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第13話 そのサン

「以上が新たな君たちの使命だ。今度の相手は今までの市井の非合法組織とは違い、国際テロ組織・非合法組織に対抗するために結成された集団だ。残念ながら、君たちの命の保証はできかねる」 ジョージ’sエンジェルの三人はその言葉に驚愕した。その集団の各メンバーの素性は判明しているとはいえ、その一人一人がエンジェル三人をまとめて相手にできる、戦争のプロフェッショナルとも言えるのだ。 「君たちが不可能と判断した場合は、遠慮せずに撤退してくれて構わない」 「「「御冗談を」」」 三人のエンジェル達はその任務の拒否はしなかった。それに、それ程の危険な任務を見事に遂行して帰還した暁には・・・きっと自分達の主人であるジョージと逢えるような気もしていたのだ。 「・・・とは言え、戦闘能力で言えば10:1・・・」 「この差は如何ともし難いわね・・・」 「チャンスは全員集合している時ぐらいかしらね・・・」 三人のエンジェル達は雲一つない青空をビルの屋上から見上げて、どうやってチャンスを作るか、それとも待つか、手段を考えあぐねていた。 だが、急激に空を切り裂く轟音が背後に現れ、振り向いた三人は視線の先にいたその男を確認して驚愕した。黒い装甲スーツを纏い、背中にスクランダーを装着し、空から降りてきたその男は顔を装甲スーツのマスクで覆っていたのでその表情は伺い知れなかったが、マスクに開いた双眸からは凛とした力強い目力が感じられた。 「ミスター神宮寺!?」 有る時は謎の運転手、有る時はアラブの大富豪、有る時はニヒルな渡り鳥、またある時は気障な若社長、またある時は真面目な医学生、またある時はしゃれた音楽家・・・いったいいくつの顔を持つのかも不明である謎の男だった。 「日本そのものに対する悪意に対してのみ戦う貴方が何故ここに?」 三人のエンジェルが知っている彼は、警察の内部に入り込んで組織を変革させようとしている獅子身中の虫であり、今の自分達が戦う民間の暴力組織を敵とする事は無かった筈だが。 「私達に協力してくれるのかしら?」 だが、彼がそこに現れた理由は、三人のエンジェルも驚愕のものだった。 「勿論、君たちに協力はするさ。だが、それは自分の個人的な目的の一助になると判断したに過ぎない」 そして彼と彼女達が関わる事になった原因の中心にいたのは、実はシンイチであった。 「猪狩財閥と萩生コンツェルンという、日本を代表する世界的企業組織の間に無用の諍いが起きようとしている。それを食い止めるには、萩生コンツェルン傘下のラングレー・コーポレーションの対非合法組織部隊がこれから実行しようとしているミッションを叩き潰さねばならない」 勿論、キョウヤが率いる対非合法組織部隊がこれからどんなミッションを実行しようとしているか、それもエンジェル達は知らなかったので神宮寺は説明した。そしてそのミッションが無辜の一般市民に理不尽な理由で非道を加えるものであると知って、エンジェル達はさらに気色ばむ事になった。そしてそんなミッションが発令された発端の事象についても彼らは確認を怠っていた訳である。 「謂わば、仕掛人が依頼の裏を取らずに殺しを実行しようとしている、という事だ」 砕けた表現だが、確かに言い得て妙であった。 「向こうの兵隊共はこっちが引き受ける。君たちは指揮官の方と接触してくれ」 「え?でも、いくら貴方が一人で向こうの部隊全員を相手にできると言っても、一か所にまとまっていなかったら・・・」 「誰も一人で相手するとは言ってないさ」 そこに突然、 「神宮寺レッド!」「神宮寺ブルー!」「神宮寺イエロー!」「神宮寺グリーン!」「神宮寺ホワイト!」「神宮寺オレンジ!」「神宮寺パープル!」「神宮寺ピンク!」「神宮寺アクア!」「神宮寺シルバー!」「神宮寺ゴールド!」と名乗りが上がり、ミスター神宮寺(神宮寺ブラック?)の傍に何人もの色違いのミスター神宮寺が出現した。 「「「何て言うか・・・名付けて、トゥエルヴ・レンジャー、みたいな・・・」」」 などと三人のエンジェル達は呆然気味に呟いた・・・。 ・・・なんて事が有る訳もなく。 「では、また後で連絡する」 そう言い残してミスター神宮寺はスクランダーの羽を広げて空に舞い上がっていった。それを見上げた三人のエンジェル達は、上空に複数のミスター神宮寺が出現していた事を知って驚愕に目を大きく開いた。顎関節までは開放しなかったが。 「それでは、次回の宴をまたお愉しみに・・・」 女のコたち(と言っても腐女子だが)だけが至福の刻を享受し、二人の男のコにとっては地獄でしかない宴は盛況のうちに幕を閉じた。 シンイチとトオルはほもーんセックスをさせられただけでなく、贅嶺女学園の生徒達によるアナルレイプを受けた。 シンイチはトオルとの69で、そしてトオルのペニスをアヌスで受け入れながらトオルにペニスを手で愛撫されて射精した。確かに射精は性的興奮が絶頂に達して生じる現象だが、心と身体とは違う時もあるのも確かで、性の歓びは感じてもシンイチの心は醒めきっていた。それはトオルも同じとシンイチも思っていた。 そして、その後で二人は贅嶺女学園の生徒二人にアナルレイプされた。参加していたのはチコ、サエコ、アケミ、ユミ、リエ、ミエ、ミチコ、そして彼女達からの勧誘によって新たにこの宴の会員になった―――勿論、参加費の支払いは当然で、さらに三人組による厳重な審査に合格した訳だが―――瑞野ヨシコ、坂東セイコ、酉井エミコ・・・・・・・・・そのユリアン女学院高等部の三人がどうやって贅嶺女学園の腐女子達と出会ったかは特に記すまでもないので省略する・・・・・・・・・の合わせて10人。