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ふれて〈8〉

 かくして、渉には骨董屋の恋人ができた。あの時点で『交際』など全く考えていなかったが、恋人は案外古風な考えらしい。 「こういうことは、俺、ちゃんと付き合う人としかしないから」 「えっ?まだセックスしてないのに。体の相性とか悪かったらどうするんですか?」 「子供が生々しいこと言うなよ」  まだまだ『子供』だと思っているのに付き合うつもりなのかと問い正しそうになったが『じゃあやめる』などと言い出しては困るのでやめた。 「子供じゃありませんよ。付き合う以上は対等ですから」  そうだなと、貝瀬は目を細めて蠱惑的なしっとりとした笑みを渉に見せた。  ふたりはまだ最後までコトを成していない。  あの後貝瀬は渉の手を取り、初めてカーテンの向こうに引き入れた。普段寝ているという革張りのソファーに深く座り込むと、向き合うようにして渉を自分の膝の上に跨らせ、すぐにTシャツの裾から手を差し込んだ。  身体中をするすると這い回る今までになく欲を持った手に、渉は息づかいを乱す。ため息に混じらせ声を上げ、あまりの快感に朦朧となり、貝瀬にしがみつく以外のことができない。貝瀬は唇以外にも襟元に胸元に脇腹に、あちこちキスを降らせた。  こんな状況で溶け出す腰に気づかれないわけはなく、とろめいたものをボトムスから事もなく引き出され、丁寧に擦りあげられ貝瀬の手の中を白濁で汚した。 「そういうのは問題ない。これから楽しいことが山ほどできるだろ」 「なんか…貝瀬さん、エロい…」 「おまえの体が誘うんだよ」  こういうことを素でさらっと言うから手に負えない。あっさり恋人認定しておきながら、同性が相手になるのは初めてと聞き、また驚く。『触り心地が良ければ、女か男かは二の次』などと恐ろしく大雑把なことまで言う。  繊細な指使いと気質、それとは真逆の豪快な性格に惹かれたのかもしれないが…。  本当は、こんな貝瀬が我をも忘れて心を乱すところを見てみたい。抗えない感情や衝動に歪む顔が見たい。渉の方こそさらっと涼しげな顔をしながら心の奥底には熱を隠す、意地悪な恋人だ。 「初めてで、男相手にヤれるんですか?」 「俺は愛せるねぇ。こんな触り心地よくて、可愛い男」  あっさり答え、もう指は鎖骨の上をなめらかに滑っている。その手に体の芯まで溶かされる。今はその手が先の快楽を与えてくれることを体は知ってしまっている。 fin. 2016 春 2017 冬 改稿  ここまでおつきあいくださり、ありがとうございました。 「ほどけて」に続きますので、よろしくお願いします。 花緒 すず

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