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 雲ひとつない空から照りつける日差しは、遮るもののない住宅地の長い坂道をじわじわと焼き付ける。アスファルトから反射する熱は、サウナのような空気を生み出している。そこに追い打ちをかけるように、蝉の声があちらこちらからジリジリと聞こえてくる。  真夏の地獄のようなこの坂道を、かばんと一眼レフカメラを肩に掛けた白いTシャツとベージュのズボンの青年──麻生奏が、全身汗だくになりながら歩いている。猫背気味に上体を少し前に倒しながら息を切らしている。  ただでさえ息が切れる坂道であるにも拘らず、この暑さだ。相当辛いものだ。  それでも彼は、ただ目的なく歩いている訳ではない。  彼の歩く道の先には、大学のキャンパスがある。夏休みのため授業はないが、様々な理由により用事がある人はいる。彼もその一人だ。  奏が所属する写真部は学内でかなり活動的な部活で、学内外で定期的に展示活動を行っている。それ以外の活動もあり、今日はその話し合いのために学校へ向かっている。  ようやく坂道を登り終えると、直線の道の先には校門が見える。奏は休むことなく歩き続け、学校へ向かう。  その間にも日差しは奏に直撃し、だらだらと垂れる汗が全身を濡らしていく。しかし、そんなことを気にしている様子を見せず、拭う素振りは一切ない。  平らな道になったおかげか、奏の足取りが少し軽くなったようだ。速度を上げて学校へと近付いていく。  大きな門のある家の前を通り過ぎ、道路を横断する。校門をくぐると、ようやく学校の敷地内へ入った。  はぁ、と一息付くと、再び歩き出して目的の建物へと向かう。
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