アスリンは主催者、そしてサトミとイツコは今回からは完全にお目付け役に徹する事にしていた。 ブルマー叛逆同盟の三人が暴走してアスリンから見捨てられて―――学校にはお休みと届け出が出ているが―――もうこの宴に参加できなくなっているのはシンイチもトオルもその場にいたから知っていた。 今回からアスリンの提案で、くじ引きにより選ばれた運のいい3人がシンイチとトオルのどちらか、口とアヌスのどちらかをレイプできるようになった。勿論、それに使うのは前回にサトミとイツコが使用した、脳波制御疑似精液連続射精機能付双方向ディルド―――要するに、オルガを感じた瞬間にディルドから疑似ザーメンを連続発射できる、と言う事だ―――だった。そして、くじに当たった者は次回の抽選から外れ、全員が幸運を手にするのが終わったらまたリセットして抽選に参加する事ができる。つまり、4回抽選に当たらないとシンイチとトオルの口とアヌスの4か所全てをレイプする事はできないのだ。そうなると、参加者が多くなるとなかなか完全制覇に到達できなくなるので、新たな参加者を連れて来るのも慎重にならざるを得ない。もっとも、アスリンは最初はその幸運をオークション―――つまりより高い金額を示した者の上位4人が順番に好きな場所を選べる―――にしようとして、サトミとイツコからそれは阿漕過ぎると言われてくじ引きにした訳だ。勿論、毎回リセットするとくじ引きにも不公平が出てくるので、当選者は次回抽選から排除というルールにした訳だ。 そして、今回そのくじに当たった幸運な三人が誰かも特に記す事ではなかったので省略する。 そして、客が掃けた後でトオルと二人で後始末をさせられたシンイチは、サトミやアスリンに引き立てられてサトミ宅への帰路に着き、イツコとトオルは別々に帰路に着いた。 “僕は・・・なんて情けないんだ・・・好きな相手を・・・嫌がってると知ってたのに・・・また、自分の欲望を優先してしまった・・・” 飲んだらあら不思議・どんな男でもたちまちほもーんになってしまう・・・という、腐女子が泣いて喜ぶ悪魔の薬「ドホモルンクルリン」はシンイチにはまるで効果が無かったが、トオルには抜群の効き目があった。勿論、トオルの幼少時の悲惨な体験もあって、それは本来はトラウマであった筈が、自分を守る為に脳がアナルレイプでの苦痛を無くすための脳内麻薬エンドルフィンを大量に分泌させ、さらにシンイチへの愛情―――これは紛い物ではなくて本物・・・本当の同性に対する愛情だった―――により分泌されたアドレナリンも合わさって、それにまさかの化学反応がスパークした結果による事など、さしものイツコも知る由も無かった。 それに対し、シンイチのトオルへの感情はあくまでも同性に向けた友情であり、自分のせいでトオルもほもーん地獄に引きずり込んでしまったと思っている故の贖罪の想いもあってトオルのペニスへの愛撫やフェラチオなどの行為は積極性が伴っていた訳であり、トオルとのアナルセックスも同じ想いでアヌスをトオルのペニスに差し出していただけであり、トオルが快楽を感じていたのに対しシンイチは何も―――それまでの三人組によるアヌス調教でトオルのペニスぐらいのサイズならば不快感を覚える事は無くなっていた―――感じてはいなかった。今日、シンイチが射精したのはあくまでもトオルによるフェラチオと手コキで本当に刺激による快楽を覚えた為であった。ほもーん行為というおぞましいシチュエーションに耐えるには快楽でそれを忘れるしかなかったからだ。 “シンイチくん・・・君は・・・歓びなど感じていなかった・・・僕の為に、自分の身を差し出してくれた・・・それなのに、僕は・・・君と一つになれる事を嬉しく思って・・・君の中で歓びを貪ってしまった・・・君の想いを忘れ去ってしまっていた・・・” シンイチに対する自分の愛情は本物、つまり自分は本当に同性愛者であると自覚していたトオルは、それを梶に言う事はできなかった。あの幼少時にアナルレイプされ続けた地獄から救い出してくれたというのに、今の自分が同性愛者である事を言えば、それは梶の面子を潰すのも同然になってしまう。恩人の梶にそんな事はできなかった。 梶に何も言えない、そしてこれ以上自分の愛する者を不幸にはできない・・・トオルに残された方法は、一つしか無かった・・・。 「では、これよりミッションを開始する。各自、ターゲットを秘密裏に拉致し、目的を実行せよ。なお、君達が任務に失敗し官憲の手に身柄を拘束されても会社は一切関知しないからそのつもりで」 ラングレー特殊工作隊員達は任務の準備に入った。各自、ターゲットは一人。人目に付かないところで拉致し、グレート萩生の言い出した指示を着実に遂行する。その為の撮影機材―――中には小道具も準備したりしている不埒な輩もいたりした―――も準備済だった。 バレリーナ・ナインが全員、白島バレエ・レッスン・スタヂオをからの帰路に就いた事を連絡し、ヒトミはキョウヤの到着を待った。生徒達は他の隊員に任せ、キョウヤとヒトミはこのバレエの指導者の拉致を担当する事になっていた。だが・・・。 “・・・えっ?” GPSによって示される各隊員の現在ポイントが一つ、不意にスクリーン上のMAPから消えたのだ。トラブルによる信号の瞬間遮断かそれとも電波混乱か?だが、消失したそのポイントNo.1が復活する事は無く、続いてポイントNo.2の表示も消えてしまった。 “どういう事?” こんな事態はかつて無かった事だった。そうこうしている内に、No.3のポイントも消失し、ヒトミは異変を感じてキョウヤに連絡を取ろうとしたが。 「マゼラトップ、応答願います。