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ほどけて〈4〉

「えっ?どうして?」 「全く反省してませんね。あんなのじゃ俺の身が保ちません。第一大人のやることじゃないでしょう」 「わかったよ。…反対に客がいない時に見えてるところは触りまくっていいってことだな」  瞳にたっぷりと色気を漂わせ、こちらを見据える、この目に弱い。 「…たとえば、その薄い瞼、頬、うまそうな唇」  目を細め、わざとゆっくり言いながら、渉のひとつひとつのパーツにじっとりと視線を這わせていく。 「皮膚が薄い喉、鎖骨、綺麗な襟足…」   熱っぽい眼差しに焼かれ、貝瀬に触れられることを想像し、渉はこくんと息を飲んだ。愛おしくてたまらないというように触れられたら、どれほど甘美だろうか。 …ダメだ。それじゃ今と変わらないじゃないか。心を強く持とう。 「やっぱり営業中は『手のみ』とさせて頂きます」 「えーっ」  貝瀬の子供っぽい不服そうな表情にくすくすと笑う。 「店が閉まってれば、いくらでも触っていいですから」  目がキラキラと輝いている…ように見える…そんな貝瀬を見ながら、ふと途切れた会話を思い出す。  同性であることを気にしているのが意外だった。ちゃんと付き合わないと嫌だとか言うから、まさかそこで停止しているとは思いもよらなかった。『ごめん、わかった』って返事は先に進もうという意味なのだろうか。  いつも貝瀬に体のあちこちを触られ翻弄されるばかりで、まだ素肌を合わせ抱き合ったことすらない。  渉は男を性的対象として見るのは初めてなのに、全く戸惑いなく貝瀬を受け入れたいと思っている。行為のやり方をこっそりと調べるだけで妄想は膨らみ、体の中から貝瀬に触れられるのはどんな感じだろうと想像してはひとり体を熱くしている。  貝瀬が魅力的な男であるにしても、元々ゲイでもないのに男に抱かれたいなどと突然思う自分は普通ではないのだろうか。付き合い始めたと言っても、一線を越えるには抵抗があるものなのかも知れない。  触れられるばかりではなく、貝瀬に触れてみたい。切なさ溢れかえる表情を見てみたい。その気持ちは募る一方だ。 「今日店閉めた後、俺のうちに来ますか?」  付き合い始めてから閉店後に店の奥のソファーで触れ合ったり、近くに食事に行ったりするくらいで、貝瀬が渉の住むマンションに来たことは一度もない。 「もうすぐ買い付けに出るから、それまでにやっておきたいことがあるんだ。戻ってからにするよ」  さらりと断られたショックを、ちょっとはにかんで笑って流す。 「しばらく会えませんね」 「おまえ、ちょっとは勉強しろ」  遠慮なく人の髪をくしゃりと乱し、これ以上ないというほどの親しみを込め恋人は渉に笑いかける。それですべての身勝手さを許してしまえる。

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