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第3話
それからしばらくして担任の先生が来て軽く挨拶をし、僕が苦手とする自己紹介が始まった。
出身中学と名前と軽めの挨拶だけの人もいれば、自分の特技を言い実際にする人もいた。
明るくはきはきしゃべる人もいれば僕みたいに不安を感じたどたどしくしゃべる人もいた。
胸の鼓動が最高潮に達した時、僕の順番が回ってきた。焦らずゆっくりと立ち上がり落ち着いて挨拶が出来ればよかった。
僕の理想的な挨拶は最悪なものへと変わる。
「あ、あのっ!げ、げんっ、源道・・・い、郁、です・・・・よ、よろしくお願いしまひゅ!」
突き刺さるような視線が僕を苦しめた。
声は裏返り、それをおかしく笑う人もいた。すぐに腰を落とし俯き熱くなった顔を抑えた。
汗と涙が入り交じり手のひらを濡らす。
僕の真似をして皆から笑いを取ろうとする人もいて僕の体から汗が吹き出し気分が悪くなり吐き気をもよおし口元を抑えた。
先生に保健室に行きたいと言おうにも担任の先生は違うところを見て僕の存在に気付かずにいた。声を出しても周りの声にかき消され意味をなさない。
ここで胃のものをぶちまけては印象はさらに悪化してしまい、僕の居心地は最悪なものとかす。と、そんな時だった。
誰かが僕に近寄り背中をさすったのは。
「源道、大丈夫?」
「ひゃ!」
声の主は背の高いイケメンの、僕の汚いカバンを拾ってくれた彼だった。
「先生、源道の体調が悪そうなので保健室、いいですか?」
「ん?それは本当か?えっと・・・・お前は」
「谷中隆三です、保健室の場所は分かるので連れていきます。式には間に合うよう行くんで」
そう言った谷中君は僕を立ち上がらせ肩を抱き教室を出て保健室まで連れて行ってくれた。
教室を出ていく際、皆からの視線が痛かったが、制服越しで感じた谷中君の体温は不思議と安心できた。
僕の身体を気遣いながらゆっくりと足を進め、何も話さずただ目的の保健室を目指してくれた。
何か話さないと、そう思えば思うほど僕の頭は白紙状態になり黒い染みを作るだけで言葉は出てこなかった。
服の上から胸の辺りをぎゅっと掴み、痛む心臓を落ち着かそうとしたが、心臓の高鳴りは激しさをまし、余計息苦しくさせた。
そんな様子を近距離で見ていた谷中君。
足を止め、僕の膝裏に腕を滑らせ持ち上げた。
「へっ!?」
足が宙に浮き、視界も少しだけ高くなった。
これが世にいうお姫様抱っこ、絶対にすることはないと思っていたことが、されてしまう方になってしまうなんて、考えもしなかった。
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