こちらマゼラベース、スクリーン上の各ポイントが次々と消失しています」 だが、キョウヤの応答を待つイヤホンから聞こえてくるのはギーガーギーガーという耳障りなノイズだけだった。 “ジャミング!?” いつもは全く聞こえないその通信妨害電波のせいで、キョウヤとの交信は不可能になっていた。そうこうしている内に次々とその他のポイントも消失していく。それはつまり、各隊員の発信機に何かトラブルがあったという事・・・簡単に言えば、何者かに襲われてしまった事、によると思われる。 慌ててヒトミは各隊員に連絡を取ろうとした。 「こちらマゼラベース、各ファイター応答せよ」 しかし、一向に連絡は来ない。残るNo.7、8、9にそれぞれ単独に呼び掛けても、何の応答も無かった。と思いきや。 「それどころじゃない!得体の知れない何者かに襲われている!!」 ファイターNo.9からの応答は、やはりまさかの事態発生だった。 スモークを貼ったハイエース―――これが派手なラメの色だったり見せかけのエアロパーツがついていたり極端なシャコタンだったり八の字キャンバーだったりしたらモロにDQN車だったが―――にいたヒトミはその時、ドアがノックされる音に気付いた。 地下駐車場に停めていたその車に用があってドアをノックしてくる者は・・・他の隊員―――おそらく得体のしれない何者か達に次々と襲われてしまい、生死不明であろう―――とも連絡が付かないその緊急事態では、もしかしたらキョウヤでは?とヒトミが考えてしまうのもある意味仕方なかったかもしれない。 だが、ドアを開けた外に待っていたのは、三人の女性だった。 「やっと出てきてくれたわね」 「スモーク張ってるから中で何してるのかと思ったわ」 「まあ、露出の準備はしていなかったようね」 アカネ、ハヅキ、カオリは別に敵意は持ってなかったのでまずはそんな軽い言い方から始めた。 「何か御用?」 「単刀直入に言うけど、あなた達のミッションは失敗したわ」 「そちら側の9人の隊員は全員こちら側が捕縛したの」 「どうか、手を引いて貰えないかしら?」 三人の言葉を聞いた瞬間、ヒトミの顔から血の気が引いた。今まで何度も危険なミッションを成功させてきたが、こうも完全に失敗したのは初めてだった。 そして、現状は1対3、勝ち目は無い。 「・・・いったい、何者なの、あなた達・・・」 「俺の可愛いアシスタント、ってところかな」 その三人の女性とはまた別の方向から聞こえてきたその声の方に振り向いたヒトミは、そこに頭のてっぺんからつま先まで黒いプロテクターに身を包んだ者がいる事に気付いて顔を強張らせた。 “ま、まさか!?・・・ミスター神宮寺!?” 日本そのものに対する悪意に対してのみ戦うその存在は、裏の世界に属している以上、ヒトミも勿論知っていた。しかし、今回の自分達のミッションは、ミスター神宮寺が関わってくる類の問題では無い筈だった。 「こちらからの要望はただ一つ。今回の君達のミッションを未来永劫に渡って完全に消滅させる事だ」 4対1・・・いや、正に一騎当千と噂されるミスター神宮寺の戦闘能力を考えれば自分一人では戦闘力はゼロに等しい。なのに、相手が要求ではなく要望と言ってきた事がヒトミには不思議だった。 「それを飲んでくれたら、そちら側の9人の隊員は無事に返すわ」 「私達は全面対決を望んではいないの」 「返答は如何かしら、加賀ヒトミさん?」 見知らぬその三人は自分の事を知っているらしい事に気付き、ついにヒトミは気力を失ってへたり込んだ。逆にヒトミは相手の三人の事を何も知らないのだ。ミスター神宮寺はその三人をアシスタントと言ったが、おそらく冗句だろう。 「わ、私は・・・副官に過ぎない・・・決定権は私には無い・・・」 「つまり、君や隊員達が同意したとしても、隊長の剣崎キョウヤがグレート萩生に提案しない限りはどうする事もできない、という訳だな?」 ミスター神宮寺はどうやらキョウヤの事も知っているようだ。だが、彼がキョウヤの名を出したその瞬間、ヒトミの身に震えが走った事に三人は気が付いた。 “““ふーん・・・そういう事か””” ヒトミがキョウヤに男女としての愛情を持っている・・・その事に別に自分達が何も言える立場ではない。もし、状況が違えば・・・例えば、ジョージに何か危険が迫っていると知ったら、三人もヒトミのように彼の事を心配に思うだろう。 「わかった。君はこちらの要望を飲むものと理解して、後は連絡を待つしかないな」 「で、でも・・・隊長からの連絡も途絶えていて・・・」 「いや、剣崎からの連絡ではない」 「・・・では、誰からの?」 そしてそのヒトミの問いに答えるかのように、ミスター神宮寺はサムアップした指で自分を指差した。勿論、ヒトミにはその言葉の意味を考える為の知識も考察も何も無かった。 第二新東京市から新東京市を結ぶ高速道路を二台の車が鍔迫り合いを続けながら疾走していた。勿論、何度も車体をサイドから接触し合っての、文字どおりの鍔迫り合いであった。 “この俺と命懸けの鍔迫り合いをして一歩も引かないとは・・・一体、奴は何者だ!?” 時々サトミに連れられたアスリンと面会するために街に乗っていく洗練されたシルエットのフェラーリ・テスタロッサではなく、やや・・・いや、かなり不格好なフォルムだが世界最高速を誇るブガッティ・ヴェイロンを大改造した―――車体は特殊強化金属鋼板に、ウインドウも強化ガラスに交換し、一般には入手できない滅多な事では破損しない強化ゴムのタイヤを装着し、内装も競争車のようにエアコンやその他の一般的な乗用車としての装備は全て取り払って、換わりにミッションに必要な高性能ナビや通信機器にレーダーやサーチライトに暗視機能付きカメラやデータロガー(画像処理含む)、そしてまるでoo7ばりの追加の戦闘用機能・・・前方・後方のマシンガンや煙幕装置にバックファイアやスパイク等の投下装置等を装備した―――自分専用の指揮車両でキョウヤは走っていた。 