112 / 113

【14】-4

『あいつは、経営とか、企業としての戦略とか、そういうのを考えるのは得意だ。だから、大きい流れは誠司に任せて、一つの店っていう小さい単位の、毎日の運営を千春がサポートすればいい。あいつの知らないことを、千春がきっと教えられる』  そんなふうに励ましてくれた。 「千春。ちょっと、これ味見してみろ」  厨房から誠司が顔を出した。  スタッフと一緒にマニュアル通りに調理したシチリア風のカポナータとピザの皿を手にしている。  オリーブオイルでナスを揚げる工程と煮込みは店で行い、煮込むための甘酢ソースは「セントラルキッチン」で加工されたものを使っている。ピザはほぼ焼くだけ。 「どうだ」 「美味しい! 誠司さんが作ったのと同じ味がする」 「よし。千春のお墨付きが出たぞ」  誠司が破顔する。 「ほんとに……、夢が叶っちゃうんだね」  千春がしみじみ口にすると、「まだまだ、これからだろ」と誠司が笑う。 「なにしろ、千春の望みは、世界中の人にこれを食べさせることだ。需要がなければ終わりだぞ」 「大丈夫だよ」  誠司の料理は、本当に美味しい。誰が食べても、きっと美味しい。  それに、誠司は勝算があるから始めたのだ。きっと、成功する。  それでも、確かに先のことはわからない。 「そっか。まだ、これから……」 「これからは千春の活躍も当てにしてるからな」 「うん」  ずっと、長い時間をかけて誠司は準備をしてきてくれたのだ。  誠司は、八月に三十歳の誕生日を迎える。その時までに起業することを目標にして……。  順調に、準備は進んだ。 「もうすぐ昼だし、トマトのパスタも作ってやるから」 「みんなにもね」  わかってるよと笑って、誠司が厨房に消える。

ともだちにシェアしよう!