかしら?」
「それは、その・・・」
「もしかして、本当は女装してみたいとか思ってたんじゃない?それで普段からいろいろ調べていたからこそ上手に着れたんでしょ?」
「ち、違います。どんな構造になっているのか調べたらファスナーとかがあったんで、何となく・・・」
「ふーん・・・そうかしら?じゃあ、ここは何でこんな事になってるのかしら!」
サトミはいきなりセーラー服のスカートの裾を腰まで捲り上げた。
「あっ、だ、だめっ!」
シンイチは慌ててスカートを抑えようとしたが、時遅く、姿見にはサトミのパンティの前を突き破らんとばかりにペニスが中から突っ張らせている様子が映っていた。
「女装趣味でもなければ、パンティを穿いて興奮する事は有り得ないんですけどねぇ?」
「み、見ないで・・・見ないで下さい・・・」
ついに自分の身体の恥ずかしい反応をサトミに知られてしまったシンイチは、恥ずかしさで火照った顔を両手で覆った。
「い・・・いいわ、シンイチくん。ますます女の子っぽい仕草になってきてる。女の子の心というものがわかってきたようね」
「・・・そんな事言われても・・・」
すると、サトミはシンイチの手で隠れていない頬にそっとキスをした。今、自分がされた事に気付いたシンイチは思わず手を顔から離してサトミの顔を見つめた。
「あなたはとっても魅力的よ、シンイチくん・・・」
サトミはシンイチの頬に両手を添えると、今度はシンイチに口付けをした。
「大人のキスよ・・・後で、続きをしましょう・・・」
サトミが両手を離すと、シンイチは呆然のあまり腰からすとんと落ちて座りこんでしまった。しかも、脚がM字になった女の子座りになっていた。
それから、サトミがリビングにおいてあった劇の台本を取ってきて、シンイチはサトミの部屋で二人で台詞合わせの続きをした。
その日の特訓も一先ず終わって、後は風呂に入って寝るだけとなった。一番風呂はアスリン、続いてサトミが入り、今は最後のシンイチが湯船に浸かっている。
「で、どうだったの、あいつの女装は?」
「それがもう、まるで見事に美少女に化けていたわ。まさに萌え~ってカンジ」
「あっそ。別にサトミの趣味を満足させる為じゃなかったんだけどね」
「恥ずかしがる様なんか、無意識で女の子になってたしぃ、お化粧すればパーペキね。ホント、いいアイデアを出してくれたわねアスリン」
「ふーん、一応恥ずかしがってはいたのね。残念、私も見てみたかったわ」
浮かれ気分のサトミに対し最初は醒めた様子のアスリンも、シンイチが女装を恥ずかしがったというところではサトミに負けず劣らずの邪笑を見せたのだが、サトミは気付かなかった。
「ふふっ、シンイチくんの女装姿を見れるのは当分の間私だけ~。アスリンは通し稽古の時まで期待して待ってなさいな」
「はいはい、勝手にお楽しみ下さい。もう寝るから、お休みなさい」
アスリンは野菜ジュースを飲み干すと自室に戻った。
「ムフフ・・・お楽しみはこれからなんだから・・・待ってるわよ、シンイチくぅん・・・」
サトミは何やら艶っぽい声色でそっと呟くと自室に引き上げてベッドに入った。自分がその時を心ときめかせて待っているのと同様、シンイチも今は心の高鳴りを抑えられないでいるに違いない。そう思うと、思わず身体が火照りだしてしまう。
果たしてサトミの思惑通り、シンイチも今宵の事を想像して湯船の中で顔を赤らめていた。
シンイチがサトミの部屋に忘れてきた劇の台本をサトミが返してきたのは風呂に入る直前だった。そして、今日の特訓で進んだところの頁には、栞がてらに小さなメモが入っていたのだ。
「サトミさん・・・」
幼くして両親と死に別れたシンイチは母方の祖父である猪狩ジュウゾウの手元で育てられてた。
去年、さらにジュウゾウが死去して天涯孤独の身となったシンイチは自分が通っている練芙学園の学園長(代理)でかつて父の友人でもあった夕月コウゾウの手配により、遠縁に当たるサトミに引き取られる事になった。
一年の時からのクラス担任で美人と誉れ高いサトミ先生と同居する事になって、同級生は勿論全学年の男子生徒達からやっかみ・妬み・僻み・嫉みの言葉を受けたシンイチだったが、テストで学年一位をキープする事でいつしかその言葉は小さくなっていつの間にか消えていった。