それに対し、突如出現したその楔形のフォルムを持つ見た事も無いマシンは一気にキョウヤのヴェイロンを追い抜くや否や進路を妨害してきた。世界最高速を誇るヴェイロンがスピードをMAXに上げてもそのマシンはさらにその一歩先を行ってキョウヤは前に出る事はできず、やがてサイド・バイ・サイドで車体を擦らせ合う壮絶なデッドヒートになった。 そして、信じられない事に、特殊強化金属鋼板の鎧を身にまとっていた筈のヴェイロンは接触するたびに車体に損傷が発生してきたのだ。対する相手のマシンは傷は付いても損傷など全く見られない。まるでカー・プロレスの世界から飛び出て来たかのような頑丈さで、キョウヤは徐々に追い詰められていた。 だが、その時。 “!・・・この先の分岐は・・・” ちゃぁ~んす、とばかりにキョウヤは薄笑いを浮かべた。その分岐の先に何があるのか・・・別に巨大な!のシルエットのオブジェが降ってくるわけでは無かった。 敵の車はキョウヤの車を妨害しようと前に出ているから前方よりも後方に注意を払っている筈、上手く誘い込む事ができるか・・・。 “今だ!” キョウヤはぎりぎりでハンドルを切って分岐寸前でコースを変えた。 もしこれが自分が前を走っている場合なら、分岐寸前でコースを変えても相手が猛者なら追随して来る可能性もあった。だが、幸いにも自分は後ろを走っていたので上手く相手を左側に引き付けておいて、相手が分岐の左に入った瞬間にキョウヤは右へとコースを変更したのだ。 ガードレールを間に挟んでキョウヤは右側を、敵の車は左側をそのまま疾走する。だが、右側はそのまま新東京市へ繋がっているが、左側は別の方面につなげる為にその先は工事中・・・つまり未完成で、しかも途中で道が途切れているのだ。そのまま行けば真っ逆さまに落ちて地面に激突である。 「アディオース!」 ついに行き止まりがやってきて、敵の車は全く減速する事無くそのままバリケードを突き破って奈落の底に落ちて・・・逝くと思いきや。 「何だとっ!?」 敵の車はなんと4つのタイヤの軸を直角に折り曲げて下方に向け、そこからホバークラフトのように宙に浮いてそのままキョウヤのいる道へ戻ってきたのだ。 まさか、アニメか特撮のSFの世界でしかあり得なかった、ホバーシステムによる空中浮揚能力を持つ車が現実に目の前に出現した事で、さしものキョウヤも度肝を抜かれていた。 「い、いったい・・・いったい、奴は何者なんだっ!?」 再びタイヤを元に戻して道路の上を走り始めた敵に、キョウヤは煙幕やバックファイアやスパイクを投下したりしてみたが、相手は軽快なハンドル捌きでそれを余裕で回避した。それどころか、カーブでは容赦なくキョウヤのイン側に突っ込んできてヴェイロンを簡単に弾き飛ばした。 「くそうっ!」 ついにキョウヤは敵に向かって前方マシンガンをブッ放した。ダ・ダ・ダ・ダ・ダーン!と発射されたその弾丸は狙い過たず敵の車体に当たるもガ・ガ・ガ・ガ・ガーン!と弾き飛ばされた。通常なら相手は車を破壊あるいは故障させられてもしくはタイヤを撃たれてパンクして走れなくなって停止してしまう筈だったのに、目の前にいる車はタイヤさえも無傷のまま疾走を続けている。 「く・・・こうなれば・・・イチかバチか・・・」 次のカーブでキョウヤはインに飛び込んだ。そしてそのまま相手に突っ込むのではなく、見事なヘランドトー・・・もとい、ヒール・アンド・トゥとハンドル捌きによるブレーキング・ドリフトで巧みにヴェイロンのテールを滑らせ、カウンター・ステアを当てる事も無くそのまま相手の車体の斜め後方をプッシュ・・・しようとしたが、相手も見事にパワー・ドリフトをキメて同じ方向にテールを振っていた―――まるで、キョウヤの狙いを把握していたかのように―――ためにヒットできず、そのまま二台はスピンする事になった。そして 「マズイ!」とキョウヤがスピンしてアンコントロールになるのを防ごうと意識を切り替えたその時、相手は何と意識的に大きくドリフト・スピンをキメて逆に反対側からヴェイロンをヒットしてガードレールまで吹っ飛ばしてしまった。 「しまった!」 既に時遅く、ヴェイロンは鋭くスピンしながらガードレールに激突してついに停止してしまった。それを見た敵の車もすぐ傍で停止した。 “ちっ・・・いったい、何が目的だ・・・” キョウヤは愛用のコルト44マグナム―――別に弾はシルバーでもなく先端に十字の切れ込みも入れていなかったが―――を手にしてドアを開けて外に出た。すると、敵の車もそのフロント及びサイド一体型ウィンドウ~天井ルーフまでが前方に跳ね上げるように開かれて、その中央のシートに座っていた者がジャンプして出てきた。その黒いスーツと異様なマスクを見れば、ヒトミでさえ知っていたその敵の正体にキョウヤが気付かない筈も無かった。 すぐさまキョウヤは銃を前に向けるが、既に相手は至近距離に飛び込んでいて前蹴りでキョウヤの銃を蹴り飛ばした。 「くっ・・・」 キョウヤはすぐにアーミー・ナイフを取り出して構えるが、相手は何も畏怖する事も無く、徒手空拳を構えた。 そのまま二人は無言で対峙を続けるが、焦りの色が顔に現れたのはキョウヤの方だった。 「な・・・何故だ!?・・・何故アンタが俺のジャマをする!?俺達がアンタの敵だとでも言うのか!?」 焦れたキョウヤは相手に問い掛けた。ミスター神宮寺は日本に対する悪意ある攻撃・犯罪事件を起こす組織のみを戦う相手としていた筈なのだ。世界中に進出したとはいえ、トップが日本人である萩生コンツェルンが日本に悪意等持つ訳がない。 