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ふれて〈7〉

「この手触り、すごくいい。細やかで、ハリがあって、形もいい。でも十九年ものだからね。アンティークと違って、失われていくばっかりだな」  この人は本当に何も考えていないのだと思う。手触りの良さそうなものがあると触れたい、それだけ。 貝瀬の何を見て、何を知って、触れて欲しいなどと思っているのだろう。ただ快に流されているだけなのか。それなら、それでもいい。もう気持ちは溢れかけている。 「失われていくものこそ、美しいって言った人もいたっけ?」  口を動かそうとも、手の繊細な動きは変わらない。容赦なく心のひだを逆なで続ける。「はぁっ…」思わずため息のような声が漏れた。 「おまえ、そういう顔するとつけ込まれるよ」  声を聞き逃さず一瞬渉の顔を見遣り、手が首筋に向かって伸ばされる。触れた瞬間息を飲み、今までにない痺れがぴりぴりと肌を伝う。するりと喉まで指を下ろし、喉元から耳裏に向かって撫で上げられると、どうしていいのかわからないほどの緊張にじわりと追い詰められ、思わず喉がひゅうと音を立てた。 「やっぱり手よりしっとりしてて、気持ちいい」  今までよりもゆっくりとした肌に染み込むような手つきで、指は心を侵食しながら行き来を繰り返す。意識せずとも、顎を貝瀬の方へ突き出してしまう。  彼は手を止めない。指先で耳に沿ってくるりと触れ、耳たぶを親指と人差し指と中指で産毛まで感じているように優しく揉みほぐす。十分に耳が熱を持った後、拡散させるように指全体を首筋にぺたりとつけて這わせ始めた。鼓動がどくどくと大きな波となって全身に響く。 「はっ…ん…」  疑う余地もなく、性的に高められていた。腰はすでにじっとりとした熱を抱えている。 「俺はね、好きなものに対しては貪欲で、気持ちのいいものには理性で抗えないんだよ。いいか悪いか、判断する前にもう触ってる。途中でやめたりしないよ」  頸動脈の薄い皮膚の上に指を置きながら何を言い訳がましいことを言っている。『止めるなら今だ』という意味で言っていることはすぐに分かった。こんなところで止めるきっかけを探しているのかと思うと苛立った。  誰にも晒されていないもっと細やかな張りのある肌を、あなたはもっと触りたいはずだ。貝瀬の大きな手に自分の手を重ね、首筋を通って胸元に向かって誘導する。 「やめなくていい。もっと俺に触れたくはありませんか?表に晒していない部分はもっとずっと触り心地がいいですよ。もっと好みの手触りがあるかもしれない」  目元が笑って、動いたのは指先ではなく彼の顎先だった。濡れた唇が鎖骨の間に触れた。唾液を広げきゅっと吸い付かれる刺激に胸を反らせる。小さなキスを繰り返しながら喉元を辿り、顎を伝って、やっと唇が甘やかな感覚で満たされた。  いつも見ていた唇は思ったよりも柔らかく、熱を持っている。自分で誘っておいて、全く予期していなかった行為に頭も体も追いつけない。指先よりも乱暴な唇に喰まれると、視界が霞がかる気さえする。 「やっぱり手触りのいいものは向こうから誘ってくる」  顔を間近に寄せたまま囁かれ、その色気にくらくらした。  貝瀬の人差し指が唇に当てられ、感触を辿るように左右にゆっくりと動く。口を薄く開けて隙間から舌を突き出し、舌先を小さく上下させてその皮膚を舐めた。 『よくできました』と言わんばかりにやわからく笑いかけるから、今度は指の節に沿って横に舐めた後、ぱくりと口に含み唾液で濡らした。貝瀬の指の形を記憶するように舌で観察し、口内で転がし、やわからく歯を立てて固定して舌先で撫でた。この指がうっとりとするほどの刺激を与えるのだと思うと愛おしく、いつまでも離したくなかった。  指がゆっくりと抜かれると、代わりにちゅっと軽い音を立てて唇が落とされた。 「店閉めてくる」  そう言って貝瀬は立ち上がった。

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