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第4話

いつも下を見て歩いていた僕には見慣れない光景に驚きながらも不安の波が襲ってきた。 震える僕は咄嗟に谷中君の首へと腕を回ししがみついた。 「大丈夫、絶対落とさないから」 優しい笑顔を僕に向け安心させようとしたのだろうけど、お互いの顔が近い距離にありハッキリと目が合った。 ドキリと心臓が大きな音を上げ、鼓動を速くする。すぐに目を逸らし長い前髪で表情を隠した。対して谷中君は何に驚くことがあったの?という風ににこにこと笑顔を絶やさず、僕を見ていた。 「源道?顔赤いけど大丈夫か?熱?体調悪い?」 僕はその問いかけに何も答えなかった。 しゃべれない程に僕の体調が悪いと思った谷中君は歩くスピードを速め、僕を抱える手に力を込めていた。 (僕は・・・・こんな良い人と関わっちゃいけない・・・・) 谷中君の首に回した手に力を籠め、流れ落ちそうな涙を必死でこらえた。 目をつむっていたせいか、僕はいつの間にか眠ってしまったみたいで、次に目を覚ました時にはすでに入学式は終わっていた。 入学式に出られなかった事を残念に思うことなく、かけられていた布団をめくりあげ、上履きを履き、立ち上がり閉められていたカーテンを開けた。 「あら、目が覚めたのね?体調はどう?入学式、出られなくて残念ね」 「・・・・はい」 僕を一瞬だけ見てデスクへと向き直った保険医。真っ白な白衣を身にまとうその背中に、『やっと起きたか』『初日からサボりか』『仮病か?』なんて言葉が浮かんで見えた気がした。 僕は「すみませんでした」と一言謝り保健室から逃げるように飛び出した。 保健室を出る瞬間に何か言われた気がしたが、一刻も早く抜け出したかった僕は聞こえないフリをしたのだ。 自分は一体どれくらい寝ていたのか、どうして人に迷惑をかけることしかできないのだろうかと悔やみ、下唇を噛んだ。 でも痛みですぐに噛むのをやめおぼつかない足取りで誰もいないはずの教室を目指した。 廊下を進んでいると運動場に設置してある時計が見え、今が13時前だということが分かった。朝8時過ぎから寝始めて、僕は一度も目を覚ますことがなかったことに驚き、そして保険医もきっと呆れていたに違いない。 胸を押さえ心の中で何度も謝った。気が付けば自分の教室を過ぎてしまい慌てて戻り引き戸を引いた。 入学式はとうに終わってしまい教室には引き戸を引いた音だけが寂しく響くはずだった。 「源道」 「・・・・・・え?」 誰もいない教室から僕の名前を呼ぶ声が聞こえた気がした。顔を上げ教室中を見渡すと、廊下側の一番後ろに谷中君の姿が確認できた。 「大丈夫か?」 「な、なんで・・・・?」 入り口付近で動かない僕を見た谷中君は腰を持ち上げカバンを2つ持って駆け寄ってきた。

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