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第64話

洞穴の外へ出てみると、もう日はかなり高かった。 一緒についてゆくという嵬仁丸と共に小屋へ向かう。 「佐助、体は……その、きつくはないか?なんなら、私が抱いて行ってもよいのだが」 無理をさせたと思っての気遣いだろうか? 「ううん。それがなんともないん。むしろ、いつもより体が軽いぐらいなん」 昨夜は疲れ果て、最後は腕すら上げるのも億劫だったのに。寝坊して、たくさん寝たからだろうか。 「それより気になるんは、鳥や獣たちなんじゃけど。なんか今朝はえらいたくさん見かけん?それに皆おらの方見とる気が……そんで、なんか『おめでとう』って言われとる気がするんよ。ふふ、変じゃねぇ。おらが浮かれとるんでそう感じるんかな」 「それは……」 嵬仁丸が手を口元にやり、視線をふいと外す。 「ん?」 「お前から私の匂いがするのかもしれんな」 ええ!?匂いでおらと嵬仁丸様が交わったのが獣たちにばれとるん!?それは、なんかちょっと恥ずかしいやね。 ……いや待てよ?思い返せば、匂いも何も、こちらが近づくより先に獣たちの方からまるで挨拶でもするように、寄ってきたんではなかったか? そっぽを向いたままの嵬仁丸がなにやら不自然に感じる。 「嵬仁丸様?」 「……いや……昨夜、お前が寝落ちた後も、嬉しさのあまり興奮が収まらず……狼の姿になって山を走り回った。それで、月を見たら堪らず……」 「堪らず?」 「お前を(めと)ったことを叫んでしまった」 「ええ!?まさかそれって、あの山中(やまじゅう)に響き渡る遠吠えで?」 こちらの機嫌を窺うようにそろーっと視線を寄越す嵬仁丸が可笑しくて、吹きだした。 「いやまあ……驚いたけども、照れくさいんもあるけども……嵬仁丸様と番になるってことはそういうことやね。みんなの山の主様なんじゃもん」 佐助が怒っていないことに安堵した嵬仁丸は相好を崩した。 「そういうわけでお前の言う通り、皆、私たちを言祝(ことほ)ぎに来ているのだ」 「そっかあ。有難いやね。じゃあ……」 佐助は大きく息を吸ったかと思うと、声をはりあげた。 「みんなー、おらね、嵬仁丸様と番になったん。これからよろしゅうねー」 すっかり開きなおった佐助の言葉が通じたかのように獣たちが飛び跳ね、鳥たちが盛んに囀る。その様子を嵬仁丸は隣で目を細めて眺めていた。

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