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第7話
抱きしめられたと思えばすぐに体を引きはがし、僕の目の前には目をキラキラと輝かせた子供のような谷中君。
肌にはジワリと汗が滲み、どことなく興奮しているように見えた。
相変わらず手には力が入っていて、僕は痛みで顔を歪めた。そして目の前の谷中君・・・・いや、変態谷中君に僕は力いっぱいのビンタを一発食らわせ正気に戻した。
すると先ほどの目の輝きはなくなり今度は曇り始めた。
「ご、ごめん・・・・ひ、ひいた?よな・・・・」
先ほどの勢いはどこへ行ったのやら、急に大人しくなる変態谷中君に僕は唖然とした。
「俺、可愛いの見たら押え効かなくなるんだ。特に猫。係長なんてツボなんだ。あと・・・・源道、猫っぽいからかな?すんげー可愛いく見えて、つい・・・・ごめんな?」
僕よりも身体が大きい変態谷中君がしょんぼりしている姿がおかしくて、僕は笑いながら「いいよ」と告げた。たったそれだけなのに谷中君の表情に色を灯した。
優しくて誰かを元気にしてくれるような笑顔。僕はいいなと、少しだけ羨ましく思った。
※
まだ空の陽が高いとき、僕と谷中君は一緒に帰りながら猫の話をした。
僕も猫が好きで、特にブチ尾・・・・どこかの飼い猫だとは思っていたが、まさか谷中君の家の子だったとは。
係長のことを話していると楽しくて僕は自然と話ができて笑い合うことができた。
少しだけ怖さが残る谷中君だけど、この後も仲良くできればなと、久しぶりに思えた。この時間がずっと続けばいいのにと思っていたけど、そんなことがこの世の中で叶うことなんてない。
家の前まで送ってくれた谷中君から別れ際にアドレスと電話番号を交換しようと言われたときは驚き、どうしようかと考えてしまったけど、初めてできた猫友達。
僕は考えることを止めポケットに入れていた携帯を取り出し連絡先の交換をしたのだった。
「また連絡するから」
「あ、う、うん・・・・ありがとう」
僕は谷中君が見えなくなるまで、後姿を見送り続けた。すると突然足を止めた谷中君はくるっと向きを変え、引き返してきたのだ。
足早に引き返してくる谷中君。僕は手に持っていた携帯を強く握りしめた。
「ど、どうした、の?」
「あのさ、源道のこと郁って呼んでいい?」
少し照れくさそうに鼻の頭を掻き目線を合わせようとしない谷中君。僕は俯き「いいよ」と返事を返した。
暗い、一人だけの高校生活が少しずつ色を取り戻そうとしていて、僕の鼓動を早くした。
僕は背の高い谷中君の顔が見たくて顔を上げて目を合わす。まだ少し頬を赤くする谷中君が幼く見えて、僕はほっとする。
手を差し出し握手を交わす僕と谷中君。
「「また明日」」
同時に同じ言葉が出た僕たちは、きっと仲のいい友達になれると、この時の僕は浮かれていて傷つくことを頭の隅に追いやり蓋をしてしまっていた。
僕が家に入るまで谷中君は表に居続けた。初めてできた友達。僕は笑顔で扉をくぐった。
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