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第74話<災い>

いきなり嵬仁丸が隣でがばと起き上がったので目が覚めた。と同時に体が揺れを感じとる。 「嵬仁丸様、また揺れた?」 「ああ。さほど長くは無かったが今までで一番大きい」 さっと狼の姿になった嵬仁丸が外へ様子を見に足早に出ていくのを、慌てて着物を引っ掛け追いかけた。 洞穴の外は一見何も変わりが無かったが、夜明け前にもかかわらず山の獣たちは一斉に目を覚まし不安気に鳴き声を上げ、鳥たちがバサバサと空を舞っている。 嵬仁丸は空に向かって、鋭く遠吠えをした。二つの山の狼たちに周りを見て回り、異変があれば知らせろと言っている。 「今回は里のもんも気が付いたかもしれんね」 「おそらくは。まだ朝餉(あさげ)のための火をおこしていなければよいが。乾いた木で出来た家は容易(たやす)く燃える」 佐助ははっとした。里がどれくらい揺れたかは分からぬが、もし里のあちらこちらで火事が起きて大きな騒ぎになっていたら。目の悪いおしのと膝を痛めている母親はちゃんと逃げられただろうか。 「嵬仁丸様、おら神社へ行って里の様子を見てくる」 もし何か異変があるようなら、里へ下りることもあるかもしれない。これから日が昇り明るくなる。その存在を知られていない嵬仁丸の姿を里の人に晒すわけにはいかない。自分が行くべきだ。 「分かった。まだ揺れが来るかもしれぬから用心をしろ」 佐助が頷いたとき、遠くからいくつかの遠吠えが返ってきた。そのうちの一つがふたりの顔に緊張を走らせた。 『鬼を封じている結界が破れかけている』 こんなときに封じている鬼たちが一斉に飛び出して来たら。 「佐助、私は谷へ行く。狼たちも連れて行くが三日月はお前につける。何かあったら使え」 頷いた佐助が「嵬仁丸様、気を付けて」と首をきゅっと抱きしめると、嵬仁丸も「佐助も」と頬に鼻面を押し付けた。 離れたふたりは、それぞれ反対の方角へ駆け出した。 里の状況は山の平穏と無関係ではない。かつて凶作のおり、里のものが婆様を殺すのも厭わぬ勢いで小屋に強奪にやってきた記憶は佐助の中から消えていない。 山を駆け下りる佐助の横に木立から飛び出してきた三日月が並んだ。 『三日月、お前の群れは大事無かったか?』 『大丈夫』 そんなやり取りをしながら駆け、もうすぐ神社の社殿の屋根を視界に捉えるかというところで、三日月がグルルと喉を鳴らしたかと思うと急に速度を落とした。

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