時折(大抵、飲酒した時だが)失態を見せる事もあるが、普段は気さくで優しい美人のお姉さんというのがシンイチにとってのサトミだった。そして、いつしか憧憬だったものは今は形を変えてシンイチの心の中に渦巻いていた。
草木も眠る丑三つ時・・・よりも約2時間前。
サトミの部屋のドアがゆっくりと開かれて誰かが入ってきた。
「・・・来てくれたのね、シンイチくん・・・」
パジャマ姿のシンイチを迎え入れたサトミはシースルーのネグリジェ姿だった。
「・・・サトミさん・・・」
これから体験する事への期待に鼓動を昂らせながら歩み寄ったシンイチをサトミは手で制した。
「待って。まずは脱いで欲しいの」
「・・・は、はい」
サトミに言われてシンイチは背を向けてゆっくりとパジャマを脱いだ。そして振り向いたシンイチが身に着けていたのは、劇の特訓の時にサトミに着せられたブラジャーとパンティだった。
「嬉しいわ・・・ちゃんと約束を守ってくれたのね」
サトミのメモに書かれていたのは、ブラジャーとパンティを身に着けて来たらキス以上の大人の体験をさせてあげる、という事だった。
「サトミさん・・・本当に・・・」
シンイチの問いは最後まで言葉になってはいなかったが、それに答える前にサトミはシンイチを優しく抱きしめた。
「大丈夫よ。私は約束を守るから・・・」
そう言ってサトミはシンイチの唇を己の唇で塞いだ。さらに、舌を差し込み、シンイチのものと絡ませる。初めはなすがままだったシンイチの舌もやがてサトミのものを積極的に求めるようになった。
「ぷふぅ・・・上手よ、シンイチくん・・・ふふ、私のおなかに何かとっても硬い物が当たってるわ。シンイチくんったら、興奮しているのね」
「あ・・・ご、ごめんなさい・・・どうしても抑えきれなくって・・・」
シンイチは赤らめた顔を恥ずかしそうにそむけた。
「ううん、いいのよ。ね、ちょっと座りましょ」
サトミはシンイチを促して二人並んでベッドに腰掛けた。前からよりも横からのほうがシンイチのペニスの昂りはより良く見える。
「シンイチくんったら、ここをこんなに大きくしちゃって・・・」
「あっ、だめっ・・・」
サトミはパンティの上からシンイチのペニスを摘もうとしたが、その手をシンイチの手が遮った。
「怖がらないで・・・大人なら誰でもする事なんだから・・・」
「は、はい・・・」
シンイチは思い切って抵抗をやめ、サトミはついにパンティ越しではあるがシンイチのペニスに指を触れさせた。そしてその硬さ、熱さ、弾力などの感触を愉しむ。シンイチは初めての大人の女性からのペニスへの愛撫に声を出すのを我慢していた。
「ねえ、シンイチくんって女装趣味があったの?」
「そ、そんな・・・」
「別に怒ってる訳じゃないのよ?男の人にはそういう趣味の人もいるって聞いた事はあるし、シンイチくんがそれならそれでも私は一向に構わないわ。むしろ、そんな反応を示すと嬉しくなっちゃう」
「そ、そうなの?」
「白状すると、私ってショタコンなのよ。つまり、可愛い男の子大好き病ってやつね」
サトミが29歳にもなっても未だに付き合う男性がいないのも、実はこの病気が原因だったからだ。しかも、可愛い男の子に女装させるのもお好きときては、もはや結婚についてはお先真っ暗としか言いようが無い。
「だから、今のシンイチくんはとっても私の好みにぴったりなの。もう、ホントに食べちゃいたいぐらい可愛いわ」
サトミはシンイチの頬にキスをしながらペニスを優しく擦る。いきなり暴発しないように、アクマでもソフトタッチに。
「それにしても硬いわ・・・跳ね返りもこんなに強いし・・・ねえ、溜まってたのかしら?」
ペニスをシンイチのお腹の方に押して離すと、それはバネのようにすぐに戻ってパンティの前を突き上げる。
「あっ・・・だ、だって、サトミさんはいつも目の毒だったし・・・」
「あら、目の毒ってどういう事?」
「それは・・・お風呂上りとか寝起きとかでだらしない下着姿で出てきた事あったし・・・下着をわざと目に付くところに放り出してあったり干してあったり・・・あれってわざとでしょ?」
「ふふ、バレてたのね」
