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第4話

佐助は人里から離れた山奥の掘っ立て小屋に、老婆と二人で暮らしている。 もうかれこれ6、7年ほど経つはずだが、最初の頃の記憶は幼すぎるので定かではない。 老婆に聞いたところで、返事は返ってこないし、他に聞くような知り合いもいない。 佐助は老婆の名前すら知らない。物心ついた頃に尋ねたが「(ばあ)でよい」としか返ってこなかったので、ずっと「婆様」と呼んでいる。 実の祖母ではないことは知っている。それは婆様が佐助のことを山の中で拾ったと言ったからだ。 そんなわけで佐助は自分がいくつなのかも知らない。 佐助がもっと幼い頃、婆様は山を下りて里へ行くのに佐助を一緒に連れて行った。 奥深い山の中に子供一人を置いてはいけなかったのだろう。 すっぽり頭を覆うように被せられた頬かむりは、佐助が光を眩しがり、陽にあたるとすぐに赤く肌が腫れてしまう性質(たち)のせいだと思っていたが、それだけではなかったことがじきにわかった。 山で婆様と鳥や獣ばかり見ていたから気付かなかったが、里の人を見る様になって佐助は自分が奇異な見てくれなのだと知った。 里の人はみな土色の肌に黒い髪、黒い目をしているのに、自分は肌も髪も、春の訪れを告げる辛夷(こぶし)の花のように真っ白なのだ。そして、これが一番人を気味悪がらせると後に理解するのだが、眼の色が婆様の言葉を借りると稲穂のような黄金色(こがねいろ)で、瞳の真ん中の皆が一番黒いところが、赤い。 佐助を見た里の人はみな一様に驚いて目を見開き悲鳴をあげ、途端に恐ろしいもの汚らわしいものを見たように顔を醜く引き攣らせる。 「化け物」 「物の怪」 「鬼の子」 そんな言葉で罵られ、近づくなと砂利や石を投げつけられる。 佐助が何度目かに連れられて里へ下りたとき。 婆様が山で採った薬草を他の品に交換するあいだ、「気味が悪いから外に出せ」と言われてひとり傍のあぜ道でしゃがんで待っていると、里の少年達に囲まれた。 皆それぞれに手に木の枝や竹棒を持ち、じりじりと取り囲む輪を縮めてくる。そして、ひときわ体の大きな少年の「物の怪、退治じゃ!」という号令を皮切りに、一斉に殴り掛かってきた。 身を護る術も知らず、恐怖から助けを呼ぶ声すらあげられず、されるがままになっていた佐助は、婆様や大人たちが外の騒ぎに気付いて出てきた時には、傷だらけで方々から血を流しぐったりと横たわっていた。 だが、婆様がその小さな体を抱き上げたときも、周りの大人たちはただ目を背け、誰一人子供たちのしたことを咎めるものはいなかった。     

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