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第63話

ん……なんか今朝は鳥のさえずりが遠く感じる。暗いんは……天気がようないんかな。そろそろ起きて水汲みにいかんと…… いつも目覚めのよい佐助にしては、とろりと甘い眠気が全身に纏わりついている。ぼんやりそんなことを考えながら寝返りを打とうとして体が動かぬことに気が付いた。 あれ? 瞬きを繰り返し、ようやく覚醒してきた意識が背中の温もりに気付かせた。自分の体が背後からすっぽりと大きな体にくるまれている。上半身は腹に回された逞しい腕に抱きしめられ、足もがっしり絡められている。 急にはっきりと目覚めた頭は、昨夜の出来事を脳内に再現しはじめた。 そうじゃった……おら、嵬仁丸様と番になったんじゃった。 胸がいっぱいになるような愛の言葉をくれた嵬仁丸の優しい顔を思い出す。 そんで、おらと嵬仁丸様は、あんなことやらこんなことやらを…… 筋骨隆々とした裸身で自分を喰らい尽くさんばかりの雄の顔を見せた嵬仁丸や、その嵬仁丸に翻弄され痴態を晒し続けた自分のことをまざまざと思い出し、顔がかあっと熱くなる。 顔が熱う……ん?んんん?太腿のあたりも急に熱うなって……えっ、これは。 なにやら熱を持ちむくむくと形を変えつつあるものに気が付くと同時に、つむじのあたりにほわーと熱い空気が当たる。規則的に繰り返されるそれに、嵬仁丸の荒い鼻息だとわかった。 「わわっ、嵬仁丸様、起きとるんね?ちょっ、ちょっと、いかんって!」 腹に回されていた手がいつの間にが胸の方へ這い上がってきてさわさわとしるしを撫でている。 「なぜ、いけない?」 少し笑いを含んだ声がつむじのあたりから聞こえてくる。 「朝じゃから!って……もしかして、今、おらの心を読んどった?」 「ふふ、読まれてまずいことを思っていたのか?そうではない、お前の匂いが変わったから」 うはぁ、おらが発情しとったって?嘘じゃあ、そこまではいっとらんかったはず。ちょこっと思い出しただけじゃもん。けど、そんな僅《わず》かなことも匂いでばれてしまうん?そうじゃったら、やっかいじゃあ……。 っと、それより先にこれを止めんと。 胸を悪戯している手を掴まえた。 「起きよ!いつもの小屋と違うて鳥の声やら光が遠うて気付かんかったけど、もうとっくに日が昇っとるじゃろ?」 「朝から番を可愛がってもいいだろう?」 「だ、駄目じゃ。み、水汲みいかんと!」 嵬仁丸が吹きだした。 「水汲み?」 「おらはいっつも日の出とともに起きて、すぐに沢へ水汲みに行くん。そんで、畑の手入れや水やりをして、よっぽど寒い季節以外はその後に沢で水浴びしてから、朝餉《あさげ》なん」 「だが、お前は私の番になったのだから今日からここで一緒に暮らすだろう?」 嵬仁丸が鼻先をすりすりと佐助の頭に摺り寄せる。 「んー、そんでもおらと嵬仁丸様は食うもんが違うから。おらには畑が必要じゃし、この辺りは坂が急で畑には向いとらんし、何より沢に近いほうが水やりが便利じゃ」 「では一緒には暮らせぬというのか」 むくれたような声を出す嵬仁丸が可愛く思えて、佐助はもぞもぞと体を動かし嵬仁丸と向き合った。 「そうは言っとらんよ?おらには畑が要ると言っただけ。もう起きて、畑と潰れた小屋の様子を見に行かんと。山の主様も夕べの雷や雨のあとを見て回らんならんじゃろ?」 「……ふむ。まあよい。お前を可愛がるのは夜の(たの)しみにとっておこう」 佐助がぽっと顔を赤くするのを見て満足したのか、クスリと笑った嵬仁丸は佐助の額に優しく口付けた。

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