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第5話

「心配だから。もう帰れるの?送ってく」 「へ・・・・?」 僕の心に不安の波が押し寄せてきた。 今日が初対面の見ず知らずの赤の他人に、どうしてここまで優しくできるのか。 こんなちっぽけな僕を助けたところでなんのメリットも生まない。 だから僕は怖かったんだ。 「・・・・やめてよ」 「源道?」 どうして?なんで?何が目的で僕に優しくするのか?周り?皆の目に僕はどう映る?暗くてまともにしゃべることもなく、いつもいつもおどおどしている僕。陰気で弱い僕。そんな僕に手を差し伸べる彼は、今以上の好印象を与えるに違いない。 「そ、ゆーのはいいから・・・・僕にかま・・・・!?」 谷中君の思惑に引っかかってたまるかと思い、断りを入れようとした瞬間だった。 谷中君の手に持つ携帯の画面がチラリと見えたのは。そこまで目を悪くしていない僕の目には大好きなブチ尾(仮)の顔が飛び込んできたのだ。 何度も何度も携帯で撮った写真を見返す日々を送っていた僕にブチ尾(仮)の姿を見間違うことなんて有り得ないことだった。 「ん?源道?」 「あ・・・・あの・・・・その携帯の・・・・待ち受け」 「待ち受け?あーうちの係長?」 「か、かかり・・・ちょう?」 「名前。猫の名前な、係長って言うの。弟がつけたんだけど笑えるよな」 そう言って谷中君は目を細め口を大きく開けて笑っていた。その表情が谷中君らしいというか、誠実そのものを表しているようで、僕の中の何かが弾けとんだ。 「ふふふ、係長って・・・・ふふ、可愛い」 僕は谷中君から手渡された携帯の待ち受けを見ながら笑った。 「笑った・・・・」 「え?」 「源道が笑った。今日1日出会ってからずっと下向いてたから、顔を上げたと思ってもすぐに下むくし。うん、笑ったほうが可愛くていいよ」 「・・・・な」 『可愛い』なんて言葉はもちろん、人から笑ったほうがいいなんて慣れない言葉をかけられた僕は言葉に詰まった。 携帯を谷中君につき返し床を睨む。 少しだけ、ほんの少しだけ頬に熱を感じながら僕は谷中君に「帰る」と告げた。 鞄を受け取ろうと手を伸ばせば谷中君は何を思ったのか僕の宙に浮いた手を掴み、優しく握り返してきたのだ。 「ひゃ!?」 谷中君の大きな手は僕の小さな手を優しく包み込み、「小さな手だな」と優しく笑った。

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