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御中城様との出会い

天正六年。新年を迎え二十日ほど過ぎたある日。青苧本座衆を管理する蔵田五郎左衛門が一人の童女を伴い実城を訪ねてきた。 「生憎御屋形様は、直江様と柿崎様とお堂に籠っておられる」 応対したのは、御中城様こと上杉喜平次景勝の腹心、樋口与六。五郎左衛門の後方で、三つ指を折り、額を畳に擦り付けながら縮こまる童女に目を遣り眉をひそめた。身に纏っているのは、華やかな金色の刺繍を施した桜色の小袖。恐らく商家のおなご。どこぞかに輿入れするだろうか、それとも・・・。 「蔵田様、その者は?」 じろりと鋭い眼光を五郎左衛門に向ける与六。 「遊女(あそびめ)宿で下男として働いていたもの。なかなかの働き者で、細やかな事にも気が利くとかで、神余(かなまり)殿が、是非とも御屋形様にご献上したいと申されてな」 神余氏は親子三代に渡り京に駐在し、三条西家と青苧役の折衝を努めている。御屋形様の信頼が厚い譜代の家臣の一人だ。 「確か下男と申されたな」 目の前にいるのはどう見てもおなごにしか見えない。五郎左衛門の目がおかしいのだろうか。 「この者は半陰陽に御座います」 表情一つ変えず五郎左衛門が答えた。 「器量もこの通りなかなかですし、遊女として慰みものにされるより、御屋形様のお側にお仕えした方が良いと存じまして」 「御屋形様が女犯なのは?」 「それは重々承知の上。しかしながら数多の小姓を召し抱えご寵愛されているではないですか?末席に加えて頂ければ良いのです」 与六は返す言葉がなかった。御屋形様は無類の大酒呑み。生涯で一度も妻をめとらなかった が、その一方できやもしなる若衆(スリムで美しい少年という意味)が好きという性癖を持っていた。酒宴を度々開いては、小姓らを酔わせ客の前で行為に及ばせ、それを酒の肴にする事も珍しくなく、御屋形様自ら、複数の小姓と交わる事さえあった。 景勝も御屋形様に似て、おなごよりも見目麗しい若衆を侍らせ寵愛していた。お気に入りの若衆を御屋形様に寝取られて以来人が変わってしまった。

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