「萩生コンツェルンと猪狩コーポレーションが敵対する事は、日本を狙う悪の枢軸国の思う壺だぞ」 「な・・・に・・・?」 「アンタ達のミッションそのものが間違っている。小娘のたわ言に踊らされるなど、剣崎キョウヤとも思えないミスだな」 だが、萩生コンツェルンの総帥・グレート萩生が惣竜アスリンに指示した事は、猪狩シンイチを自分達側に引き込む事、その為には言い方は悪いがアスリンとシンイチの政略結婚も有りという事だった。そのアスリンのミッションのサポートをするのがキョウヤ達の現在のミッションの筈だった。 「いったい何の事だ!?」 「可憐なバレリーナの卵たちを手籠めにしようとしたそっちの隊員達は全てこちら側が捕縛してある。君の副官の加賀ヒトミにも俺のアシスタントが今頃接触しているだろう」 「な・・・」 今回のミッション内容まで相手はどうやってか知っていた。おそらくは巧妙な手口でハッキングされてデータを盗み見られたのだろうが、そのミッションの内容が自分達プロの傭兵としては少々問題ある内容であるとは確かに自分も自覚はしていた故に、それを相手に知られていたとあってはキョウヤも絶句するしかなかった。 「こちらからの要望はただ一つ。今回の君達のミッションを未来永劫に渡って完全に消滅させる事だ」 キョウヤからの連絡が来たのは、通信機ではなく相手の差し出したケータイからだった。 「隊長!ご無事でしたか!?」 「君こそ・・・無事でなによりだ」 ヒトミの不安だった表情がキョウヤの無事を知るや否や和らいでいったのを見て、やはり三人のエンジェル達も同性として異性の事を心配する想いは共感できるものだった。 そして、神宮寺の要望―――決して彼は要求とは言わなかった―――については、やはり真実を確かめる必要があり、そこから正しい判断を下さねばならない事から、キョウヤの判断は「保留」となった。 それに、ヒトミ自身も今回のミッションには内心では不服があった事もあって、それが一先ず中止になった事でも安堵できた。 ただ、真実が判明するまで、キョウヤの部下の隊員たちは全員捕縛されたままだが、それは耐えて貰わねばならないだろうし、かと言って神宮寺達が故も無く暴力を振るって痛めつけるなどという非道をするつもりもなかった。 取りあえず、無関係の人間に危害が加えられる事は避けられたし、こちらが知っている真実に相手が辿り着くのもさほど時間がかかる筈も無いので、三人のエンジェル達は神宮寺のサムアップに同じ仕草で応えた。 そして、ヒトミははっとさっき感じた疑問を思い出した。 「あ、あの、隊長・・・そっちに、ミスター神宮寺が現れていませんか?」 「ああ、目の前にいる。今話しているの電話は彼のものだが・・・何故わかった?」 「っ!・・・私の目の前にも、ミスター神宮寺がいます・・・」 キョウヤからのその言葉にヒトミは一瞬息を飲み、そして事実を告げた。 「何っ!?」 ヒトミから告げられた言葉に思わずキョウヤも目の前の神宮寺を凝視した。 “ミスター神宮寺は・・・複数人いるのか!?” ようやくキョウヤもヒトミもその重大な事実を互いに相手の言葉から理解した。勿論、複数人と言ってもたった二人ではなく、10人以上を意味する。つまり、ミスター神宮寺とは一人ではなく同じ姿で同じ名を名乗る複数人、集団の事を意味する、と・・・。 だが、それも100%の正解ではなかった・・・。 “・・・どこで間違えた?” ミスター神宮寺は、キョウヤ達のミッションそのものが間違いだと言った。その言葉の意味は・・・ 「・・・やはり、やり方が間違っているという事では?」 ヒトミに回収して貰ったキョウヤは自分達の本部に戻る道すがら、今までの事象を思い出してみる事にした。 “私は猪狩シンイチという少年に好印象を持った。惣竜アスリンと結婚すれば、それは双方の背後にある企業体両方が発展し、ひいては日本の国力を高める事になる、と考えた・・・それが間違っているのであれば、猪狩シンイチは敵なのか?” だが、今現在でも猪狩財閥に属するらしい者がシンイチと接触を図ったという情報は一つも上がってきていない。アスリンは自分が萩生一族の末裔である事を知らされているが、シンイチは自分が猪狩財閥の末裔である事は全く知らない、という状況だ。ならば、シンイチが萩生コンツェルンの敵である、という仮定は成立しない・・・。 「俺達のミッションそのものが間違ってると言うなら・・・それは指示を出したグレート萩生が間違っている事になるな・・・」 やはり、時間と金が掛かっても、穏便な手段を取るべきだった・・・とキョウヤが思い至ったその時。 「隊長、少しいいですか?少々気付いた、いえ、疑問に思った事があるんですが?」 「何だ?」 そこでヒトミはミッション開始前の、白鳥バレエレッスン・スタヂオでのレッスン場の盗聴をしていた時の事を話した。 ほんの少しの間だけ、ユイコと言う変態女装美少年がレッスンメイトに加わっていて、今はもういなくなってしまったが、9人のバレリーナの卵たちは誰もがそのユイコとやらにお熱だという事、しかし猪狩シンイチのシの字も話の端っこにさえ出て来なかった事・・・。 「何だと?」 ならば、その9人のバレリーナの卵たちがシンイチに色目を使って困っている、というアスリンの告白は・・・。 「小娘のたわ言に踊らされるなど、剣崎キョウヤとも思えないミスだな」 とミスター神宮寺はキョウヤに言ってきた。そして、アスリンの言葉をそのまま信じて、キョウヤ達は裏を取る事をしていなかったのだ。 “・・・まさか・・・” 「うほっ、これはまた随分と突き抜けちゃってるわね・・・」 「腐女子漫画家の妄想留まるところを知らず、ね・・・」 サトミとイツコが見ている漫画は、例のチコが描いた未発表同人作品(のコピー)だった。