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御中城様との出会い
「与六!」
今は亡き父に瓜二つである。極端なまでに無口で、殆ど笑った事がない。いつも脇差しの柄頭に右手を添えた姿で無愛想にしている。その主君の顔が嬉しそうに綻んでいた。滅多に見ないその表情に与六の顔が一瞬で凍り付いた。
「なりませぬ!どこの馬の骨か分からぬ者を召し抱えるなど、この与六が許しませぬ!」
「よいではないか、俺が気に入ったのだ」
景勝が珍しく声を荒げた。
「五郎左衛門、この者の名は?」
「名はごさいません。与六殿にも申し上げましたが半陰陽に御座います。おしなので口は聞けませね」
回りの臣下がざわめく中景勝は表情一つ変えなかった。童女の顎に手を伸ばすと強引に顔を上に向かせた。年の頃十四くらい。黒目がちな切れ長の瞳が怖がる様子も見せずじっと景勝を見詰めていた。
「この者を今から俺の側室に召し抱える。名は・・・そうだな・・・お次だ」
しばしの間無言で童女と見詰め合ったのち景勝は、臣下の前で高らかに宣言した。与六はその名前に愕然とした。主君自ら名前の一字を与えるなど、しかも遊女宿で下働きをしていた卑しい半陰陽の者を、側室に迎えるなど前代未聞の
事だった。
猛反対する与六には一切耳を貸さず、五郎左衛門に御苦労と短く告げると、次と名づけた童女の細い手首を掴まえて、そのまま自分の屋敷がある二の曲輪に連れていった。「お藤‼お藤はおるか?」声を掛けると奥から白髪混じりの初老の女性が姿を現した。お藤は幼少の頃より景勝に仕え身の回りの世話をしてくれている。
「お次を頼む」
短く伝えると、再び実城へ駆け戻って行った。次は、その澄んだ瞳で景勝の後ろ姿を何時までも見送っていた。お藤は頃合いを見て次に声を掛け屋敷の中へ招き入れた。
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