「だから・・・ずっとサトミさんにエッチな事考えて・・・でも、そんな事考えるのは失礼だと思ってやめようと思ったけど無理で・・・そのうち、アスリンが来ちゃって、ずっと苦しくて、おかしくなりそうだったんだ」
「そうだったの・・・ごめんね、ちょっとおふざけが過ぎたみたい。だから、お詫びの印に・・・」
サトミは再びシンイチの唇を塞いだ。そして、手はシンイチのペニスをパンティ越しに摘む。そして、ゆっくりと上下に扱き始める。
「・・・はぅっ・・・サ、サトミさぁん・・・」
サトミの手の動きでペニスに心地よさを与えられたシンイチは思わず身を捩る。
「シンイチくん・・・気持ちいい?」
「・・・は・・・はい・・・」
「そう、よかった。じゃあ、もう少し強くしてみようかな」
サトミはペニスを摘む指の力を強くして、刺激を大きくしてみた。
「あんっ・・・き・・・気持ちいいよ、サトミさぁん・・・」
「い、いいわ、シンイチくん・・・今の声、女の子っぽくてゾクっときちゃった・・・ねぇねぇ、どうせなら女の子として喘いでみせて・・・」
「お・・・女の子として・・・?」
「そうよ・・・シンイチくんもエッチなマンガとか読んだりするでしょ?・・・だったら、女の子がどんな風に喘いでいるか、わかるんじゃなくって?」
サトミに言われてシンイチは最近友達に見せてもらったエッチなマンガ―――どうやってその友達が18禁コミック雑誌を入手できたのかは想像に任せるとして―――のシーンを思い出した。それは学校の体育倉庫で高校生同士が睦合うシーンで、彼氏にクリトリスを執拗にいじられた女の子は喘ぎ声を漏らしながら悶えまくっていた。
「それに、劇でシンデレラをする事だし、女の子になりきる為のレッスンだと思えば問題無いわ」
「は、はい・・・」
「じゃあ、あなたは今から女の子よ・・・言われた事には女の子として反応すること・・・自分の事は僕じゃなくて私と言うのよ。いいわね?」
「はい・・・」
「それじゃあね・・・うふふ、今あなたは何をされているのかしら?」
「・・・え、えっと・・・サトミさんに・・・気持ちいいこと・・・されてます・・・」
「気持ちいいって、どうして?」
「・・・そ、その・・・サトミさんの手が・・・触ってるから・・・」
「私の手はあなたのどこを触ってるのかしら?」
「そ、それは・・・ぼ・・・い、いえ・・・わ、私の・・・お・・・」
「まさか、オマンコ、と言うつもりかしら?女の子はそんな事は恥ずかしくて言わないわよ」
「ち、違い・・・ます・・・」
「じゃあ、なあに?」
「わ・・・私の・・・おちん―」
「ダメよ。あなたは今女の子なんだから。女の子にオチンチンなんかついていないわ」
「で、でも・・・」
「保健体育とか、性教育で習ったり、図鑑で調べたりしてもう知ってるんでしょ?女の子の一番気持ちいいと・こ・ろ」
言われて赤く火照った顔がさらに赤く染まった。
「じゃあ、もう一度聞くわ。あなたが今触られているのはなあに?」
「わ、私の・・・ク・・・クリトリス・・・です」
「そう、よくできたわ。私が今触ってるのはあなたのクリトリス。女の子にしては随分と大きいけどね」
サトミの指は扱くのをやめ、優しく擦るように動きを変えた。
「どうしてあなたのクリトリスはこんなに大きいのかしら?」
そう言われても答えようがない。もともとそんなサイズなのだから。
「それは・・・元々・・・」
「あら、違うわよ。答えは簡単。何故あなたのクリトリスがこんなに大きいのかと言うと、それはあなたがエッチな女の子だから。毎晩エッチな事考えてここを触ってオナニーしていたから、その刺激でどんどん膨らんでこんなに大きくなってしまったのよ」
サトミは指先でつんつんして、その刺激に震える様を見て愉しむ。
「あんっ・・・サ、サトミさん・・・そんな事、しないで・・・」
女の子になりきってるのか、女の子にしか聞こえない声でそう言われてさらにサトミの性欲は昂ぶる。もっとこの子をいじめたい、エッチな事を言わせて恥ずかしがらせたい、そんな嗜虐欲が首を擡げた。
「そう・・・わかったわ。私も相手の嫌がる事はしたくないし」
サトミは言葉を逆手にとって手を引っ込めた。勿論、本当はずっといじっていたいのだが。