シンイチとトオルだけでなく、アスリンが見せたコウジやケンタの写真―――シンイチと三人でつるんでいるところで、それを見て早速チコはシンイチを受け、残りの二人を攻めにしたシーンを妄想したらしい―――を参考にして、その二人まで参加してしまうほもーん4P、という内容だった。 「で、アスリンはこの二人も引きずり込みたい、という意向なワケね。なかなか面白そうじゃないの」 「サトミ、もう少し熟慮してから発言しなさいな。シンイチくんと凪羅くんをほもーんにするまでどれだけのステップを踏んだと思ってるの?」 相変わらずサトミはその場のノリで何も考えず、対してイツコはMADとは言え科学者・研究者らしく慎重さをみせた。 「ドホモルンクルリンの効果を疑うようで悪いけど・・・この二人に効果ある?」 「あら・・・もしかしたらこの二人には耐性があるかもしれないって事?」 「てゆーか、アスリンはどうしてそう思う訳?」 そこでアスリンは最近気になっている事を二人に打ち明けた。それは、ヒカリやマユミが最近コウジやケンタと付き合っているらしいという噂だった。どういう事かと言うと、ケンタが図書室でマユミの図書委員の仕事を仲良く手伝っていたり、あるいはコウジが放課後にヒカリに勉強を教わっていたり、そんな場面を何度かクラスメートが目撃したという事だった。そして、それを聞いて驚いたアスリンは 「惣竜さんは猪狩くんと朝から晩までお家でデートも同然なんだから、気にしなくてもいいんじゃない?」 などとマナに茶化されてしまったのだ。 「だーれがあんなアナルマゾのほもーん奴隷なんかと!勘違いも甚だしい!失礼しちゃうわ!」 だが、二人の真実の関係を周囲に悟られないために、アスリンの意向で学校でも二人は割と仲の良い振り―――まあ、シンイチがアスリンのわがままに付き合ってあげてるシーンが、仲睦まじいと誤解されている訳だが―――をしているので誤解されるのは仕方がない、いや、どちらかと言うと誤解して貰ってくれていた方が逆に安心できる、というのがシンイチの本音だった。つまり、シンイチ自身も内心アスリンを心底から嫌っているという事だった。 “えーと、つまり、アスリンは自分がなかなか剣崎氏に相手して貰えないのが不満な上に、クラスメートが彼氏を持ってるのが気に入らない、って事かしら?” “てゆーか、だからその二人もほもーんに引きずり込もうって魂胆みたいね・・・” 大人であるが故により経験値の高いイツコとサトミにはアスリンの心胆はお見通しだった。 「ということで、またイツコにいいお薬を作って欲しいんだけど?」 「どんな薬?」 「どんな女のコでも飲んだらたちまち腐女子になる薬」 「はは~ん、来市さんや山石さんや桐芝さんに飲ませて彼女達も腐女子になれば、鈴川くんや相賀くんがやをってるシーンを当然見たくなる筈・・・なんて考えたワケね」 「そ、そうよ・・・何よ、それが悪いって言うの?」 図星を突かれたらしく、アスリンはやや逆ギレみたいな反応。 「別に悪いとは言わないけどさ・・・でも、そんな便利なクスリなんていくらイツコがMADと言われる天才科学者でもそう簡単には・・・無理なんじゃないかな?」 「ちょっと一言多いんだけど・・・それはともかくとして、ドホモルンクルリンだって何度か調合し直して開発していったんだし、一朝一夕というのはいくら何でも無理よ」 「とゆー事は、可能性はゼロじゃないってワケね?」 「時間は掛かるけどね・・・やってできない事ではないと思うわ」 「オッケー、お金ならいくらでも出すわ。そうね、半年ぐらい掛かってもいいから薬を完成させて。今年のクリスマスにはシンイチとトオルと鈴川と相賀の4Pほもーんとか、その4人のケツマンコを女子がレイプする逆アナル大会とか開けたらサイコーだわ!アッーヒャッヒャッヒャッヒャヒャ~!」 言語として音にならない筈の言葉を声に出して狂気の高笑いを始めたアスリンは、傍から見れば最早ヒトには見えなかった・・・。 日曜日の朝のニュースワイド番組は、どの局でも同じような内容でスタートしていた。それは、とある女性政治家の収賄事件だった。 「つまり、この人は賄賂を貰って私腹を肥やしていた、って事かしら?」 「そうみたいね。まあ、こんな人が男女同権なんて言ったって信用度ゼロね。選挙で票を入れた人もバカばっかね」 「レディがいないからこの国にレディファーストは根付きません、とはよく言ったものだわ」 アスリン、サトミ、そして昨日から泊まっていたイツコは自分達が今シンイチにしている事を完全に棚に上げて全く好き勝手なことを言っていた。そのシンイチは今、自室として与えられた狭い物置の中で、口にチンポ型ギャグを噛まされただけでなくアナルに拡張用の今までより少々大き目のごん太バイブをハメ込まれて、四肢を拘束されて身動きできずにいた。てゆーか、一晩中その責めを受けていたのでいつの間にか失神していたが、それに気づく三人組では無かった。 そして、番組は一旦報道局からの最新ニュースのコーナーになった。そこで最初に報道されたニュースは、男子中学生がどうやらマンションの屋上から飛び降り自殺をしたらしい、というものだった。事件は深夜に発生し発見されたのは未明、既に死亡しており、ポケットの手帳に遺書らしきメッセージが残っていたらしい。 「また、イジメによる自殺かしら?」 というイツコの推測はある意味当たっていた。 そして、遺書らしきそのメッセージは、「これ以上、愛する者を苦しめる事はできない」という意味合いだったらしく 「てことは、男女関係の痴情のもつれ、ってヤツ?」 