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第2話

なんて失礼で最低な僕、何も逃げ出すことなんてなかったのに、僕を苛めるやつでもなかった、僕なんかのためにカバンを拾い泥をはらってくれた。 (あ・・・・お礼・・・・言ってない) 心の中で『ありがとう』と『ごめんなさい』を繰り返し僕はまた人混みへと戻ろうとしたが足が震え人混みを拒否していた。 僕とは全く違う人種、これからきっと関わることは決してない。 そう思ってしまえば僕の中で『逃げる』と言う選択肢が浮上していたのだ。僕は迷わず『逃げる』を選択し本来向かうべく靴箱へ遠回りして向かったのだった。 教室にはすでに数人の生徒がいて、席を離れ友人としゃべり数十分後に控える入学式を心待ちにしていた。 黒板に書かれている席順を確認し自分の席が一番後ろであったことにほっと胸をなでおろし、空気を演じながら静かに席に座りカバンから携帯を取り出した。 画像フォルダを開き僕はどこかで飼われているであろうブチ尾(仮)の可愛い姿を目に焼き付ける。人懐っこくて優しい猫。 (ブチ尾さえいてくれれば・・・・僕は一人でも大丈夫だ・・・・猫耳最高です) 愛くるしいその姿は僕に勇気をくれる。 僕にとっての唯一の友達。息を吐き心の落ち着きを取り戻した時だった。廊下がやけに騒がしく女子生徒の悲鳴にも似た声が鳴り響いていた。 「?」 悲鳴と共に教室に入ってくるのは先ほど僕のカバンを拾ってくれた背の高いイケメンの男子生徒だった。 周りに女子生徒と男子生徒が群がり楽しそうに話しているのだ。僕はすぐに縮こまり机に置いてあったカバンに身を隠した。もう会うこともないと決めつけて逃げてきた僕だけ気まずさを覚えた。 普通なら近寄ってお礼の一つでも言いながら友達になろうと言えばいいのかと考えたが、僕と彼ではタイプも違えば見た目も全く違う。 それこそ月とスッポンレベルだ。机に突っ伏し早く1日が終わればいいのにと考えていると目の前に影が現れた。 「?」 顔をあげて影の正体は何なのかと思い見てみると、そこには先ほど入り口付近で楽しそうにしゃべっていた彼が僕の目の前に立っていたのだ。 「同じクラスだったんだな、カバンの中身大丈夫だった?」 「あ・・・・・・は、い」 目をそらし一点だけを見つめ、僕は固まった。春で少し肌寒いというのに僕の体はしっとりと汗をかき、怯えた。 周りの男子や女子からは「何?友達?」「おとなしいな~、名前なんて言うの?」「なんで敬語?(笑)」なんて、僕の耳にはいくつもの質問が飛び込み処理能力に時間を要した。 何もしゃべろうとしない僕に不信感を得たのか、彼の取り巻きの一人が「何もしゃべらんとか、気持ち悪いな」と言ったのが僕の心にドストライクしたのだ。 なんてことないただの冗談のつもりで言った一言。僕は十分に傷つき泣きそうになった。 「あ、の・・・・すみません」 やっと出た言葉は逃げの一言。 何も悪いことなんてしてないし、されてもない。人間、笑って誤魔化せば何とかなるって言葉は僕の最強の盾となっていた。 ヘラヘラと笑えば皆は蜘蛛の子を散らしたように離れていったがただ一人、最後まで僕から目線を外さなかったのはカバンを拾ってくれた彼、 「俺、谷中隆三。よろしく」 そう言って僕の頭に軽く手を置き、自分の席へと行ってしまった。 頭をなでられたことがあまりにも久しぶりだった僕は、俯いたままため息を漏らし、自身の鼓動を落ち着かせるのに集中した。

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