いきなり刺激が無くなり、思わず目を開いて見ると、サトミは妖しい微笑をこぼして見つめていた。
「あ、あの・・・サトミさん・・・」
「何かしら?」
「もうこれで・・・おしまいなの?」
「だって、あなたがそんな事しないでって言うから・・・」
「そ、そんな・・・」
思わずサトミの手を掴んだのは、そんな蛇の生殺しのような中途半端で放り出されるのが辛いから。もっとサトミの手でさらなる悦楽を与えて欲しかったから。
「どうしたの?」
「・・・そ、その・・・もっと・・・」
顔は火照り、声もか細い。恥らっているのが明白で、サトミは脳裏に思い描いていたシチュエーションどおりに事を進める。
「どうしたの?はっきり言ってくれないと判らないわ。あなたは何を望むの?」
「え、えっと、その・・・・・・・・・私にもっと・・・き、気持ちいい事・・・して下さい・・・」
「そう・・・わかったわ。じゃあ、どうすればあなたは気持ち良くなるのかしら?」
わかっているくせに白々しくすっ呆けるのも、さらに恥ずかしい事を言わせるためだ。
「具体的に何をどうすればいいのか言ってちょうだい。そうしたら、その通りにしてあげる」
そう言われて、ようやくサトミの魂胆に気付く。わざと自分に恥ずかしい事を言わせて愉しむつもりなのだと。
「・・・もう・・・サトミさんのイジワル・・・」
そう言いながらも、掴んだサトミの手を自分の大事なところに誘う。
「おねがい・・・・・・・・・わ、私の・・・ク、クリトリスを・・・い、いじって下さい・・・」
恥ずかしいおねだりをしてしまった事に思わずうつむく様を見て、つい視線を下に向けたサトミの目に、さらなる愛撫を求めて中からパンティの前を突っ張らせている何かがひくつく様が映った。
“な、何て可愛いの!・・・も、もう・・・我慢できないわ!”
興奮したサトミは我慢できずにすぐさまお願いされたとおりにパンティの上から欲棒を手に収めた。
「あぁん!」
サトミの掴む指の力が強かったのか、思わず可愛い喘ぎ声が出た。
「じゃあ、お望みどおりにあなたのエッチで大きなクリトリスをいじってあげる」
サトミは先ほどよりもやや強い力で愛撫を始めた。パンティに浮き彫りになっている茎を親指と人差指で摘んで上下に擦る。
「はぁんっ・・・サ、サトミさん・・・気持ち・・・イイですぅ・・・」
自分の愛撫で悦びの声を途切れ途切れに漏らす女装美少年のエロチックな姿に、サトミも己の秘所が愛液で洪水になっているのを自覚する。もう、相手を受け入れる準備は万事OKだ。
“このままイッキに奪っちゃってもいいけど・・・でも、お楽しみは後に取っておいた方が悦びも大きいってもんだし・・・。”
サトミはそれはまた次の機会にして、今はこの愛しい女装美少年が悦びに喘ぎ悶え、絶頂に打ち震える様を目の当たりにしようと決めた。
「ねぇねぇ、このまま続けたらどうなっちゃう?」
「はぁ・・・はぁ・・・す、すごく・・・気持ちよく・・・なって・・・で、出ちゃいますぅ・・・」
「出るって、何が?」
「そ、その・・・エ、エッチな・・・お汁ですぅ・・・」
「い、いいわよ・・・ちゃんと女のコになりきってるわね・・・チンポ汁なんて言ったら興醒めになってたところよ」
「チ、チン・・・?いやぁん・・・」
チンポなんてはしたない卑猥極まる単語がサトミから聞かされて、思わず恥じらう言葉が漏れた。
「そ、そうよ・・・すっごく可愛いわ・・・もっと恥ずかしがって・・・」
サトミは頬にキスしながら更に愛撫のスピードを高める。
「あ、あぁ・・・い、いい・・・気持ちいい・・・も、もう・・・出ちゃいますぅ・・・」
「いいわ、パンティの中に出しても。我慢しなくていいから、思う存分にイっちゃいなさい!」
「あ、ああぁ・・・ダ、ダメ・・・我慢できない・・・も、もう・・・・・・・・・で、出ちゃううぅ~~っ!!」
サトミの手の中で偽女茎が大きく脈打った。突き上げられたパンティの先端に中からの迸りであっと言う間に染みが広がっていく。
「・・・あふぅんっ・・・くふぅんっ・・・はあぁんっ・・・」
イク時の声も、その後の余韻の声も完全に女のコとなっていた。サトミも匂い立つ若い精の香りにとめどなく秘所を濡らしながら興奮していた。
