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ーprologue.ー きっかけ

 ――始まりは、芝崎の携帯電話に飛び込んできた、ある1本のLINEからだった。  この俺、勝又結真(かつまたゆうま)と、俺の隣でにこやかに微笑んでいるこの童顔過ぎる43歳、芝崎護(しばさきゆずる)。  俺達二人は、個人経営のヘアサロンで共に働いている。 そして隣のこの男、実はそのサロンのオーナー兼社長という、この見た目からは何とも信じがたい肩書きがある。俺はそこで彼のパートナーとして、公私に渡りサポートを行っている。    ――そして俺は…彼にとっての大切な幼馴染であり、また現在は、大切な恋人でもある。  彼との初めての出会いは、子供の頃に遡る。 まだ俺が小学生くらいの頃に、彼はある日突然やってきた。  その頃の俺は、毎日繰り返される大人達の隠された闇を見せられ、日々苦しんでいた。 しかし、彼が現れてからはそれまでの苦しみが嘘であるかのような幸せな日々を過ごしていた。…だがそれも長くは続かなかった。  ずっと俺の傍に居てくれたはずの彼は、ある日突然…姿を消した。 そして…俺は再び、大人の闇の中でもがき苦しむ日々を過ごすことになった。  あれから25年――。  時を越えて、ほんの些細な偶然から再会した俺達二人は、共に過ごす日々の中で様々な転機を乗り越え…幼馴染から恋人へと、その立場を一気に変えたのだ。 「護さん。LINE飛んできてますよ」 「ああ、はい。…ああ、みわ子さんからですね」 「みわ子さん?用件は何ですか?…仕事の話かな」 「いや、これは…。違いますね」  俺が渡したスマホを見ていた芝崎の顔が…凍り付いた。 「結真君、どうしましょう…」 「え、何ですか?…護さんが俺にそんな事言うの珍しいですね」 「航太を…預かってくれと」 「航太…?誰です、その人?」 「航太と言うのは…みわ子さんとの間に生まれた、僕の息子の名前です」 「ええええーーーーーーっ!!??」 「…そんなに驚く事でもないと思いますけど」 「息子ってあんた…。俺、初耳なんですけど…!?」 「…すみません。君には特に言う必要もないかと思っていたので…今まで黙ってました」 「いや、別に謝らなくてもいいけど…。みわ子さんから他には?」 「それなんですが…どうやらみわ子さんがインフルエンザでダウンしてしまったらしいんですよ。…それで、来週に高校受験を控えている航太を、僕の方で一週間ほど預かってくれと」 「一週間!?…まあ確かにインフルエンザなら仕方ないか…っておいちょっと待て。…高校受験って、あんたの息子いくつだ!?」 「15歳ですよ」 「…悪い。聞いた俺が馬鹿だった」 「結真君…どうしましょうか」 「どうしましょうも何も、状況的に預からなきゃ駄目でしょ。みわ子さんがインフルでダウンしてるって言うんなら、それこそ今うつす訳にいかないでしょうが。こっちの店舗はともかく、2号店も今はみわ子さんと藤原しか居ないんだから、向こうの店舗営業の事も考えなきゃだし…。しかも、その子が今まさに高校受験を控えてるって言うんだったら尚更ですよ?」 「ですよね…」  「そんなの考えなくても分かってるでしょ。…なのに護さんが悩んでるのは何故?」 「…君と二人だけでいられる時間が無くなるのが淋しいです」 「はあ!?この状況で何すっとぼけた事言ってんだよ、あんたは!」 「航太が居れば、僕たち二人がベッドを共にすることも出来ません」 「当たり前だろそんなの」 「…僕は毎日でも君が欲しいんです。こうして話をしている今だって、結真君の唇が欲しい」 「…言ってろ、この天然色ボケ親父!!」  想いが通じ合ってからというもの、芝崎はいつもこんな調子である。 もちろん、仕事の時はちゃんと仕事モードになってくれてはいるが、以前より冷たさが無くなってきた感じがする。しかもこれみよがしに客の居ない隙を見つけては時々キスを求めてきたりするものだから、仕事に集中したい俺はいつも踏んだり蹴ったりだ。  とは言え、今回は状況が状況なのでみわ子さんが快復するまでの間、俺達は自分達の店舗を休業して、芝崎の息子である航太を預かる事にしたのだった。  

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