「みたいね」 というアスリンとサトミの見解はある意味的外れだった。 だが、そのニュースの続報がすぐに飛び込んできて、サトミとイツコはギョッとした。 「自殺した中学生の身元の情報が入りました。練芙学院中学校の生徒で、名前は凪羅トオル―」 そこまで耳にした瞬間、サトミは飲んでいたビールを噴き出し、イツコの顔に吹き掛けてしまった。 「ちょ・・・サトミ・・・」 「何してんのよ、きったないわね~」 「あ、ゴミン・・・って、そうじゃなくてっ!」 「サトミの言いたい事はわかるから、その前にちょっと顔を拭かせて貰える?」 トオルが自殺したらしいという事を聞いて慌てふためくサトミに対し、イツコはそれでもクールだった。 「のんきに顔拭いてる場合っ!?ウチの生徒が自殺しちゃったのよっ!それもよりによって凪羅くんがっ!」 「慌てても仕方が無いのよ、落ち着きなさい、サトミ。でないと、自分の首を締める事になるわよ?」 「これが落ち着いていられる!?凪羅くんの自殺の原因の調査が始まったら・・・」 「真実を凪羅くんが暴露すると思う?そうなったら、それこそ凪羅くんが愛する人に大きな迷惑を掛けるんじゃないかしら?」 そう、サトミが心配していたのはそこだった。トオルの自殺の原因、その遺書のメッセージに書かれた愛する者とはシンイチの事だろうという事ぐらいサトミも容易に推測できる。だが、それは三人組とトオル本人とシンイチ本人しか知らない事だった。贅嶺女学園の連中は、その二人が三人組によってやをらされている、という認識であり、既にブルマー叛逆同盟の三人は処分済、残る事実を知るのはここにはいないサヤ一人。 トオルが愛する者とは果たして誰なのか、マスゴミが押し寄せて来るのも当然予測されるが、緘口令を敷けば問題無い。そして三人組+サヤを除く者には、アスリンの後ろに萩生コンツェルンが付いていると一種の脅しを掛けているので、改めて言わなくても自ら口をつぐむ筈。 そして、表向きは、トオルと最も仲がいい女子はベストカップルにも選ばれた相手のレイナであると学校中の誰もがある程度は認識している。 「私達は、学校の教師であるだけ、という立場を貫けばいいのよ。それに、責任追及と称してマスゴミが殺到するのはまずは3-B担任の坂本先生、それから学校全体の責任者として夕月校長・・・学年が違うサトミも保健教諭の私も、事情を知っているかも?とマスゴミが考えて押し寄せてきたりする筈がないわ」 そして、緘口令が敷かれても、サトミはトオル本人が三人組の極悪街道を暴露する心配をしたのだが、その暴露はつまりシンイチがどんな辱めを受けて来たかも世界中に知れ渡ってしまう事につながる。ならば、そんな事をトオルがする筈がない。 「・・・流石・・・心理学にも精通しているイツコだわ・・・」 とサトミが感心したところでアスリンが口を開いた。 「ま、真実を知ってる人間が死んでくれたって事は、いい事じゃない?ブルマー叛逆同盟のアホみたいな手間は省けたし、それに、今までシンイチはトオルとのアナルセックスで性的興奮してたかどうかは知らないけど、少なくとも幸福感は感じていたと思うし、だけどこれからは二度とトオルとアナルセックスできないと知ったら、シンイチのやつどんだけ絶望するかしら?ぐひひひひ・・・」 知っている者が死んだというのにアスリンはサトミやイツコのように何か反応する事さえなく、事も無げにシンイチへの憎悪溢れる言葉を吐いた。 「それに、トオルがいなくなったからには、これでシンイチのアナルをもっともっと拡張して、巨根の男性とアナルセックスさせるシーンを売り物にしないとね。ギャッーヒャッヒャッヒャッヒャー!!」 アスリンの脳裏には、DPSで見たゴキブリ顔の黒人男性の超巨根ペニスにアナルレイプされて苦痛に泣き叫んでいるシンイチの姿が浮かんでいた。そしてその瞬間、アスリンは自分の秘所の奥から愛液があふれ出すのを感じ、一瞬イキそうになった。 「ま、シンイチのヤツも自殺してくれたって、私としてはもう痛くも痒くもないんだけどね」 「ちょ、待ちなさい、アスリン!あんた何言ってんのよ!私はシンイチ君の保護者なのよ!そんな事になったら私の立場は・・・」 保護者のくせに何をしていたのか、悩みの相談さえ聞いてやれなかったのか・・・事情を知らないが故にそれを明らかにしようと大多数は望んでもいないのに勝手に自分達でそれが使命だと勘違い、いや、独善的な判断でマスゴミがサトミの元に押し寄せて来るのは明らかだった。 「今更保護者面しても意味が無いけどね」 サトミの慌て振りをイツコが見事に皮肉ったので思わずサトミもイツコを睨んだ。だが、アスリンの野望に自分の女装ショタ趣味を便乗させる事でシンイチを地獄へ道案内したのもサトミなのだ。たとえそれが「猪狩コーポレーションの後継者であるシンイチと萩生コンツェルンの末裔であるアスリンが結び付くのが二人にとって幸せ」と考えて―――それもやはり独善的な判断だが―――その結果がアスリンのせいで醜く歪んでしまったとしても・・・。 「ん・・・確かにサトミの立場を考えなかった発言だったわね。それは謝るわ。ごめんなさい」 二人の反目は自分の不利益になると灰色の脳細胞が瞬時に判断したのか、三人組のリーダーであるアスリンはそれを諫めようと頭を下げた。 「でも、もし本当にそうなった時は、ちゃんと私が萩生一族の面目を掛けてマスゴミからサトミを守るわ。それに、イジメを苦にして、それが恥ずかしくて親にも言えずに自殺する青少年は毎年ある程度はいるし、ましてそれがアナルマゾのほもーん奴隷なんて性癖を苦にしてのものなら絶対に誰にも言えないでしょうし・・・親子と言っても所詮は別の人間、相手が何をどう思っているかなんてわかる筈無いし、ましてシンイチとサトミに血の繋がりも無いし・・・」 ただ、サトミは一応シンイチとは血の繋がりはないが遠い親戚ではある。 