「ウフフ・・・あなたのクリトリスは栗の香りのするエッチなミルクを出しちゃうのね・・・ホントにエッチなんだから・・・」
サトミは染みの広がったパンティの上から掌で優しく擦る。
「・・・あんっ・・・」
「まぁ・・・スゴイわ、あなたのエッチなミルクでパンティがベトベトになっちゃってるわよ・・・」
「・・・ご、ゴメンナサイ・・・サトミさんの下着を汚してしまって・・・」
「いいのよ、あなたをイカせたのは私だもの。あなたが謝る事はないのよ」
サトミはそう言って慰めるように左手で肩を抱き寄せると、頬にキスした。
「じゃあ、これで夜の特別レッスンは終了よ。シンイチくん、しっかり女のコになっていたわ。シンデレラをする時も今夜の女のコの心を忘れないようにね。そうすれば、演技が上手くなってアスリンを驚かせる事ができるわ」
「・・・は、はい・・・」
その後、ウエットティッシュで自分の下半身の後始末をしたシンイチはパジャマのズボンと一緒に脱いだパンツに履き替え、またパジャマを着た。
「ね、わかってると思うけど・・・今夜の事は二人だけの秘密だからね」
「は、はい。誰にも言いません」
「それでいいわ・・・じゃあ、おやすみ、シンちゃん」
「お、おやすみなさい・・・サトミさん・・・」
サトミはシンイチのおでこにお休みのキスをした。
シンイチが自室に戻った頃、ベッドの中のアスリンの心には言い様の無い昏い想いが渦巻いていた。
“アイツは・・・サトミまで私から奪って・・・サトミも何であんな奴にあんな事まで・・・”
寝ていたアスリンは不意に催して用を足しに行った。そしてトイレから出て自室に戻ろうとした時、何かの音と言うか声が聞こえたのだ。
耳を澄ませば女の声のようで、しかもそれはどうやら喘ぎ声のようで、最初はサトミが自慰でも始めたのかと思ったが何となく声色が違うようで、ではサトミがアダルトビデオでも見てるのかと思ったらサトミ自身も誰かと話してるように聞こえた。
不審に思って音を立てずにサトミの部屋のドアの傍まで行ってよくよく耳をそばだてたら・・・。
“この声・・・まさか、シンイチ?一体、何をしてるの!?”
そして、ドア越しに聞こえてくる声から状況を推察するに、どうやらサトミがシンイチに自分の下着で女装させて弄んでいるらしかった。
しかもシンイチは女のコになりきってそれらしく可愛い喘ぎ声を漏らしている。
サトミにはショタコンの気があるのではないか?と冗談で言っていた事もあったが、まさかそれが本当だったとは・・・。
アスリンはサトミが急に自分から離れていってしまうような気がしてならなかった。
アメリカに留学していた時のサトミは、アスリンにとても熱心に家庭教師をしてくれた。気さくで優しくて、自分より大人の女性だけれど子供っぽい部分もあって、友達の少ないアスリンにとっては最も気のおける人間となった。それからのアスリンはより社交性が良くなり、友達の数も増えていった。
そんなアスリンが日本の私立練芙学院に転校する事になったのは母の遺言が切っ掛けだった。
〝あなたのお父さんは日本にいるわ・・・私はもう行けそうにないから、代わりに貴女が行って来てほしいの・・・〟
〝そんなの嫌・・・私はお母さんと一緒にいたい・・・〟
〝お願い、アスリン・・・〟
そしてアスリンの母は亡くなり、母の主治医をしていた事が縁でアスリンは惣竜家に引き取られた。
日本に行くことを決めたアスリンは早速既に日本に戻っていたサトミとコンタクトし、彼女の家で暮らす事を希望したのも当然だった。サトミは二つ返事で了承してくれたが、サトミの家には既にシンイチがいた。勿論、サトミの悪戯によるサプライズであり、シンイチが紳士であると信用していたからだった。だが。
“何でこいつが・・・”
サトミの家に来てその事を知ったアスリンの心は大きく揺れた。
シンイチとのファースト・コンタクトは転校初日の朝だった。
「惣竜アスリンです。よろしく」
アスリンは自分の名前を黒板に書いてから自己紹介したのだが・・・。
葱竜Ashlin
クラスの全員が不思議そうな顔をした。そして一番前の席にいた男子生徒が一言。
「ねぎりゅう、じゃないの?」
