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【6】-7

 かえって気を使わせてしまっただろうかと、少し申し訳なく思って聞いてみる。ミセス読書は「そんなことないわよ」と笑った。  グループ客が席を立ち、会計を始める。 「こちらこそ、さっきは気遣い嬉しかったわ。ありがとう。今は欲しいものを頼んだだけだから、普通に持ってきてね」 「はい。ありがとうございます」  窓の外には、まだ雨が降っている。 「よく降るわね。雨は少し憂鬱だけど、こうして一雨降るごとに寒さが緩んでいくのね」  もうちょっとで春ね、と微笑まれて、頷く。  伝票を手にしてカウンターに向かいながら、また少し不安になった。  千春にも、春はちゃんと来るのだろうか。  次の出社日について勝山商事に問い合わせたが、はっきりとした答えはもらえなかった。日程表を送ると言われたが、一週間以上経った今もまだ届いていない。  電話口の社員の声が、ひどく憔悴していたことも気になる。  三月もなかばを過ぎて、大学の卒業式は目の前だ。入社日まで、あと一週間余り。  今さら心配してもどうにもならない。それはわかっている。わかっているけれど、不安は大きな雨雲になって心を覆っている。  何が起こっているのか知りたかった。何もわからないまま取り残されるのが、怖かった。  面接で会った人事担当者も、最初の研修時に話をしてくれた社長も、悪いことをする人には見えなかった。きっと何か事情があるのだ。  ミセス読書に紅茶とタルトを運んでしまうと、また手が空いた。何もしないでいるとつまらないことばかり考えてしまいそうで、空いているテーブルを磨き、観葉植物の葉の埃を掃い、ダスターを漂泊する。トイレの備品のストックを補充してフロアに戻ると、にぎやかなグループ客が去った店内はいつも以上に静かだった。  外の雨音が聞こえそうなくらい。  暗い窓の外を見る。  雨はなかなか止みそうになかった。

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