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【14】-5
開店を六月に早めたのは、千春の誕生日に間に合いそうだったから。
そう誠司は言った。
六月の第二週。土曜日。
千春の二十三歳の誕生日に、誠司の店はオープンする。
「千春……」
厨房から誠司が千春を呼んだ。
低くて、少し掠れた甘い声。千春の好きなその声で、何度も、何度も呼ばれた名前。
千春。
長い長い春。
店の名前は、最初から誠司が決めていた。
――『ミレニオ・プリマヴェーラ』
MILLENNIO は「千年」。
PRIMAVERA は「春」を表すイタリアの言葉。
「千春の名前だ」
誠司が言った。
―了―
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