その瞬間、彼の意図とは無関係にクラス中に笑い声が広がった。
「アスリン、[そう]の字が間違ってるわよ」
「えっ?」
サトミに言われてアスリンは黒板に向き直り、脳内検索した字に書き換えた。
物竜Ashlin
「それは、ぶつりゅう」
再びクラス中に笑い声が広がった。
「コラッ!笑うんじゃないの!彼女はハーフとは言え、一ヶ月前まではほとんど日本語喋れなかったんだし、覚えた漢字だってまだ少ないのよ」
サトミが正しい字を書いてくれたが、二度も字を間違えた事でアスリンは赤っ恥を掻く事になった。
「んーと、指摘しない方が良かったね。恥を掻かせちゃったみたいで、ゴメンね」
笑ったりしなかった上に、アスリンの気持ちを慮って謝った一番前の男子生徒、それがシンイチだった。だが、アスリンはシンイチのせいで笑われたと思い込んだ。己が悪い事をしたからシンイチは自分に謝罪してきた、とアスリンは受け取ったのだ。信頼と協調を美徳とする日本の文化にまだ不慣れであるが故の誤謬であった。
汚名挽回(?)とばかりに挑んだ期末テストだったが、アメリカでは学業トップだったアスリンも漢字が読めずに設問の意図を正しく理解できなかった部分もあり、納得できる点数を取る事はできなかった。そして学年トップを取ったのはやはりシンイチだった。
アメリカでの天才少女としてのプライドを痛く傷付けられ、アスカはシンイチに心の中で一方的な敵愾心を燃やす事になったが、それも単なる逆恨みに過ぎなかった。
そして今、日本で唯一気のおける相手だと信頼していたサトミまでがシンイチと妖しい関係になっている事を知り、アスリンのシンイチに対する感情はいやが上にもドス黒いものに変わり始めていた。
翌日、アスリンは何も知らない振りをしてシンイチやサトミと接した。しかし内心では、シンイチに対しどうやってこの恨みを晴らしてやろうかという思いで一杯で、授業中もほとんどその思案に明け暮れていた。おかげで指名された事にも気付かなかった事も二、三回有り、またもやシンイチへの逆恨みが大きくなっていった。
“・・・あいつを、私の奴隷にしてやる・・・そうすれば、本来の目的もクリアできる・・・。”
昼休みにグラウンドで友人達とサッカーに興じているシンイチに、アスリンは激しい憎悪のまなざしを向けていた。
学校が終わるとシンイチは、ケータイに入っていたアスリンからのメールですぐに帰宅した。いつもは本屋で立ち読みしたりメディア・ショップでCDやDVDをチェックしたりゲーム店で遊んでから帰るのだが。
しかし、アスリンが帰ってきたのはシンイチよりも後だった。
「お帰り、アスリン」
「ああ、帰って来てたの。ちゃんと言いつけを守ったようね」
「あのさ、『大事な話があるから寄り道しないで帰ってきて。』ってメール送って来たのはアスリンだろう。その言い方は酷いじゃないか」
「うるさいわね。ペットはペットらしく私の言う事におとなしく従ってればいいのよ!」
「誰がいつアスリンのペットになったんだよ!」
「あ、そうね。言い間違えたわ。今からあんたは私のペットになるのよ」
「もういいよ・・・下らない冗談に付き合ってられるか」
シンイチはリビングのソファから立ち上がって自室に戻ろうとしたが。
「ちょっと待った。あんたにお土産を買って来たんだから」
「お土産?」
アスリンはキッチンのテーブルに置いた紙袋を手にするとその口を開きながらリビングに入ってきた。
「お土産ってのは・・・これよっ!」
アスリンは紙袋をひっくり返して逆さまにした。開いた口から絨毯の上に落ちたのは淡いピンクのブラジャーとパンティの上下セット。
「な・・・」
いきなりの女性用ランジェリーの出現にシンイチは目を白黒させながら顔を赤らめた。
「サイズがわからなかったから、ブラもパンティもフリーサイズのものにしたわ。ブラはホルターネックで紐で留めるだけで、カップはAAだけど胸は膨らんでないからこれで十分でしょ。パンティも上下左右の2WAYストレッチだから大丈夫よ」
「あ・・・あの、アスリン・・・な、何でこれを・・・僕に・・・」
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