「う、うん・・・まあ・・・アスリンがそう言ってくれれば嬉しいしほっとするんだけど・・・」 「まあ、仮に本当にシンイチくんが死んでしまったとしても、彼の冥福を祈るのに吝かでは無いけど、それはそれとして、私の研究成果は残るし・・・ドホモルンクルリン、きっとスゴイ高値が付くわ」 イツコの開発したドホモルンクルリン―――と言っても、過去のトラウマから実は同性愛者であったことが表に出て来ただけのトオルに効果があったと勘違いしているだけで本当は完成には程遠い訳だが―――を世の中の腐女子に売りまくれば莫大な金が手に入る、とイツコは獲らぬ狐の皮算用をしているようだが。 「その薬を売るよりは、今までいっぱい撮り貯めた盗撮シーンを腐女子向けの18禁ビデオで売りまくればいいんじゃない?今のところロリ系は厳重に御法度にされてるけど、ショタ系は御構い無しだし」 などとサトミも獲らぬ狸の皮算用をしていた。 確かにロリ系は旧作は勿論の事として新作も厳重に取り締まられている。それに対し、ショタ系は全くもって野放しである。特にそのジャンルがやをい・ほもーんになると嫌がるのを無理やりに出演させたという100%強制になっている。だが、これも野放しになっているのはその被害者である男子児童からの被害届がまず出て来ないからである。それはやはり、三人組が推測しているように、自分の惨めな経験を白日の下に晒される恐れからである。 女性のレイプ事件についても被害者である女性側に勇気が有り意志の強い者が増えてきた―――これが本当の意味での「女性が強くなった」という事である―――おかげで事件の報道もされてそれが性犯罪事件の歯止めに効果が出ているようではあるが、逆に痴漢冤罪事件・・・どちらかと言うと、誤解よりも故意の方だが・・・も増加してきている。果たして、それはここ数年のことなのか、それとも官憲側の間違った思い込みのせいで実は昔からあった事なのか・・・。 しかし、それに対し男性の性犯罪被害者はと言うと、やはりアナルレイプされたなんて事は、言ってはナンだが女性が普通にレイプされた事―――それは男性が「普通」に女性を求めての性的欲求の暴走である―――よりも人間として「異常」性が高すぎる事象である事から、強い女性が増えてきている事に反して男性は殆ど泣き寝入りするしかない、という状況である。ましてアナルレイプされた男子児童の被害届など・・・。 「え~、大人のくせにお金儲けで思いつくのってそれぐらいなの?」 ビデオや薬をちまちま売るなんて事よりももっと壮大な事をアスリンは思いついていた。 「じゃあ、アスリンはどんな事を考えてるのかしら?」 「少なくとも何か物を売るって事では無さそうね?」 果たしてアスリンが何を企んでいるのか、二人とも彼女の大言壮語を何故かwktkして待ってみた。 「シンイチは碇コーポレーションの御曹司、だけど、あいつがアナルマゾのほもーんである事が世界中に知られ渡ったら、どうなると思う?」 「そうなったら、シンちゃんの人生はもうヲワリになっちゃうわ」 それを怖れてシンイチは三人組に虐待に忍従するしかなかった訳だが。 「思いつめたあげく、それこそ本当に凪羅くんの後を追う事になりかねないわね」 「まあ、それはシンイチが猪狩コーポレーションの御曹司でなくてもそうなるでしょうけど・・・」 「あっ!?・・・アスリン、あなた、まさか・・・」 サトミと違って頭の回転が速いイツコはすぐにピンときた。 「将来の猪狩コーポレーションの総帥の後継者となるだろう人間がアナルマゾのほもーんである、なんて知れたら、猪狩コーポレーションは世界中の笑い物になっちゃうでしょうね」 「・・・えっ?ちょ、ちょっと、アスリン?」 流石にそこまでヒントが出たらさしものサトミも何となく朧げだがアスリンの考えている事の想像ができた。 「このスキャンダル情報があれば、猪狩コーポレーションをどうにでも弄れるのよ。つまり、シンイチの性癖をバラされたくなかったら・・・なんて脅迫すればいくらでもお金は手に入るわ。いいえ、来るべき時が来たら、私がシンイチに取って代わって猪狩財閥を支配する事もできるのよ」 アスリンは例えグレート萩生に孫娘だと・・・つまり、晴れて萩生一族だと認めて貰えたとしても、そうなれば何人もいる後継者争いの真っただ中に飛び込む事にもなる訳だ。ならば、ライバル会社である猪狩コーポレーションを自由に動かせる切り札を持っているのならばその後継者争いの中で断然優位になれる、と目論んでいたのだ。 「それって、つまり猪狩財閥を脅迫して乗っ取る、って事ね」 「何とも大胆不敵、ってカンジね」 アスリンのあまりにもJCと思えない恐るべき企みに大人の女性であるはずのサトミもイツコも感嘆せざるを得なかった。しかし、腐女子趣味が行き過ぎて冥腐魔女とでも言うべきレベル―――もはやそれは(キ)そのものであり、もっとマシな?言い方をすればそれは人間の性根としては暗黒面(ダークサイド)に堕ちてしまったと言えよう―――に達しているアスリンは 「まったく、シンイチをアナルマゾのほもーん奴隷に調教して、本当に良かったわ。グフ・・・グフフ・・・グフッグフッグフッ・・・ンギャァッ~ヒャッヒャッヒャッヒャ~~~~」 腐女子、いや、貴腐人どころか汚超腐人さえも遥か下に見る冥腐魔女と豪語するアスリンは、これからの自分の人生が栄光に包まれた日々である事を確信して声も高らかに大笑いするのだった。 (エピローグへ続く)

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